3分でわかる最新人事コラム

第25回2007/01/18

「教育・育成」

経営資源の少ない中小・ベンチャー企業では、
「人」という経営資源を有効活用することが必要です。
なぜならば、モノや金には一定量に対してもたらされる価値に限界がありますが、
「人」即ち社員は、同じ人数であったとしてもその能力・スキルを伸ばすことによって、
会社や顧客にもたらす価値を大きく伸ばしていくことが可能だからです。


但し、逆に言えば上手く運用しなければ、
本来もたらしてくれる価値から程遠いものしか得られないこともありえます。
人材力が企業経営の方向を大きく左右する以上、人材教育というものは、
個々人のスキルをやみくもに伸ばせば良いというものではなく、
あくまで会社経営の一環として考えていく必要があります。


今回は教育・育成というテーマに対して、
実施する上での持つべき視点・目的・意義にフォーカスして考えていきます。


1.企業価値向上という視点からの「教育」 

企業経営の目的は、その事業を継続することです。
事業を継続するには常にその事業を拡大もしくは維持し、
利益を生み出していかなければなりません。
「教育・育成」も企業経営の一手段であるならば、
まずはこの視点から考えていく必要があります。


まず、業績の拡大を考えるにあたっては、売上高や利益率という指標があり、
さらには販管費や新製品開発コスト、在庫回転率、債権回収率、キャッシュフロー、
営業一人あたりの売上高といった数値があり、この中のどれを改善するのかを考えます。


また、企業には必ず「顧客」が存在する以上、
顧客に対してはどういった価値を生み出せばよいか、も考えなければなりません。
顧客に対しての価値というのは、例えばブランド力、
提案力、サービス・品質の良さ、スピード、価格、などです。


次のステップでは、その指標改善、価値向上を目的として、
研究開発、調達、生産、販売・サービス提供といった各業務プロセスの中の、
どこを強化していかなければならないのかを検討します。
またその強化の方向が、スキル・ノウハウ的なものなのか、
意欲・モチベーションなのか、を考えます。


これらを経ることによって、どの部門に対してどういった内容の教育をすれば良いのか、
が明確となり、より企業経営に対して効果のあがる教育プランを立てることができます。
例えば、インターネットサービスを提供する企業において
業績の伸び悩みが問題となっている場合、
財務指標や社員意識調査、消費者アンケートなどを分析した結果、
その要因が既存会員へのフォロー体制が悪く顧客満足度が低いため、と出たとします。
とすれば、技術者のレベルを上げて新しいシステムを作っても、
または販促部隊を強化して新規会員を増やしたとしても問題解決にはならず、
解決のためにはカスタマーサービス部門の人員に対して
接客力強化のための教育をすればよい、ということになります。


2.組織と「教育」 

既に組織の完成している企業においては、
その組織そのものが人材育成に大きな影響を与えます。
その組織の目標が個人の目標を定め、明確にされたミッションが行動を促し、
蓄積されたノウハウが品質を高め、整った評価制度がモチベーションを与え、
マネジメントが人的資源を最大限に発揮するよう動くからです。


しかし未成熟の企業では組織ができていない以上、
目標設定力、行動力、品質、意欲といったものは、社員個々人の能力に委ねられてしまいます。
一般に「教育」と言えば技術スキルや営業力を高めるといったものが連想されがちですが、
本来であれば「組織」が社員にもたらしている様々な面も考慮し、
自社の組織の現状がそれに足りないのであれば、それを補う教育を施していくことが必要です。


また、個々人の力をいかに発揮するかという主題と同時進行で、
「強い組織作り」をテーマにした教育も必要となるでしょう。
この視点無くしては、例えば時間とコストをかけて高い技術力を身につけさせた社員が
他の会社に移ってしまったり、一人ひとりの意欲・能力は高いものの個人プレーヤーばかりで
互いに足を引っ張りあってしまう組織ができあがってしまったり、といった現象が起こりえます。


具体的な策としては、階層別研修なども良いのですが、
ベンチャー企業においてはやはり「ビジョン共有の場」を設けることです。
自分たちの会社が何のために存在しているのか、
それに向けていまこの会社はどんなステージにあり、
どんな方向に向かっていこうとしているのかを、
トップ自らが社員に直接伝える場を定期的に設け、意識の共有を図っていきます。
それによって、社員個々人も自分の存在意義・ミッションが明確となり、
意欲が高まり、社への帰属意識も高まっていくことでしょう。


3.採用と「教育」

人材力強化という視点に立って教育・育成を考えるには、
採用というものも合わせて考えていかなければなりません。
これらは組織作りにおいてもコスト面においても、密接に関係してくるからです。


ベンチャー企業においてはよく
「教育・育成に時間とコストがかかるから
即戦力の人材を中途採用で確保したい」という声を聞きます。
即戦力人材であれば極論すれば入社翌日から業務に取り組んでもらえ、
パフォーマンスを発揮し、教育コストもかかりません。
持てる時間とお金に制限のあるベンチャー企業では当然まずは検討すべき選択肢です。

 

しかし、人材マーケットが活況を示す中で、
優秀な人材の確保には大手企業でさえ苦労しているのが現状です。
欲しい人材と出会う機会はそう多くは無く、また採用そのものに多大なコストがかかります。
また、前章でも触れたように、
せっかく採用したとして会社にしっかりとコミットメントしていなければ、
またすぐにどこかに移って行ってしまう可能性もあります。


一方、新卒もしくは第二新卒採用に代表されるいわゆる「ポテンシャル採用」においては、
コストが比較的少なくすむことと、
それに教育を与えることによって優秀な人材に育つ可能性を高め、
会社にしっかりとコミットメントさせ、将来の幹部候補として期待していくことができます。


もちろんそれにかける時間とコストは決して低いものではないですが、
いたずらに困難な即戦力人材の採用に動くよりも、
結果として時間・コストが少なくすむことも考えられます。
しかし教育が上手く行かなかった場合は、
未熟な、能力の低い社員ばかりが大量に発生してしまう面も持っています。


これらのメリット・デメリットをそれぞれ検討した上で、どういった層を採用するのか、
またそこに対してどういった教育・育成プランを練っておいたらよいかを考える必要があります。
安易な即戦力採用は結果としてコストがかさみ組織を崩壊させ、
また教育体制が整わないままの安易な未経験者採用は組織を弱体化させ、
やはり結果としてコストがかかってしまいます。


4.リスク管理と「教育」 

教育・育成を考える上で、もう一つ必要となる視点が、リスク管理です。
個人情報保護や製造物責任、環境問題など、企業の社会的責任が強く叫ばれる時勢となり、
これらの課題は、社長個人の意識がどんなに高くとも、
会社として組織としてどれだけ体制を整えていたとしても、
最終的には社員一人ひとりがしっかりとした認識を持っていなければ実施できないものであり、
ひとたび問題が発生すれば経営全般に大きなダメージを与える性格を持つものです。


例えば個人情報が大量に流出してしまった企業や、
大量の製品の回収を行わなければならなくなった企業などが
最近よくニュースの話題にもなりますが、
これらのほとんどが現場の一社員の不注意もしくは油断が原因となっています。


ですから、リスク管理については「現在問題が起こっていないから」
「ウチの社員に限っては大丈夫」ではなく、常に最悪の事態を想定し、
それを社員一人ひとりに徹底して認識をさせていかなければなりません。


5.人材教育ポリシーの策定 

実際にどんな教育をしたら良いのかはその企業の現況、
抱える課題、マーケットの動向により様々です。
また様々な教育手法・ツールが世の中に広まっており、
そのどれが効果的なのか、の判断に迷うことも多いかもしれません。
ですので、まず必要となるのは
自社の強み弱みがなんであるのかをしっかりと把握することであり、
そこに対して人材面からはどういった対処が必要になるのかを考え、
ゴール地点を決めるという、いわゆるポリシー(方針)の策定を行うことです。


方針をしっかりと定めることができればそれによって育成する部署・人員、
教育期間、手法を検討することができ、あれやこれやといろいろな教育を試した挙句、
効果がまったく出ていない、という事態を避けることができるはずです。


6.総括 

冒頭でも述べた通り、ベンチャー企業においては、
貴重な経営資源である人材を如何に教育・育成し有効に活用していくかが重要です。
一方でその教育・育成には、コストと時間というやはり貴重な経営資源を投下しますので、
その選択・実施には慎重な検討が必要です。


教育・育成を、管理費の増大といった「コスト」ではなく事業拡大のための「投資」と捉え、
1~4章で述べてきた視点を持ち、5章の通りポリシーをしっかりと定め、
そのパフォーマンスを最大限に発揮できるようになれば、
限られた経営資源の中でもきっと大きな成果を挙げることができるはずです。

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