「退職金・企業年金について」

第71回2010/12/13

「退職金・企業年金について」


「退職金・企業年金について」

年功序列・終身雇用の前提が崩れ、成果主義や転職を容認する考え方が広がってくるなど、企業の人事制度は、近年大きく変わりつつあります。その中で退職金・年金制度も個人の選択の自由を重視するようなものに変化しつつあります。また、経済成長を前提とした仕組みになっていた一部の企業年金制度で積立不足が表面化するなど、既存の国や企業の枠組みでは維持が難しくなってきている部分も見受けられます。


今回のコラムでは、退職金・年金制度をテーマに、簡単な用語説明や最近のトレンド、導入によるメリットなどについて解説したいと思います。このような時代の中、退職金や企業年金制度に対し、企業としてどのように取り組んでいけば良いのか参考にしていただければ幸いです。

 

退職金とは
そもそも、退職金とはどういった性格のものなのでしょうか。
退職金は、日本においては広く行き渡っている制度ではありますが、実は法律で決められている制度ではなく、退職金制度を設けなくても違法ではありません。最近は退職金制度を導入していない、もしくは退職金制度を廃止した企業も増えているように感じます。


日本における「退職金」とは、「退職一時金」を指すのが一般的です。長い間、終身雇用制を前提に家族主義的な労使関係が築かれてきたからです。企業と従業員が互いの暗黙の信頼関係の上に、終身雇用制を安定的に維持するための策として年功的な人事制度が生まれ、定年まで勤め上げることへの奨励策として、退職金制度ができたといわれています。このような背景から、退職金には一時金として、「賃金の後払い」はもちろん、「退職後の生活保障」「企業慣習」「功労報償」「成果配分」など、いろいろな意味合いが含まれています。


また、一口に退職金といっても様々な種類があり、主に大企業が行っている各企業の独自積立や、厚生労働省所管の独立行政法人が運営する中小企業退職金共済制度の他、確定給付企業年金制度、確定拠出年金制度なども退職金の一種として挙げられます。(確定給付年金、確定拠出年金は後述します。)


退職金の一部としても挙げましたが、最近よく話題にもなる企業年金とは一体どういったものなのでしょうか。次は企業年金について解説いたします。

 

企業年金とは
企業年金とは、企業が勤労者の老後の生活をより豊かにするために公的年金(国民の義務である国民年金、厚生年金、共済年金のこと)に加えて選択的に設ける私的年金制度です。
広く普及していた「賃金の後払い」という意味での退職金制度では、お金を払う時期を遅くするだけで、退職時には多くの資金が必要であったため、企業の中に、退職金を分割して支払う「退職"年金"」という考え方が出てきました。これが、「企業が社員のために年金を支払うしくみ」である「企業年金」の始まりです。このしくみには企業側のニーズもありましたが、平均寿命が急速に延びる中、「老後の生活保障」という社員側のニーズとも合致し、普及することになりました。


この年金原資の運用や管理、給付などは、母体企業が設立した厚生年金基金や企業年金基金によって行われます。この年金制度を行う企業は一般的に財政に余裕があると考えられています。


企業年金には、主に厚生年金基金、確定給付企業年金、自社年金、確定拠出型年金などのタイプが挙げられますが、それぞれ下記のような特徴があります。


・厚生年金基金
厚生年金の老齢給付の一部を国に代わって支給する年金制度で、昭和41年に導入された企業年金の1つ。国の厚生年金保険の給付の一部を代行し、さらに企業が独自の上乗せ給付(プラスアルファ部分)を行う仕組みです。


・確定給付企業年金
平成14年からスタートした、それまでの厚生年金基金や税制適格退職年金の抱える問題を解決するために作られたもの。本来予定していた運用利益を得ることができず積立不足が問題となっていたため、毎年給付に必要なお金が準備できているか、確認していくしくみになっています。


・自社年金
文字通り企業が任意に金融機関と提携して行う自社の企業年金です。主に大企業が行っています。


・確定拠出型年金
平成13年にスタートした401Kとも呼ばれる企業年金で、企業がお金を拠出し、そのお金を加入者個人が運営する企業年金です(個人が掛け金を拠出する場合もあり)。個人側には、税制上の優遇措置が大きい、転職した際には前勤務先の資産残高を持運べるといったメリットがあり、企業側としては、運用リスクを負わなくて済むという大きなメリットがあります。


近年のトレンド
東京都産業労働局が東京都の従業員300人未満の中小企業を対象に実施した調査によると、平成14年の調査では何らかの退職金制度を導入している企業は88.8%だったものが、平成20年には83.4%となっています。
上記の調査結果だけでは一概には言えないかもしれませんが、様々な企業とお付き合いさせていただいている弊社の感覚からも、退職金制度が導入している企業は減少傾向にあるような印象があります。


では、なぜ退職金制度を導入しない(もしくは廃止した)企業が増えてきているのでしょうか。
廃止した数社の例を見てみると、
・景気の悪化により積立金の捻出が難しくなった
・終身雇用を前提としない雇用が増え、そもそも退職金の意味が無くなった
・中途採用の際、年収が高い(退職金分を報酬として支給する)方が採用しやすい
などといった意見をお伺いします。
確かに上記のような理由であれば退職金・企業年金制度を導入しない方が良い場合もありますが、導入することによるメリットもあります。
ということで、次は退職金・企業年金のメリットについて解説します。

 

制度導入のメリット
最近経営指標でよく用いられる言葉に「ES(Employee Satisfaction)」という言葉があります。従業員満足度という意味であり、CS(Customer Satisfaction=顧客満足度)よりESが高い企業の方が業績を伸ばしているという研究結果もあります。前述のように退職金制度の採用企業が減っている近年、退職金や企業年金の導入は、ESを高め、その結果業績にも好影響を与える可能性もあるといえます。


また、最近の転職市場を見ていると、リーマンショック後の景気低迷の影響から安定志向で慎重な方が増えてきており、こういった制度の有無を応募企業の判断基準とする場合や、入社を決める際の判断材料にする方もいらっしゃいます。優秀な方は複数の内定を取得するケースが多くありますが、退職金制度がある企業の方が「生涯年収が高い」また「従業員を大切にする企業という印象を持てる」ことから、そちらの企業を選ぶケースもあります。退職金制度の有無だけで転職先を判断する方は稀ですが、その他の条件を鑑みたうえで入社の決め手になることは十分に考えられます。退職金・企業年金制度の有無は採用力を高めることにもつながると言うわけです。

 

まとめ
経営方針や、経営状況、市場環境等は、企業によって異なるため一概には言えませんが、退職金や年金制度の導入は、他社との差別化の一つの手段として考えることができると思います。
そもそも退職金制度や企業年金制度を検討したことがない企業もたくさんいらっしゃるかと思いますが、今回を機に退職金制度の特徴や最近のトレンドについて理解を深めていただくと共に、自社の状況に合った制度について検討するきっかけにしていただければ幸いです。

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