「マタニティハラスメント」

第104回2015/05/18

「マタニティハラスメント」


「マタニティハラスメント」

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皆さまはマタニティハラスメント、略して「マタハラ」という言葉をご存知でしょうか。
最近、メディアでも取り上げられ、耳にすることが多くなったこのワード。筆者である私も女性として直面する可能性があるということもあり、この問題は興味深く捉えています。
今回の人事コラムでは「マタハラ」とは一体どのような事なのかをお伝えしたいと思います。
働く女性のみなさんはもちろんのこと、女性従業員が勤務する会社の男性の方々にもご一読頂き、この言葉が抱える大きな問題点について少しでも考える機会となれば幸いです。


マタニティハラスメントとは?
日本の三大義務は教育、納税、勤労。
世界三大美女はクレオパトラ、楊貴妃、ヘレネ。
世界三大珍味はキャビア、トリュフ、フォアグラ・・・と、私の中で三大○○というと比較的明るいワードを思い浮かべますが、昨今、日本では三大ハラスメントという言葉が出回っています。
その三大ハラスメントとは、セクハラ、パワハラ、マタハラと略され、セクシャルハラスメント、パワーハラスメント、マタニティハラスメントの三種です。
ハラスメント(Harassment)とは社会生活における様々な場面での『嫌がらせ、いじめ』のことであり、いずれも他者に対する発言・行動等が本人の意図には関係なく、相手を不快にさせたり、不利益を与えたり、脅威を与えることを指します。
今回取り上げている「マタニティハラスメント」は、職場で起こる妊娠・出産をした女性に対する嫌がらせのことです。
男女に関わらず、職場にいる妊婦に直接嫌がらせを言ったり、そういった行為をしたりする他、妊娠を理由に自主退職を強要する、育児休暇を認めない、はたまた妊娠しないことを雇用の条件にするといった行為などが含まれます。


マタニティハラスメントの当事者による経験談
では実際に当事者はどのような嫌がらせ行為を受けているのでしょうか。大半を占めているのが、精神的な嫌がらせによるものです。
「妊娠したのならこの仕事を続けるのは難しいでしょうね」、「今まで妊娠した人はみんな辞めていますよ」という妊娠を認めずに自主退職を促す言葉や、「残業はできない、休憩時間を増やしてほしい等の特別扱いはできないよ」という時短勤務の拒否といった言葉の数々です。中にはより卑劣な言葉を浴びせ、これが引き金となり切迫流産に陥っている方もいます。


私はキャリアアドバイザーとして多くの方々の相談を受けてきましたが、これまでのキャリアカウンセリングの中でマタハラの被害を受け退職を余儀なくされた、という方がお二人いらっしゃいました。
Aさんは30代前半に第一子を出産することになり、当初育休取得の方向で話が進んでいたものの、育休間近にして「復帰後のポジションはないので異動となる」と告知をされたことがきっかけで退職をされました。
Bさんは現在20代後半の方ですが、「結婚や妊娠をしたら辞めてもらう」と勤務先の社長に言われたとのことで、転職のご相談に来られました。
お二人とも仕事や会社が本当にお好きで、それぞれの職においてスペシャリストとしてキャリアを積んでこられた方々でした。「結婚や出産」という誰しも起こりうるライフイベントをきっかけに、仕事を続けることが出来なくなるという経験談を聞き、私も胸が痛くなりました。


なぜマタニティハラスメントは起こるのか?
マタハラが起こる要因として、下記の2つが考えられます。


1.妊娠・出産への知識・理解不足
2013年5月に行われた連合非正規労働センターによるマタハラに関する意識調査の報告書では、なんと働きながら妊娠した女性のうちの4人に1人がマタハラの経験者であるとわかりました。
調査によると、職場でマタハラが起こる理由としては「男性社員の妊娠・出産への理解不足・協力不足」が半数を占めています。男性は出産を経験することができないので、なかなかイメージが湧かないというのは事実ですが、それ故に理解不足に繋がっていると考えられます。安定期に入ってからも妊娠中は悪阻や貧血、めまいといった諸症状が起こってしまうのですが、そういった事がわからないと理解しづらいのでしょう。男性だけでなく「出産を経験したことのない女性社員の妊娠・出産への理解不足」についても問題となっているようです。


2.日本に根付いた価値観
二つの要因がありますが、一つは、夫は外で働き、妻は家事・育児に専念するという典型的な「性別役割分業」という考え方です。
2014年10月に男女雇用機会均等法が改定され、社会における女性の活躍が以前よりも認められ始めてきたように思えますが、まだまだ認知度が低いのは事実です。
もう一つは「長時間労働」を良しとする文化です。
長時間働いてこそ仕事をしていると評価される風潮が根付いており、短時間で成果をあげても余り評価をされないという事が日本ではまだ多くみられます。そういった考えの下では、妊娠や出産を機に時短勤務を望む女性は非難されがちです。
また、時短勤務者をカバーするために負担が増えた同僚たちの怒りのほこ先が、会社に対してではなく、対象の女性に向いてしまうケースがあり、マタハラがエスカレートするという負のループを引き起こします。
上記2つの価値観は高度経済成長期に日本社会に根付いたものであり、現代にも続いているのが事実です。


日本で行われているマタニティハラスメントへの取り組み
日本でマタニティハラスメントの解決に向けて全力で取り組んでいらっしゃる方の代表に、小酒部さやかさんが挙げられます。
小酒部さんは「マタニティ・ハラスメント対策ネットワーク(マタハラNet)」の代表で、2015年3月に日本人で初めて米国務省から「国際勇気ある女性賞」を受賞しました。
自身の妊娠をきっかけに上司から退職を促され、切迫流産になり退職に至るという悲しい過去をお持ちです。自身のご経験からマタハラNetを設立し、問題解決に向け尽力されています。
マタハラNetの位置づけとしては、(1)マタニティハラスメントに対処するための情報を提供すること、(2)マタニティハラスメントの問題意識を広め、解決を後押しすること、(3)マタニティハラスメントの防止策として、法令の遵守、長時間労働の見直し、ダイバーシティの推進等を働きかけることの3つであると記載されてます。
※マタハラNetより:http://mataharanet.blogspot.jp/p/blog-page_23.html


マタニティハラスメントに対して企業・周囲が出来る取り組みは?
職場でのマタハラ問題は妊娠・出産中の女性のみならず、これから妊娠・出産をする女性従業員達のモチベーションの低下という意味でも大きな影響を与えるでしょう。
周囲からの理解が得られない職場では、肩身の狭い想いをすることを懸念して妊娠・出産を躊躇したり、この会社では長期的なキャリア形成ができないのではないかと転職を希望する方が増えてしまいます。
最近キャリアカウンセリングに来られる女性の転職理由の中に、産育休制度の運用実績が無いことが不安という意見も耳にします。
企業は採用から教育研修を行い、従業員が一人前になるまでに多大なコストを要します。
妊娠・出産後に退職をさせ、新しい人材を一から育成することは企業にとって大きなデメリットと言えます。
そういった観点から見ても、企業としてマタハラ防止への意識を社内に浸透させる必要があり、経営上の問題としても大きなことであるといえるのではないでしょうか。
また、マタハラが発生することで受ける企業側のリスクとして、風評リスクがあります。
一件でもマタハラ問題が起きると、社内だけでなく社外にも企業に対する否定的な評価や評判が拡散し、企業への信用やブランド価値の低下を招き、大きなリスクを負うことになる可能性があります。


マタニティハラスメントを防止するには
では、マタハラを防止するのはどのような対策を取れば良いのでしょうか。
色々な対策が考えられますが、私の見解としては、企業ができる策として(1)業務をカバーする同僚達の評価を引き上げる、(2)有休や特別休暇を与える、という対策が良いのではないかと考えています。


妊婦が休暇を取ることによって他の方々に課せられる業務ボリュームが増えることが職場の不満に繋がるのであれば、不満が少しでも軽減するようにその分の手当を付与したり、昇級・昇格に繋がる一要素として認識をすることができれば良いのではないでしょうか。"持ちつ持たれつ"の関係を構築し、補い、助け合うことができれば双方にとっても働きやすい環境が整っていくのではないかと考えます。
キャリアカウンセリング時に聞いた人事をしている女性の方のお話ですが、その方はマタハラ問題解決の糸口となるような様々な取り組みを企業で取り入れているという事でした。
マタハラ防止の具体的な例として、育児休業や復帰し易くなる制度作り、管理職だけでなく職場全体の意識改革のための勉強会、ご自身も含めた育児経験者のロールモデルを作ることなどが挙げられます。


このように人事部が中心となり、会社全体への啓蒙活動を行うことは重要な時間になるのではないでしょうか。


まとめ
私も社会人になってからの数年間、仕事を通して少しでも社会貢献をしたい、自分自身の価値を高めていきたいと考えてきましたし、この先迎えるであろうライフイベントがあっても、このような想いで働き続けていきたいと考えています。
しかし、マタハラはそういった気持ちや姿勢を阻止する外的要因となり、このような現象はとても残念で悲しいことだと思います。


マタハラは女性社員が働く職場であれば、どんな企業でも起こりうることです。
この問題を真摯に受け止め、解決に真剣に取り組むことが必要であると思います。
今回このようにマタハラについて考えた際、問題解決のその先には「より良い働き方」が見えるような気がしました。心身ともに健康であれば最高のパフォーマンスができる確率が高まります。
「長時間労働」という日本特有の勤務体系や「性別役割分業」のような価値観が見直されることで、ワークライフバランスを取ることが従業員の能力を最大限に発揮させる方法だという考えに繋がれば良いと思います。
その上で、やはり男女雇用機会均等法の周知や、それに基づいて企業側としての対策がなされ女性も男性もよりイキイキと活躍できる環境が増えること、マタハラに限らず、あらゆるハラスメントが無くなり、ノーハラな世界になることを切に願います。
働く女性の一人として、私も知識や理解を深め、より一層思いやりの心を持って接していきたいと思います。このコラムを通して、皆さまにとって少しでもマタニティハラスメントについて考える良い機会になれば幸いです。

 

(文/キャリアアドバイザー 佐野めぐみ)

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