「次世代の後継者育成」~サクセッション・プラン~

第72回2011/01/17

「次世代の後継者育成」~サクセッション・プラン~


「次世代の後継者育成」~サクセッション・プラン~

人口における65歳以上の割合が増大し「高齢化社会」が叫ばれている昨今、次世代を担う「後継者」の擁立という点で、大きな問題を抱えている企業が多数見受けられます。例えば、少し前のデータではありますが、平成18年に中小企業庁が発表したデータ(※1)を見てみると、年間30万社近くの廃業企業のうち約7万社が「後継者がいない」ことが廃業理由であると推計されています。
大手企業では、優秀な人材確保がある程度容易なため、次世代への事業承継も比較的スムーズに移り変わる傾向にありますが、日本にある企業のうち99%が中小企業であると言われている中で、大手企業を下支えしている優良中小企業の存続・発展は、今後の日本の雇用問題や経済成長の面で無視できない課題であるといえます。
昨今のデフレや事業のグローバル化の発展による競争の激化、技術革新のスピードは増す一方で、高い収益性を保持し且つ、成長を持続させることが難しい時代となってきているなか、せっかく事業を成功させても、後継者がいないと事業の継続は困難です。また、事業を承継した後も、2代、3代と続けることは難しく、存続したとしても、存続させることで精一杯という企業が多いこともまた事実です。そのなかで、創業者が思い描いていた「ビジョン」や「夢」を共有し、次世代に繋いでいくには何が必要なのでしょうか。
今回のコラムでは、企業を継続的に「成長・発展」させていくために必要な、柔軟且つ堅実な能力を併せ持つ後継者の育成・採用の秘訣⇒『サクセッション・プラン』について考えてみたいと思います。
※1 http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/h18/H18_hakusyo/h18/html/i3210000.html (中小企業庁白書より)

 

サクセッション・プランとは
サクセッション・プラン(Succession Plan)とは、もともと「後継者育成計画」のことを指しますが、日々移りゆく環境下において、あらゆる状況においても企業として対応していかなければならないため、「優秀な人材を育成し、自社内にて確保・保持しておく施策」を意味することが増えています。具体的には、次世代を担う人材の育成、定着戦略、組織の活性化、人材アセスメント等を含んだプロセスの事です。

 

特徴
サクセッション・プランを一般の研修と比較してみると、人事部よりもむしろ経営層の関与度合いが高いということが言えます。会社のビジョンを共有するということは、風土や理念が身についていなければ成り立たないことから、一般公募において、それを募るというやり方は稀です。欧米諸国の企業で浸透しているやり方としては、社長を始めとする経営幹部が自ら後継者を指名し、次世代を担う人材を彼らの責任において計画的に育成するというものが中心になってきています。
サクセッション・プランを行うことで最も重要なことは、次世代を担うであろう優秀な社員に対し、「経営者意識」を芽生えさせることにあります。そのため、代表との談話や考え方の共有、会社の方向性を確認する際に、後継者候補になり得る人間を同席させることもあります。

 

サクセッション・プランの必要性
本来、企業はビジネス上の必要性に応じて、従業員や管理職を採用し、配備します。しかし「未来のリーダーを育てる」為には、将来を見越したサクセッション・プランも欠かすことはできません。
そのためにはまず、自分(経営者)の戦略ないし、会社が将来にわたって存続し続けるために、どのような首脳部が望ましいかをはっきりさせる必要があります。但し、将来の幹部には、現在のやり方をそのまま踏襲するのではなく、会社の未来を背負って立つのだという気構えが欲しいところです。
実際には幹部であっても、そこまで先のことを考えている人はほとんどいないのが現状で、管理職クラスの幹部社員ともなれば、会社がリーダーに対してどのようなスキルや特性を期待しているかについておおよその理解はしていますが、そうした理想を実現するためのプランニングを用意しているとは限りません。
経営者に求められるのは、長期的なリーダーシップ育成プランの必要性を認識することなのです。

 

策定方法
サクセッション・プランの策定方法に決まりはありません。ある程度、柔軟に対応することが可能であるといわれています。ケース・バイ・ケースで個別のトレーニングやメンタリングを試みるのも良いですし、プロセスを文書化し、評価基準を組み込むのも一つの方法です。参考までに以下に一般的な策定の手順を記載致します。

 

(1) ミッション、ビジョン、経営戦略の確認/明確化
(2) 経営戦略を実行するための最重要ポジションを決める
(3) 上記ポジションに求められる人材プロパティー(性格、アティテュード、コンピテンシー、スキル、知識)を洗い出す
(4) 上記要件に合致する人材を既存社員の中より選出する
(5) (4)の人材の(2)ポジションへの登用と育成プランの立案
(6) (2)~(5)を定期的に行うことにより機動的な組織にしていく

 

上記は一部になりますが、策定方法にもあるように、プランを進めていく中での柔軟な対応や、その時々の変化に応じた施策が必要となります。後継者になり得る方々の成長度合い、ないしは理解度に応じて都度対応していくことが重要です。

 

サクセッション・プランの事例
具体的なサクセッション・プランについては、様々なアプローチが存在しますが、典型的なものに関しましては、以下のようなものが挙げられます。

 

■早期段階からの後継者育成プランと経営者意識の共有
入社後3~5年程度の優秀な人材をピックアップすると同時に、社内での重要な会議や社外でのコミュニケーションイベントに同席させることで経営者意識を共有させる。

 

■日々の業務の中でのサクセッション・プランの実施
一時的な経営への関与ではなく、定期的に、ないしは日常的に意識付けをすることを、中長期にわたって継続することで、理想の後継者へと成長させていく。

 

■経営に近い部分での対応、OJT
「経営者意識の共有」にも記載した通り、経営判断が求められる場への同席と、自身の考えや会社の方向性を共有していくために、OJT(On-the-Job Training)を実施し、経営者として求められる発言や意識を学ぶ。

 

繰り返しにはなりますが、上記の事例に関しましては、あくまで基本事例ですので、会社毎に合致するサクセッション・プランを構築し、中長期的に実戦をしていくことが重要です。

 

導入の効果
後継者になるべき人材が、経営者が取り組むべき課題とマネジメントの原則を明確に理解することで、自身が関与していない業務や、若手社員の育成・成長度合にも注目し、より完成されたマネジメントができるようになります。また、常に判断が求められる経営の最前線に同席することにより、日々移り行く環境変化への対応策を学び、組織の方針実現に向けての解決策を得る能力を養えます。

 

総括
サクセッション・プランとは、企業が発展・存続するための永久課題であり、長い時間をかけて取り組んでいく必要があるものです。様々な研修や実践を経ても、その成果が出るまでには相当な時間やコストを要します。
3年・5年・10年とプランニングをしていく中で、世の中の主流となるであろうビジネスニーズも日々移り変わるため、経営者サイドとしても未来の流れを予想し、それに沿ったプランニングをしていくことが求められます。

 

昨今、サクセッション・プラン(後継者指名制度)の導入は企業の人員規模に限らず必要であるという認識が広がっており、中小企業でも導入事例が増えてきているのが現状です。冒頭でも記したように、大企業の「後継者育成」よりも、中小企業のそれは、人材の確保も含め難易度が上がるため、出来得る限り早い段階で、次期幹部人材の育成に努めていく必要があるのではないでしょうか。今後、より切実になるであろう後継者問題において、中長期的な目線での「未来への投資」が必要な時代かもしれません。

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