「メンター制度」

第91回2012/12/17

「メンター制度」


「メンター制度」

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皆様は「メンター制度」という言葉をご存知でしょうか?
新聞などのメディアやインターネットなどで度々取り上げられていますので、言葉自体は耳にしたことのある方は多いでしょう。ただ、言葉の意味や解釈については事業会社毎に様々のようです。今回は「メンター制度」について、言葉の意味とともに、具体的な導入事例なども交えてお伝えしたいと思います。


メンター制度とは・・・?
まず、メンター制度についてお伝えする前に、「メンター」の語源をご紹介します。
メンターとは、"メンタリング"する人の意味であり、その語源はギリシャ神話に登場するメントールという人物名に由来しているといわれています。メンタリングとは人の育成、指導方法の一つであり、指導者(メンター)が指示や命令ではなく、助言と対話による気づきで、被育成者(メンティーまたはプロテジェ)本人の自発的・自律的な成長を促す方法です。そして、メンタリングを通じて、メンティーがメンターから指導・支援される関係のことをメンター制度といいます。
ただ、今回取り上げる「事業会社におけるメンター制度」は、上記とは少々内容が異なります。それでは事業会社におけるメンター制度とは、一体どのようなものなのでしょうか?
冒頭でも触れたとおり、その解釈は事業会社毎に異なるため、ここでは一般的な意味について解説します。
事業会社で使われる一般的なメンター制度とは、メンティーの業務(キャリア形成・スキル向上・人間関係改善など)や業務外(プライベートなど)のことに対し、メンターが相談を受け、悩みや疑問の解消を促すことにより、メンティーの組織人としての成長を支援する制度のことであり、サポートする範囲は非常に多岐に渡ります。
直属の上司がメンターの役割を担えればよいのですが、サポートの範囲は業務以外の悩み相談(人生相談など)も多く含まれ、且つ部下の人数も一人とは限らないことを鑑みると難しいケースが多く、その役割はホスピタリティーマインドを持った別の先輩や、他部門の先輩から選出されるほうがスムーズにいくようです。
もし、直属の上司(人事・業務評価者)をメンターに選出した場合は、その関係性にもよりますが、本音で相談しにくくなってしまう場合が多いため、本来のメンター制度の意味をなさなくなってしまわないよう注意が必要となります。


なぜメンター制度が必要なのか
メンタリングという指導方法は古くからありましたが、事業会社におけるメンター制度というものは1980年代のアメリカで発祥したといわれています。日本においても1980年代と1990年代以降では、企業風土や従業員を取り巻く環境が激変し、またバブル崩壊後においては、ほとんどの企業が高度成長期に確立した終身雇用・年功序列といった人事制度を改め、組織のフラット化・スリム化や成果主義を導入し始めました。
その結果として、組織のスリム化や一人ひとりの生産性の向上には成功したものの、それと引き換えに「面倒見の良い先輩や上司=メンター」が自身のことで精一杯で余裕がなくなり、「仕事上がりに飲みにいく=何でも話せる環境」が以前よりも少なくなった、という声も聞かれるようになりました。組織内での人と人との繋がりが希薄になることで、新入社員の早期退職はもとより、既存社員であっても心の孤立が後を絶たない状況に陥っている事業会社も少なくないでしょう。中には後輩・同僚=仲間・同志というよりは、後輩・同僚=競争相手・ライバルという認識を持って働いている方もいらっしゃるかもしれません。
そんな中、社内の「つながり」や「こころ」の面を大事にする動きが出始め、メンタルヘルスの重要性とともに、メンター制度が注目されるようになりました。

 

職業安定局の推計によると、今後も労働力人口の減少は避けられず、2010年を起点に15年後には15~29歳の層で約140万人減、30~59歳の層は約350万人減になるだろうといわれています。

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推計資料から察するに、年々人材の獲得が困難になることは明らかであり、せっかく採用した「会社の未来を担う若手社員」が成長する前に辞めてしまうといった事態を避けるためには、今の段階から対策を打つ必要がありそうです。
ひと昔前のように、組織が自然と人を育てる環境があればよいのですが、そうもいかない現状がありますので、事業会社の規模にかかわらず、事業の繁栄には必要不可欠な若手社員の定着と育成が急務となっています。


メンター制度導入事例
次はメンター制度の導入に成功したいくつかの事例を見てみましょう。

 

~A社のケース(従業員数10,000名以上・金融系)~
A社は元来、新入社員の9 割以上が全国の支社へ配属になります。
これまで離職率は低かったものの、知人がいない地方支社に配属された者が孤独感を訴えるケースが徐々に増加してきたため、このまま手を打たなければ離職率の上昇に繋がるのではないかと懸念し、メンター制度を導入することになりました。
A社のメンター制度の特徴は「メンターが指名制ではなく、公募制で「自ら応募してきた」者を採用する」こと。
です。これは、メンター制度には、資質よりも積極的に活動に参加しようという「熱意」が重要という考えからから公募制が採用されました。
手探りで導入したものの、ふたを開けてみれば制度初年度から目標とした人数以上のメンター希望者が手を上げ、制度開始から4 年目を数える頃には、「前年メンティーだった者が、今年はメンターとして応募してくる」という良いスパイラルも生まれ、新入社員数を大きく上回る者が参加する制度に発展しました。

 

~B社のケース(従業員数約150名・食品系)~
B社は毎年10数名を採用しているにも関わらず、入社してから半年以内に半数が退職となってしまう状況が続いていました。主な原因は就業環境です。いわゆる3K(危険・汚い・きつい)といわれるもので、業種・職種柄、環境改善は容易ではなく、3年以内ともなると離職率は90%以上という致命的状況でした。
このままの状況を見過ごせば、採用の手間もコストも無駄になり、業務ノウハウの蓄積もままならない(=会社の存亡にかかわる)と考え、B社は一念発起しメンター制度を導入することにしました。
導入後、徐々に社員から「仕事にやりがいが出てきた」「毎日が楽しい」などの声が上がるようになり、社員のモチベーション向上に繋がりました。その結果、数年の期間は要したものの3年以内の離職率を0%とすることができ、採用コストも年間ベースで半分にすることができました。

 

~C社のケース(従業員数約100名・製造系)~
C社は3年以内の離職率が50%と定着性が低いという点以外に、10数億の売上げがあるにもかかわらず、利益は限りなく0に近い状況がありました。一見、利益とメンター制度は無関係のように捉えられがちですが、社員のモチベーション(当事者意識)向上は、売上や利益にも関係しているいい例かと思います。
実際、C社がメンター制度を導入後、社内コミュニケーションが活発になり、社内が活性化しました。社内に活気が出ると社員のモチベーションが上がり、取り扱う商材は変わらないにもかかわらず、売り上げは160%UP。今まで期待できなかった利益も十分に出るようになりました。その後も好調は数年続き、リーマンショックの大打撃を受けた際の赤字転落も、社員一丸となって阻止できました。

 

上記のように、メンター制度導入に関しては一つの答えがあるわけではなく、企業の抱える課題やその状況によって、導入&運用の仕方は様々です。


メンター制度導入の難しさ・失敗例
ここまでで、メンター制度のメリットや効果はご理解いただけたかと思いますが、次はメンター制度を導入する際「どのような事に注意するべきか」や「どんな失敗が予測されるのか」をご紹介したいと思います。

 

~OJTとメンター制度の混同~
OJTとメンター制度はそもそも目的や方向性が違います。しかし、先輩であるメンター自身も目一杯の通常業務を抱えているため、メンティーの納得感よりも時間効率を求めてしまい、即効性の高い答え(テクニック)に走ってしまう場合があります。そうなると、本来のメンター制度の目的(コミュニケーションを通じた信頼関係の構築)が果たせなくなってしまうので、両者を混同しないよう注意が必要です。

 

~メンターとメンティーのマッチング~
そもそもメンターとメンティーの間に信頼関係がなければ、メンター制度は成り立たず効果も期待できません。
そういった点で、メンターとメンティーのマッチングは簡単ではないでしょう。例えば、年の離れたメンターがメンティーと判り合えない時にジェネレーションギャップという一言だけで片付けてしまうのは危険なことです。また、メンティーのことを知ろうともせず、先入観やうわべの印象で出来ない奴・甘えた奴と決めつけてしまっては、信頼関係の構築は出来ません。信頼関係を築けるかどうかは、メンターとメンティーの人柄もありますが、そのマッチングが非常に重要であると言えます。

 

~制度の形骸化~
メンター制度自体を当事者達が、面倒な業務として捉えられないような工夫が必要となります。制度をマニュアル化してシステマチックに実行しても、成果は見込めません。

 

メンター制度は、業務内容・知識の習得だけが目的ではないため、方法や正解が一つではないところが難しいポイントです。当然、メンター・メンティー共に自身の業務を抱えているため、将来的に役立つと分かっていても、やはり目の前の業務(主に自身の通常業務)に追われる中で運用していくことは容易ではありません。メンター制度は、如何に時間を作り継続性を持って実施できるかもポイントとなるため、事業会社サイドのフォロー状況(理解・協力など)によっても効果が大きく変わってくることも忘れてはなりません。
つまり、メンター・メンティー・会社のいずれにも温度差があっては、上手くいかないということになります。


最後に
メンター制度は仕組み云々よりも、当事者が高い意識をもって制度に取り組む「熱意」と、メンティーに対する「愛情」が成功のための最大のポイントだと思います。
少なくとも当事者に熱意と愛情がなければ、どんなに優れたシステム(制度)を作っても機能しません。メンター制度が文化として根付き、効果的にメンター制度を運営できたとき、世代から世代への人材育成の連鎖をもたらし、結果として若年層の組織への定着を促すことになります。若年層の定着や成長は、中長期的な企業の成長にとって重要な要素でもあり、社会的にも重要な要素ですので、CSR(企業の社会的責任)の一環として捉えいただいても良いでしょう。
メンター制度運営をメンターやメンティーの自主性のみに依存するのではなく、制度を社内に公表しメンターとメンティーが動きやすい環境を用意(バックアップ)することも肝要です。
難しい印象もあるかと思いますが、従業員定着の一つの可能性として、貴社でも一度ご検討されてみてはいかがでしょうか。

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