「社員が会社を辞める理由」~現職でやり尽くした~

第43回2008/08/06

「社員が会社を辞める理由」~現職でやり尽くした~


「社員が会社を辞める理由」~現職でやり尽くした~

社員が会社を辞める理由の中に、「現職でやり尽くした」という意見が多く見られます。
現職ではこれ以上得るものがないと感じる背景にあるのは、
社員自身にとっての『キャリア』です。


『キャリア』という言葉が、日本で頻繁に使われだしたのは、ここ十年未満くらいのこと。
インターネットがブームになり、転職市場が活発化するにつれ、
世の中には『キャリア』という言葉がよく聞かれるようになりました。
キャリアプラン、キャリアパス、キャリアアップ・・・
そもそも今日で使われている『キャリア』とは、一体何を指すのでしょうか。


今日で言うキャリアとは、「継続して努力する結果に得られる、
生涯におけるさまざまな仕事経験」を指します。
戦後の日本企業には「社員の仕事内容やキャリアは会社が決めるのが当たり前」
という伝統的な考え方がありましたが、昨今は若者を筆頭に、
自らキャリアプランやキャリアパスを描いて転職をする人が圧倒的に多くなっています。
キャリアプランとは、自らの職業生活における将来の目標やゴールを設定して、
それを実現するために計画を立てることをいい、
キャリアパスとはその目標に向かう過程を指します。
そしてその過程を一つ終えて次のステップに進むことをキャリアアップといいます。


今回は「社員が会社を辞める理由」の一つである、
「さらなるキャリアアップ」という動機について考えていきます。


かつての日本的経営の伝統と変化 

まだ日本が長期雇用を当たり前としていた時代、長期にわたって社員を雇用することから、
会社都合による能力開発の目標設定(つまりキャリアプランの設定)が行われていました。
いったん雇用されると定年まで在職するため、身分的な安定感の獲得維持と、
長期的な能力の開発と最適化が必要であったためです。
個人への細かな配慮(これは身分維持のためにこそされるべきものです)より、
企業そのものが長期に競争力を維持することが
何よりも大事であるという発想が根底にはありました。
こうして日本企業は発展し、
その過程で世界に発信できるだけの様々な労務管理手法を作り出してきました。
年功制賃金体系、退職金規定、人事考課の手法、
全て長期雇用を前提に組み立てられていたのです。
今日の『キャリア』を取り巻く環境と大きくギャップがありますが、
これは決して誤っていたということではなく、
時代の必然であったという認識をすべきなのでしょう。  
しかし今や完全にそうした時代は過ぎ去りました。
現在、上場企業の約半分が年俸制を導入し、
退職金制度の弾力的な運用が徐々に増えています。
長期雇用によるメリット全盛から選択的雇用により、現在の労働そのものに対する評価を行い、
報酬を決定するという姿勢を時代は求めています。その変化の根源となるのは、
社員の『キャリア』に対する意識の変化なのです。


働く意識の変化 

日本が米国から学んだ市場万能主義経済と成果主義は
昨今の雇用環境の激しい変化をもたらしました。
それに伴い社員(とかく若手)は、
自分の職業生活設計(キャリアプラン)を会社に委ねるのではなく、
「自分らしく生きたい」、「やりがいのある仕事をしたい」、
「専門的な技術・スキルを身につけたい」と考えるようになりました。
職務を遂行する前提となるのは自己実現であり、
さらには自己責任の下でという原則が成り立っています。
彼らは、自分が成長することに貪欲であり、
早く戦力になって結果を出したいという「成長実感」を激しく求めています。
世の中では「就社」ではなく「就職」をすることは、もはや当たり前となっており、
会社をあくまで自己実現のためのキャリアパスとして捉え、そのために自己責任原則の下に、
現在の職業を「次のステップまでの布石である」と心得て働く人が増えてきました。


キャリアアップとは 

「キャリアアップ」が具体的に指すものは多岐に渡ります。
例えば、新しく資格を取得することもキャリアアップへつながります。
また、新たな職場に転職することで、
それまで働いていた職場での経験に転職先での経験が加わるので、
これもまたキャリアアップにつながります。
キャリアアップを成功させることで、年収アップや仕事環境の改善、
新たな自己実現などといったメリットがあります。


キャリアを考えるということは、人が活動する時間で最も大きな比重を占める、
仕事そのものと向き合うということです。


「自分は何を大切にして生きたいのか?」
「何の仕事をして、いかなるキャリアを積んだら自分の人生が豊かになり、充実するだろうか」
 

という最も根っこにある問いを常に念頭に置き、
キャリア戦略を練っていくことなのです。
所謂、やり遂げた仕事によって「自己実現」を感じるということこそが、
本質的なキャリアアップと言えるのです。
そして「新たな環境に身を投じる(転職をする)ことでしかキャリアアップは実現されない」
という感覚を多くの人が持っていることも事実なのです。


会社はどう考えるべきか

人々が抱えている『キャリア』に対する想い、
そして「キャリアアップ=転職」という思い込みを認識した上で、
会社は人を辞めさせないためにどう対処すべきなのでしょうか。


まず、人々が自分自身の将来を託す分野を、
キャリアプランという視点で冷静に捉えている点は、
今後ますます国際競争が進展する中で、必要な資質であるという評価もできます。
そして、人々がキャリアプランのために磨いているスキルや高いモチベーションが、
現在の業務に還元されていくとすれば、
会社としても応援する価値はあると考えることができます。
逆に、個人のスキルを、業務の観点から見ているだけでは
本当に有能な人材を確保することが困難になってきます。
だとすれば彼らに、将来を託すに足りるだけの夢と専門性を高める機会を与えることが、
社員の無為な流出を防ぎ、社内で成長させることにつながるのではないでしょうか。


会社内での「キャリア開発支援」

「夢と専門性を高める機会を与える」ために、
会社は具体的に何をすれば良いのでしょうか。
会社は、社員が求めるキャリアパスとなるステップを提供することが必要です。
「やりたい仕事ができるのか」が彼らのモチベーションを大きく左右する要素の一つだからです。
「チャレンジする風土」「チャレンジできる制度」を
組織の日常の中にどのように取り入れていくかが鍵となります。
そのためには「チャレンジする人」を評価し、
処遇するという価値観を共通認識とすることが必要です。
社員を主役に据え、彼らが自発的に成長することを促す方策、これが「キャリア開発支援」です。
昨今の、若年労働人口が減少し続ける状況では、
過去のような人材育成の手法だけでは企業が必要とする人材の採用、
確保、慰留ができなくなっているということも大きな背景です。


例を挙げると、専門職制度や社内公募制度などが「キャリア開発支援」にあてはまります。
または、社内起業をさせてみる、新規事業を任せてみる、などの策もあります。
個人のキャリアを積極的に組織の中に位置付けていくことこそが、
結果として事業の経営効率を最大に高めていくことになり、
社員個々のコミットメントを最大限に引き出すことになるでしょう。


まとめ

社員の中でも将来有望な若手には特に成長を急ぐ傾向が見られます。
自らのキャリアアップのために一直線に進んで目標に到達することは確かに成長であり、
能力に自信のある社員ほど最短距離を進みたがります。
しかし会社から見ればそのような成長意欲のある人材ほど、
社内で息長く力を発揮し続けてほしいものです。
この二者の折り合いをどのようにつけるか。
この就職・転職バブルの時代においては、上に説明をした通り、
会社が理解を示し、具体策を講じることが、
会社と社員の双方にとって最も生産性の高い方法と言えます。
そのためには、キャリアの開発支援を通じ、「企業の経営理念、方針、ビジョン」と
「社員の夢、生き甲斐、目標」を幅広く、高い次元で、長期間にわたって一致させること、
そして会社と社員が価値観を共有し、連帯感を高め、
二人三脚でともに成長をできる仕組みを作ることが必要です。
そしてこれにより人材や組織が活性化していくのです。
会社にとってキャリア開発支援はもはや避けて通ることができない人事上の課題といえます。


次回は「社員が会社を辞める理由~経営者との意見相違~」について解説します。

管理部門・士業業界最大級の求人数と職種・転職に精通したアドバイザーが転職をサポート。ご要望に応じた転職先をご提案いたします。

管理部門・士業業界最大級の求人数と職種・転職に精通したアドバイザーが転職をサポート。ご要望に応じた転職先をご提案いたします。