「ゆとり世代の活かし方」

第78回2011/07/11

「ゆとり世代の活かし方」


「ゆとり世代の活かし方」

ここ最近、世論で度々耳にすることが多くなった"ゆとり世代"という言葉。世間ではあまり良いイメージで使われていないことが多いような気がしますが、どうしてその様なイメージが先行してしまっているのでしょうか。また、何が原因でゆとり教育が実施されたのでしょうか。今回は、ゆとり世代の現状を簡単に説明させて頂き、ゆとり世代を採用する企業にとって、より良い採用が行えるようアプローチの仕方をお伝えできたらと思います。

 

ゆとり世代とは

ゆとり世代とは、一般的に初等教育および中等教育 (中学校および高等学校またはそれに準ずる中高一貫校に代表される中等教育学校等における教育) においてゆとり教育を受けた世代に対し、一定の共通した特性を持つとして設けられる区分けのことを指します。ゆとり世代の対象者は1987年4月2日~1996年4月1日に生まれた方々が該当となります。 (2011.7.11現在15~24歳)

 

ゆとり教育の発端、必要性、概要
ゆとり教育が実施されるようになった事の発端は、従来の知識を重視する「つめこみ型」の教育が批判されるようになったことに始まります。つめこみ型教育とは、1970年代までの日本の教育現場で取り入れられてきた教育方法で、簡単に言うと、知識をひたすら頭の中に詰め込む事に力点を置いた教育と言えます。この教育法には、次のようなメリットとデメリットがあると考えられています。
メリットとしては、大きく分けて二つあり、一つ目は基本的な事項を暗記し続けることによって、頭の中に多くの知識が残せるということです。実はこの事は、人間の学習過程においては非常に重要なことで、若いうちに知識を身に付けるクセを身に付けないと、その後の人生における判断材料が乏しくなり、豊かな想像・創造がしづらくなってしまうからです。二つ目は、学力を判定する学校の教師の負担が少ないということも挙げられます。詰め込み教育における試験は単純に、知識を知っているか知らないかをメインに構成できるので、生徒の習熟度を画一的・客観的に点数化しやすいのです。
デメリットとしては、生徒が学習意欲を維持するのが難しいということです。大抵の人は、ただ物事を暗記する勉強を継続することに嫌悪感を抱いてしまいます。そして、知識習得の一貫性が挙げられます。例えば、テストのためだけにひたすら暗記した知識に関しては、大抵テストが終わるとほとんど忘れてしまうものです。その様なデメリットを払拭するために考えられた教育方法がゆとり教育です。


ゆとり教育は、「ゆとり」の中で豊かな人間性や「生きる力」を育むと同時に、基本的な内容を確実に定着させ、個性を生かす教育を目指すべく2002年に発足しました。
内容の一例としては、2002年度から、学校の週5日制が完全に実施されるのに合わせ、新しい学習指導要領では、授業時間の縮減や学習内容の3割削減など、学校教育のスリム化を打ち出しました。これは、先に述べた「つめこみ型」の教育は、すべての児童・生徒が一律に学習すべきとされた標準のカリキュラムでは、内容の分からないまま授業が先に進んだり、すでに分かっている子供にとっては退屈だったりして、授業の形骸化が進んでいるとの指摘があったからです。
そのため、学習内容を必要最低限の範囲にとどめ、教室や学校の実態に合わせた授業の展開を、現場の教師に任せることにしました。
このように、個人に特化した教育をゆとり教育と言います。

 

ゆとり教育をおこなったうえでのメリットとデメリット
ゆとり教育が引き起こしたとされる問題の中で、最も議論の的になるのが学力低下です。ゆとり教育と学力低下には因果関係があるのかないのか、世論では何度も議論が繰り広げられてきましたが、ハッキリとした根拠が両方の立場にないため、正直この問題に関しての決着は付いていません。しかしながら、学力が低下してきてしまっていることは紛れもない事実です。経済協力開発機構(通称:OECD)による国際学習到達度調査の結果を見れば一目瞭然で、数学的・読解力・科学的リテラシーの三項目いずれも数年前に比べると、順位が下がってしまっています。また、ゆとり教育移行後においては、学力の中でもとりわけ読み・書き・計算能力が低下しているようです。


学力低下の原因として大きく挙げられるのは、ゆとり教育を実施したこと以外にも、家庭環境や大学の乱立といった現代の抱える社会問題も大きく関わっているようです。ですので、一概にゆとり教育そのものがデメリットかというと断言は難しくなってきます。
逆にゆとり教育を行うことで得られる利点として度々挙げられる点は、学生にとって自由な時間がふえるという点です。基礎学力が低下するというトレードオフをおぎなってあまりある利点があるからこそ、日本の政府、そして日本の国民は、ゆとり教育を選択したというのも事実です。今日の学生のまわりの環境は、昔とくらべ非常に豊かになり、それだけ物事に対して選択肢が増えました。学生が興味あるものを見つけることができれば、それに打ち込む時間を十分確保できるのがゆとり教育の目的のひとつでもあります。昔に比べて現代の学生は、学業以外に必ずなにか興味を持つ分野を持っており、それに時間を割いてきているようです。彼らは、学業以外に自分でなにかを習得してきた体験をしているため、自分から勉強することができる、という力を身に付けてきたといっても過言ではありません。
上記のように、デメリットとメリットは共存するものなので、いかに利点を伸ばしていくかにフォーカスしていくかが重要なことのように思えます。

 

採用を行う企業側からみた、ゆとり世代の特徴と現状
近年、「ゆとり世代」と呼ばれる新入社員・若手社員が社会に出始めており、多くの企業に入社しています。現場では彼らと先輩・上司の間に様々なギャップが生じており、一見するとあまり良い印象を持ってもらえていない傾向が強いかと思われます。では、ゆとり世代がどの様なイメージを持たれていて、なぜその様な傾向になったのかを解説させて頂きます。


・【自ら考え、行動することが苦手】 (与えられることが当たり前、インターネットが答えを教えてくれた)
彼らは物質的に豊かな時代に成長してきた世代です。遊びや勉強のために様々なツールが与えられ、バラエティ豊かな選択肢が与えられました。また、彼らは情報化社会の進展と共に育ちました。小学校低学年の頃から、インターネットの世帯普及率は年々上昇し、検索すればたいていのことがわかる状況でした。彼ら自身も高いITリテラシーを身につけ、情報検索が得意な一方で、彼らにとっての"答え"は、自ら考えるものではなく、"探す"もの、もしくは"選ぶ"ものへと変容してきました。
ビジネスの世界でも、彼らはゼロから考えるよりも、選択肢の中から選びたい、てっとり早く効率的に答えを見つけたい、と考える場合が多いと言われております。


・【自分が好きなことをやりたい願望が強い】(個性を活かすことを奨励された、効率化を求められた)
彼らが小学校に入学する1992年度から「新しい学力観」が提議されました。生徒の個性・自主性を尊重し、学習のプロセスや変化への対応力を重視するという考え方です。教師の役割は"指導者"から"支援者"に変容し、授業スタイルにおいても生徒が関心を持ったテーマを追求させる方法、環境づくりが求められました。 また、ビジネスの世界では生産性の向上、IT化をはじめとする効率化がすすみ、彼らも「無駄(だと思えるよう)なことはやらないほうがよい」という価値観が潜在的にあります。そのため、上の世代から見ると、「仕事を選り好みする」「下積み的な仕事をやりたがらない」と見られることがあります。

 

・【自己成長への強い焦燥感を持つ】(終身雇用制度の崩壊を目のあたりにしてきた)
彼らは、右肩下がりの日本経済の中に育ってきました。小学校高学年の頃に大手金融機関の破綻が続き、親世代のリストラ、兄・姉世代の採用不況という厳しい現実を間近で見てきた世代です。また入社早々、世界不況を発端に経営環境の悪化、再度リストラや採用不況・・・終身雇用制度は崩壊し、潜在的に自身の市場価値を高めなければいけないという焦燥感を抱えています。彼らが会社に期待することが「自らの成長機会」であることも、このような背景からきています。


上記のように、彼らに見える特徴は、ゆとり教育や社会環境が複雑に絡み合い生じていることです。安易に「ゆとり世代」というレッテルを貼るのではなく、その要因を多角的に捉え、彼らを理解することで、彼らにどう向き合っていくべきかのヒントが見えてくるのではないでしょうか。

 

ゆとり世代の活かし方、戦力化するためのアプローチ方法
ゆとり世代の活かし方と言っても、みなそれぞれ異なる性格や能力を持っているので、ひとくくりでまとめるのは難しいです。ですが、下記の内容は基本中の基本ですが、確実にベースとなる事項ですのでご一読頂き、貴社に合わせたアプローチ方法を編み出して頂ければと思います。


"学生時代から社会人水準へのマインドセット"
彼らには上記のような環境、時代背景からつくられた彼らなりの基準・水準があります。まずは、今までの学生時代のものからいち早く脱却させ、社会人としてのマインドセットをすることです。彼らの自己成長意欲を刺激し、「組織で働くとは」ということが理解できれば、彼らの高い処理能力や理解力、得意なITスキルを活かし、即戦力ともなるでしょう。


"受け入れる側の職場環境・指導アプローチの見直し"
これまでゆとり世代側の特徴・要因を述べてきましたが、より本質的で解決すべき問題は、職場環境にもあると考えています。ITの発達や、アウトソーシングにより、難易度の低い仕事は職場から減少しています。新入社員が順当にビジネス社会に適合できる基礎の積み上げ的な仕事や、小さな挑戦ができるような環境を意図的につくることはできているでしょうか。どんな世代でも、人は急には成長しません。成長するためにどのような環境が必要なのか、職場にそれがあるのかを見直してみましょう。また、指導アプローチとして「背中を見て育て」は残念ながら通用しません。効率的に早く成長したいというマインドの彼らだからこそ、「社会人として育つ」ためのプロセスを一から教えることが彼らを戦力化するために必要なことではないでしょうか。

 

まとめ
本件で述べさせて頂いたゆとり世代に関しては、やはり「ゆとり教育」とは切っても切れない関係であるかとは思われます。しかし、安易に原因を「ゆとり教育」に求め、彼らにレッテルを貼るだけでは、真の課題を見失ってしまいます。大切なのは、彼らと今後どう向き合っていくかということです。彼らは、ITリテラシーの高さや理解力の高さなど、非常に優秀な要素もたくさんあります。企業の発展のために、彼らの強みを最大限に活かし、立派な戦力として成長させるための教育施策が必要です。そのためには、言動の裏にある、彼らが育ってきた、学んできた環境や時代背景を理解することは必須です。それを理解した上で社会人として、組織人として戦力化する術を考え、親身になって彼らに物事を伝え、会社の将来を牽引してゆく幹部候補として育てていってあげてください。
会社の未来を担うのは、いつの世も若き社員たちですから。

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