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第75回2011/04/11

「企業内専門家の活用」~弁護士~

国内最難関資格の一つである弁護士。以前より他の先進国と比較し日本国内には弁護士が少ないと言われていますが、皆さんは国内に何名の弁護士がいるかご存知ですか?
2011年4月現在で、日弁連の会員数の発表によると3万518名となっています。この数を見て、意外と多いと感じる方も多いのではないでしょうか。
日本では、法律の専門家である弁護士を増やすため、弁護士の養成制度を見直し、2001年に司法制度改革推進法が成立しました。当初の想定では多くの弁護士が活躍の場を得て、一般市民にも法律が身近に感じられるようになるはずでした。しかし、新司法試験の合格率、合格後の就職難などを見ると、当初の目的を達成しているとは言い難い状況であることは皆さんもご存知かと思います。
しかし上記のような環境に徐々に変化が出てきています。これまで弁護士の働く場所として主流であった法律事務所、コンサルティングファーム以外に、新たな流れとして企業内弁護士(インハウスロイヤー)と呼ばれる活躍の場の出現です。今回は法律の専門家である弁護士の新たな活躍の場として「企業内での活躍」に注目し、企業内弁護士(インハウスロイヤー)がどのように企業で活躍できるのかを紹介します。

 


法務部門の体制変化
どのような企業でも企業経営は法に違反しないように行われなければいけません。ただ、違反をしていないといってもビジネスを行う上で法的リスクが全く発生しない企業が無いことは皆さんもご存知の通りです。そのため、多くの企業にはリスクに対応するための部門を設置しており、法律の知識を有する社員を配置し法的リスクに対応してきましたが、昨今では部門が扱う法律分野にも変化が出てきています。
従来企業で扱う法務は紛争などの法務リスクが発生してから対処するという臨床法務の割合が多くを占めていました。ただ、最近は各種紛争を事前に予防する予防法務や、企業経営上の重要な意思決定に参加する戦略法務への重要性が高まりを見せています。特にビジネスの国際化に伴い、グローバルリーガルリスクと言われる独占禁止法、知的財産権、M&A・業務提携、雇用・労働問題、PL法(製造物責任法)問題、更には環境問題など多種多様な問題を扱う必要性が出てきており、各企業とも対応に力を注いでいます。特にここ数年は、法務が企業経営に直結する分野になったため、担当部門にはより内密な、そしてよりスピーディな対応を求められるものとなってきています。一方で、より高度になった法律問題を社内のみで処理することは難しく、大企業ほど弁護士(弁護士事務所)に依頼、相談をするケースが増えています。(※従業員数3000名以上の企業では59%増加、5000名以上の企業では、ほぼすべての企業で増加:ビジネスロージャーナルより)
ただ、ここ数年の経済状況から、企業としては可能な限り弁護士費用を抑え、且つその分の業務を法務部員に対応させたいと考えているため、ナレッジの蓄積をはじめ少数精鋭の組織として法務部員には高い専門性が必要となってきています。そのため多くの企業で、より専門性の高い法務人材の確保、及び法務部門のレベルアップが急務となってきています。

 


専門家(企業内弁護士:インハウスロイヤー)の採用、活用
では、専門性の高い人材の確保は如何にして行えばよいのでしょうか?
従来通り中途採用で法務経験者の即戦力採用、そして教育・研修で既存社員を法務スペシャリストに育てていく方法、勿論どちらも引き続き行われていますが、近年の特徴の一つとして、最難関試験である司法試験を突破された弁護士を企業内弁護士(インハウスロイヤー)として迎える企業が増えていることが挙げられます。
弁護士を社内に置くことで生まれるメリットは、大きく分けると下記の3点になります。

 

1) 専門性
法律の専門家である弁護士に、高い専門性があることは周知の通りです。特に大手の弁護士事務所では、「コーポレート」と呼ばれる一般企業法務を専任で担当する部隊が設置され、会社法、契約、M&Aなどといった企業内にて扱っている法務とほとんど変わらない、それどころか企業の法務部で対応しきれないレベルの高い案件を取扱っていることもあります。また、一部の大手企業には、法律事務所からの出向者がおり、高い専門性を活かし活躍している実例もあります。上記のような高い専門性を持った弁護士が自社の社員となり、事業内容や業界に対しての十分な知識を有することが出来れば、外部の方からのアドバイスよりも、より現実的な改善策、解決法を提案が可能となります。

 

2)情報力、人脈
法務部門が扱う案件が複雑化してきている現在、該当分野に強みを持った弁護士や、法律事務所と連携をする必要があります。そういった事務所を探してもなかなか見つからない場合がありますが、弁護士は弁護士会をはじめとした弁護士同士のパイプを有しており、案件毎に合わせて、その分野の専門知識や経験を持った弁護士にコンタクトを取ることも可能です。更にそのような専門性の高い人材と専門的なやり取りが出来る為、社内の代表として対等に話すことも可能です。

 

3) コスト削減
弁護士事務所に依頼を行う際に発生する料金は、大別すると「顧問料」と「タイムチャージ」の2種類です。「タイムチャージ」に関して、一般の人が適正な料金かどうかを判断するのは難しいものでしたが、弁護士であればこれまでの経験をもとに相場を理解しているため、必要な人員、そして適切な料金をイメージできるため、法律事務所に対し適正な依頼が出来るようになります。

 

上記に加え、国際的な取引増加、IFRS対応、企業のガバナンス強化などの側面でも、弁護士は活躍の場を与えられています。海外の企業では「ゼネラル・カウンセル」と呼ばれる経営トップに法的なアドバイスをするポジションが既に存在しており、会社経営を行う上で法律を非常に重要視しています。コーポレートガバナンスの視点から見た際に、社内に弁護士がいるのといないのとでは安心感が大きく異なる為、このようなポジションが存在しています。企業がM&Aなどを行う際、買収先に弁護士がいないことは不安を感じる大きな要因の1つとなることもあります。日本でもグローバルに事業展開を行っている企業は、このポジション、もしくはこれに近いポジションに弁護士を配置し活躍の場を与えています。特に大手総合商社、大手メーカーなどには国内弁護士は勿論、海外弁護士の資格を有する方が法務部、もしくは法律を扱う部門に在籍しており、その専門性を活かして活躍をしています。
次は弁護士を採用して、上記のようなメリットを享受できた事例です。

 

■化学系メーカー:法律事務所にて企業法務を担当していた30代弁護士を採用
⇒ 法律事務所からの出向者が自社法務部門にて非常に活躍していたが、
  弁護士を直接採用したことで出向元に戻らず長期的に自社にて活躍頂けるようになった。

 

■素材系メーカー:法律事務所にて企業法務を担当していた20代後半の弁護士を採用
⇒ 組織強化のため法務部員を採用する際、弁護士を採用。
  入社後は、専門性の高さを発揮し評価を得て、早期に管理職へ昇格。

 

■ITコンサル: 30代前半の弁護士を採用
⇒ 将来の法務部門を背負える法務責任者候補として弁護士を採用。新事業として金融システム
  の案件を進める際、採用した弁護士の人脈で適切な顧問弁護士を探すことができた。

 


企業内弁護士(インハウスロイヤー)採用、活用の課題
上記のように他社に先行して企業内弁護士(インハウスロイヤー)を採用した企業でも、初めて採用するまでは多少の不安を持っています。しかし、弁護士を採用する際の課題を正しく理解していれば、課題を解決し、自社で弁護士の専門性を活かせることが期待できます。ここでは企業が弁護士を採用する際に懸念される主なポイントについて解説します。

 

1) 給与水準が合わないのでは?
⇒中小法律事務所で働く30歳5年目の弁護士(アソシエイト)の平均年収は1000万程度であるのに対し、同程度の社会人経験を持つ企業の法務スタッフの年収は500万前後です。これだけ見てしまうと、通常の給与水準では弁護士の採用は難しいと考えられがちですが、時給換算にするとそれほど差が無いことも珍しくありません。法律事務所に勤務する弁護士は昼夜問わず、休日も十分に取得できないような就業環境、且つ福利厚生も整備されていない環境での就業がほとんどです。その為、労働時間や各種手当、福利厚生を含めると企業内の水準でも十分納得できる可能性があり、中小の事務所で就業している同年代と比較しても遜色は無いといえます。

 

2) 数年後には会社を辞めて独立するのでは?
 ⇒ 通常、弁護士が独立する場合、勤務先の事務所で自分の顧客を複数抱えていることが必要です。もし、顧客が全くいない状態で独立すると収益が非常に不安定な状況になるため、一度企業内で勤務した弁護士は高いリスクを冒して独立するケースは少ないといえます。また、法律事務所に再度入所しようと考えた場合、法律事務所側には顧客を持たない経験弁護士の採用ニーズがほとんどなく、もし仮に採用するならば、より若手の弁護士を好む傾向があります。上記のことから、一度企業で勤務した弁護士が独立する可能性はそれほど高くないと考えられます。

 

3) 総合職としての採用が難しいのではないか?(人事異動がしづらいのでは?)
 ⇒ 企業への転職を希望される弁護士の多くは、「法務分野の経験だけでは養えない経営的感覚を養いたい」や、「自社や業界のことを理解できれば法律のプロとしてもっと活躍できる」と考えています。その為、伝え方次第では法務以外の業務にも興味を持つ弁護士は多く存在します。

 


弁護士側の意識
上記通り数年前と比較し企業内で活躍する弁護士が増え、今後はこれまで以上に企業内で活躍する弁護士が増えていくことが予想されます。では、雇用される弁護士側の意識はどうでしょう。
筆者の考えでは、弁護士側も活躍の場を企業に求める動きが加速すると考えています。その理由の一つとして、これまで多くの弁護士が活躍の場としてきた法律事務所の採用ニーズが減っていることが挙げられます。これまで法律事務所の重要な顧客であった外資系企業が、リーマンショックなどの影響により日本の市場から縮小・撤退してしまったことや、法律事務所の経営効率化に伴った人員の精査(少数精鋭組織化)により、法律事務所のマーケットそのものが縮小傾向にあることが採用ニーズの減少させているのです。このような状況から、法律事務所マーケットで余剰人員となった弁護士は、同じような事情がある法律事務所への転職が難しく、弁護士側もこれまでの主な活躍場であった法律事務所から企業へも活躍の場を広げる必要があると考えています。そして、弁護士の企業での活躍事例が増えるに連れ、逆にそれを望む弁護士も増えてきています。これまで法律事務所のみであった弁護士の就業先が企業にも広がることで、司法試験合格後の就職先として企業での勤務が選択肢の一つとなり、若年層の企業内弁護士が今後増えていくことでしょう。

 

また、企業での経験は若手の弁護士にも多くのチャンスをもたらす可能性があると考えています。理由の一つとしては教育制度の充実さです。多くの企業にはある程度の教育体制が整っており、一般の法律事務所にて自己流で学ぶよりも社会人として自分自身を高められる環境があります。もしお世辞にも教育体制が整っているとは言えない中小企業だとしても、経営者に近い環境に身を置くことで経営感覚を養うことができます。ビジネス全体を見ることができる弁護士は多くない為、それを身に付けた弁護士は貴重な人材として重宝される傾向に有ります。
そのため、どのような規模であれ、企業で就業経験を積むことは若手の弁護士の価値を高めることにつながりますので、彼らに多くのチャンスをもたらす事となるわけです。

 


まとめ
ひと昔前は、弁護士を採用する企業は大手の企業が中心でした。しかし、ベンチャー企業、中小企業でも法律の専門家に力を借り、新規ビジネスへの参入、海外進出などで多種多様化する問題に対応するのが一般的になってきています。自社内の法律の専門家は必ずしも弁護士である必要はありませが、より専門性の高い人材と共にビジネスを行うのに越したことはないのではないでしょうか。なぜなら企業経営は法律によって規制されており、法律判断が経営判断に優先するものだからです。その法律を足枷(あしかせ)とするか、経営戦略のために利用するかは企業次第です。今回のコラムが、弁護士活用を検討するきっかけとなれば幸いです。

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