「企業内専門家の活用」~公認会計士~

第76回2011/05/16

「企業内専門家の活用」~公認会計士~


「企業内専門家の活用」~公認会計士~

 前回のコラムでは弁護士の活用方法についてお話しをさせて頂きましたが、三大国家資格の一つである「公認会計士」資格にも大きな変革期が来ています。2006年度以降の試験制度の変更による公認会計士資格保有者の増加や、人員過多が囁かれる監査法人での採用の縮小を受け、ここ1~2年で公認会計士の活躍の場は監査法人だけではなく、事業会社内にも広がっており、会計の専門家として公認会計士を社内に置く企業も増えております。
 このコラムでも、2年程前に公認会計士の活用方法については特集をさせて頂きましたが、その当時と比べ、活躍されるフィールドは変化をしてきております。今回のコラムでは公認会計士の方の現状をお伝えすると共に、改めて企業における公認会計士有資格者の活用方法をお伝えできればと思います。

 

公認会計士の現状
 数年前までは、公認会計士といえば監査法人にて監査業務を行うという考え方が一般的でしたが、最近になって企業内で活躍する公認会計士が増えてきています。その背景には下記のような理由が考えられています。
 これまで、公認会計士試験を受ける方のほとんどは監査法人でのキャリアを想定されていたため、会計士と監査法人は切っても切れない関係でしたが、2010年ころより公認会計士のキャリアには劇的な変化が見え始めました。試験制度改訂後、2008年前後の会計士試験では過去最大の合格率をみせ、試験合格者の人数は急激に増加しました。一方で、内部統制やJ-SOXのアドバイザリー業務等のニーズが落ち着いてきたため、これまで試験合格者採用の多くを担っていた大手監査法人では人手に充足感が見えはじめ、さらにリーマンショックによって上場企業の減少や外資企業の撤退などにより、案件の獲得にも苦戦するようになりました。人員の充足感を感じた監査法人では、以前に比べて採用枠を縮小せざるを得ない状況が生じました。会計士試験合格者の採用に関する需要と供給のバランスが崩れたことで、2010年には試験合格者約2000名のうち、約半数である1000名ほどが監査法人に就職できない状況が発生し、いわゆる「会計士浪人」という言葉が出来てしまう程、公認会計士の就職は厳しいものとなっています。
 そうした状況下で、会計士試験合格後に求められる実務経験に関して「資本金5億以上の企業・金融機関にて会計関連業務に2年間携われば公認会計士資格取得のための実務経験として認められる」という制度が注目され始め、以前であれば当たり前のように監査法人を目指していた公認会計士合格者の方も企業という就職先を選択肢に入れて、就職活動を行う様になりました。
 また、すでに監査法人に勤務されている公認会計士の方々についても変化が出来ています。某大手監査法人での既存従業員のリストラが行われたことを受けて、監査法人業界の今後を不安視される公認会計士の方も増え、経験のある会計士の方々の中にも事業会社でのキャリア構築に意欲をみせている方が増加してきています。次は公認会計士の有資格者の方がどのように活用されているのか、これまでと現在の違いについてお伝えしたいと思います。

 

今までの公認会計士(有資格者)の活用方法
 では、企業の中で公認会計士が活躍するにはどのようなポジションがあるのでしょうか。
 2年程前のコラムでも公認会計士の企業内での活用方法について述べさせて頂きましたが、既に公認会計士を採用・活用をしている企業は多くあります。その際にはIPO審査を行っている会計士の方にはIPO準備企業でIPO推進役かCFOとしてのポジションを、またIFRS導入を行っている会計士の方にはIFRS導入プロジェクトの旗振り役としてのポジションを、というように公認会計士の方の高い会計知識を複雑な特殊業務に活かしてもらおう、というのがこれまでの一般的な活用方法でした。しかし、より多くの会計士が企業内で活躍し始めた現在、企業に置ける公認会計士の活用方法は徐々に変化をみせています。次は、最近の公認会計士の活用トレンドについて述べていきます。

 

現在の公認会計士(有資格者)の活用方法
 現在は公認会計士を所謂「特別枠」としての採用をするのではなく、経理財務部門のメンバーとして採用し、日々の業務から決算業務、連結決算、開示資料の作成等その会社で必要となる一般的な会計処理を中心に携わってもらうことが多くなってきています。その上で、必要に応じてその他のプロジェクトに携わって頂くという採用方法が一般的になってまいりました。
 監査業務を行う公認会計士は、顧客の会計業務が適切に行われているかのチェックや、財務諸表をチェックするだけではなく、各勘定科目の増減をチェックし、必要であれば社内でどの様な処理をされているのか、各項目の明細のチェックや経営者に対してのインタビュー等を行い、その合理性について監査をしていきます。そのため、高い会計知識はもちろん、社内の業務フローや担当顧客の業界についての知識等も必要とされます。また、日々の経理業務のチェックなども業務内容に入ってくるため、事業会社の単体決算やその他の会計業務にも十分に対応が可能な方が多いという特徴があります。
 もちろん、公認会計士は一般事業会社ではなかなか身につけにくい高度な会計知識を有しているだけでなく、担当していた案件や顧客層によっては、M&Aに関する業務や会計制度のコンバージェンス業務など、様々な特殊業務の経験がある方も含まれます。例えば、日系大手上場企業をメイン顧客としていた場合には、大手企業にて必要な開示資料の作成業務、連結決算業務、内部統制業務等の基本的なスキルが備わっています。また、外資企業の監査を中心に行っていた方であれば、IFRS、US-GAAPへの高い知識をお持ちです。また、アドバイザリー業務を行っている部署に所属をしている方であれば、IFRS導入や内部統制等の業務にも対応頂けるかと存じますし、金融機関の監査を行っていた会計士であれば、金融関連の法律に明るい方が多いでしょう。
 上記のように、公認会計士といっても様々な知識と経験を持つ方がいらっしゃいますし、人柄や志向も様々です。その為、すでに会計士を活用している企業では、自社の状況に応じて活用の多様化が進んできているのが現状です。まずは、監査経験のある公認会計士を採用し活用に成功しているA社の例を見てみましょう。

 

■海外に複数の拠点を持つ電機メーカーA社の例
 海外展開を行う電機メーカーA社では数十を超える子会社を世界中に所有をしているため、経理部のメンバーには日々の経理業務、単体決算業務はもちろんですが、高い連結決算の経験が必要とされていました。そのためA社で連結決算の監査経験を持った公認会計士を経理のメンバーとして採用をしました。決算の実務経験はなかったもののすぐに業務に慣れ、1年半程で連結チームのリーダーとしてチームをまとめる存在として活躍されています。

 

 この様に、ある一部分のみを任せるという発想ではなく、経理業務全般に携わってもらいながら、その時々で必要とされる複雑な会計処理の部分を任せ、適性を見ながら中長期で活躍してもらう、といった活用方法で会計士を活用している企業が増えています。例えば2015年からの導入が進められているIFRSプロジェクトを例にしてみると、会計士採用後すぐにIFRS導入プロジェクトの主担当をして頂くのではなく、数ヶ月は通常の経理業務を中心に担当してもらいながら、必要な場面で高度な会計知識を活かしてもらう、といった流れで活用するような、公認会計士をあくまでも経理メンバーとして採用をするケースが増えています。

 

公認会計士を採用する際の課題
 とは言え、いくつかの理由から公認会計士を採用するのは少々不安という声もお聞きします。
 一番多くの企業が心配されるのは年収面です。公認会計士の方の年収は一般企業の年収と比較すると高めに設定されているため、企業内での通常の年収では折り合いがつかないのでは?という声をよくお聞きします。実際に監査法人の年収レンジは、20代の若手スタッフであっても400万円~600万円程度、30代の方でシニアマネージャーにまでなっていると800万円以上の年収の方もいらっしゃいます。しかし、その年収の多くは残業代で賄われているため、通常の企業の残業時間(20~30時間程度)であれば年収が下がっても納得できるという方は多くいらっしゃいます。また、最近では企業内への転職では年収が下がると認識している方も多くなってきており、800万円以上のご年収の方でも600万円程度から検討をされる場合も多くなっています。もちろん、その方の状況によってご希望の年収は変わってきますが、一般的な企業の年収レンジでも十分に検討される範囲ではないかと存じます。
 他にも「将来的に独立していくのでは?」「知識だけでは活躍できないのでは?」「人柄が合わない方が多いのでは?」など、企業の方はさまざまなイメージを持たれています。上記で述べた年収面をクリアしたとしても、さまざまなイメージを払拭できず、会計士を採用するまでに至らないという企業も多いのではないでしょうか。しかし、ここ数年で企業を希望する公認会計士の母数が増えている為、採用時の選考さえしっかり行えば、自社にマッチした方を採用できるチャンスは広がってきています。

 

公認会計士試験合格者の活用方法
 公認会計士(有資格者)の方同様、先にお伝えしたような背景から公認会計士合格者の方も企業で活躍されている事例が増えております。公認会計士試験合格者には、経理としての実務経験は持っていないものの複雑な会計処理に対する知識を持ち、近い将来に会計部門の幹部候補、あるいは社内の会計スペシャリストになりえるポテンシャルが備わっている方が多く含まれます。転職市場において、同じ20代で企業の経理業務経験者では、開示業務、連結業務等の経験、もしくはIFRS対応等の経験や知識を持っている人はごく少数です。そこで大手企業を中心に、採用に苦戦している若手の経理実務経験者のニーズに対し、経験は無くとも知識を持ったポテンシャル人材である会計士試験合格者を採用するケースが多くなってきているというわけです。
 上記については、ここ1~2年のトレンドである為、まだ具体例は少ないのですが、実際に会計士試験合格者の活用で成功している例を見てみましょう。

 

■会計士試験合格者の活用に成功している新興上場企業B社の例
 新興市場に上場しているB社では、上場前から活躍している経理部のメンバー数名がいらっしゃいましたが、上場を果たしたことにより、開示資料の作成業務や内部統制業務、IFRS導入のプロジェクトなど、今まで対応が必要ではなかった業務への対応が必要になってまいりました。そのため、将来的に当業務を取りまとめてもらう幹部候補として公認会計士合格者を採用しました。入社後しばらくの間、部長の下で通常の経理業務を行いながら会社に慣れて、半年後の現在、部門の貴重なスタッフとして活躍されているということです。順調に行けば1年後には、IFRSプロジェクトの主担当としての活躍を期待できそうとの事でした。

 

 上記のように、入社後に期待通りの活躍をしている例も出てきています。とはいえ、会計士試験合格者の採用の際には通常の採用とは異なる点に注意が必要な場合があります。次は、会計士試験合格者を採用する際の注意点について解説いたします。

 

会計士試験合格者の採用・活用の際の注意点
 会計士試験に合格した方は、数年後に公認会計士として認定される事を目的としている方が多い為、公認会計士試験合格者の採用の際には、まず公認会計士資格制度への十分な理解が必要です。試験合格者が公認会計士になるためには、試験に合格後「2年以上の実務経験」と「金融庁に認定をされた補修所で行われる実務補修の単位取得」が必要です。その為、企業を希望する試験合格者の中には、平日の夜や土曜日に補修所に通えるのか?というような疑問を持つ方がいらっしゃいます。自社の就業時間や勤務体系が上記のような要望に応えられるのであれば問題ないのですが、企業で働く際には基本的に業務優先の考え方をもっていただかなくてはならないため、公認会計士試験合格者の方を選考する場合には、必ずしも補修所には通えない旨も事前に説明をすることが必要です。
 上記だけを見ると試験合格者の採用を難しく感じるかもしれませんが、昨今の就職事情から修習所よりも企業での経験を優先したいという志向の方も増えてきており、今後も増加の傾向にあると考えられる為、企業優先の考え方の試験合格者を中心に採用活動を進めるという方法もあるかもしれません。

 

まとめ
 今回お伝えしたように、公認会計士、及び会計士試験合格者の活用は徐々に広まりつつありますが、一方では「会計士=監査法人」という考えを持った会計士や企業が多く存在するのも事実です。
 しかし、今回お伝えしたような様々な背景から、企業内での就職を希望される方は今後増加していくのではないかと考えています。実際に当社にご相談にいらっしゃる公認会計士(及び試験合格者)の方々をみても企業でのキャリアに面白みを見出す方が増えてきており、特に若手人材の中には財務諸表をチェックする監査という立場ではなく、実際に作成したり修正したりする立場に移りたいという方が多くなっています。また、繁忙期には月に100時間を超える残業が発生する監査法人から事業会社で長い目で見たキャリアを形成することを目指し、転職をご検討される方もいらっしゃいます。

 

 欧米では会計のプロフェッショナルの公認会計士は監査法人のみならず、金融機関、事業会社と幅広い分野で活躍をされていらっしゃいます。日本でも大手商社や金融機関などでは公認会計士の採用は珍しい事ではありませんでしたが、今後はその流れが多くの企業に広がり、これまでよりも一般的になる事が予想されます。高度な会計知識を持ったプロフェッショナルが社内にいる事で、社内で解決のできる会計分野の問題は幅が広がりますし、経理のみならず財務や経営企画等の分野での活躍も期待できるため、ビジネス発展にも大きく貢献頂ける可能性もあります。もし、現在会計分野でお悩みの事があれば、公認会計士の採用・活用をする事により解決できるかもしれません。一度ご検討を頂いてはいかがでしょうか。

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