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社員のモチベーションを高める手法として、登場時に大きく注目されたインセンティブ制度の一つに「ストックオプション」があります。 自社の株式につき、あらかじめ決められた価額で将来取得する権利を付与する仕組みで、社員一人ひとりの頑張りが将来の実りになって返ってくる制度として知られています。
実際に導入する際には、会社として諸々の規定を設けたり、具体的な内容を決めたりと、細々とした手続きが必要です。 この記事では、ストックオプションの導入方法や手続きなど、詳しく解説します。
1.ストックオプションの導入方法
ストックオプションを導入するには、手続きに進む前に、いくつかの手順を踏まなければなりません。 以下に、導入方法と手順の流れについてご紹介します。
導入の目的を考える
ストックオプションがインセンティブである以上、その主な目的は「社員のモチベーションアップ」です。 自分が働いている会社の株を手に入れた後、その価値が自らの働きで上昇した場合、得られる富は自分のものですから、社員の目線から見ると「将来の目標」と「得られる成果」が具体化されます。
しかし、会社によっては人材の流出を食い止める目的・企業経営に対し社員を参加させる意図で、ストックオプションの導入を検討する場合もあります。 戦略に応じて、自社で採用するストックオプションの種類を選ぶ必要があるため、まずは目的を明確化することが必要です。
専門家に設計を依頼する
数あるインセンティブの中でも、ストックオプションはやや特殊な部類に入るため、導入に際して制度の設計は専門家の意見が必須と考えてよいでしょう。 注意したい点は、仮に顧問弁護士・顧問税理士に設計を依頼したとしても、必ずしも希望通りの結果につながるとは限らないことです。
一口にストックオプションと言っても、具体的にはいくつか種類があり、それぞれで享受できるメリットが異なります。 特に、有償時価発行型の新株予約権の時価算定は複雑であることから、経験者・ストックオプションの仕組みをよく知る人物などに依頼することが大切です。
導入時期、対象者など具体的な内容を決める
ストックオプションを導入する場合、以下の内容を意識して、具体的な内容を決めていきます。
・企業の成長段階や現状の株価を意識した発行時期の設定
・誰に付与するのか、付与対象者の決定
・付与対象者に対する、ストックオプションの仕組みの説明と付与の方法
・増資、IPO等を考慮した株主構成
ストックオプションの留意事項は、上記内容につき国内の税務・会計制度を横断的に把握できていなければ、デメリットの方が大きくなります。 セカンドオピニオンの要領で、複数の専門家に相談することをおすすめします。
規定の手続きを行う
制度上、ストックオプションには規定の手続きがあります。 何をするのかを理解して、滞りなく手続きを済ませなければなりません。 少しでも不安があれば、経験者を介して手続きを進めるのが無難です。
2.ストックオプションの導入手続き
続いては、ストックオプションの導入手続きについて、もう少し詳しく見ていきましょう。 いくつかのステップに分け、導入手続きを簡単にご紹介します。
①取締役会への付与決議
ストックオプションの導入時、取締役に対して制度導入を行う場合、株主総会での決議が必要です。 例外として、社員への付与のみの場合・定款に制度の取り決めが明記されている場合に関しては、開催は不要です。
②募集事項の検討と決定
続いて、募集事項を具体的に定めます。 このステップで定めるものは、ストックオプションの権利行使価格・権利行使期間・ストックオプションの数量です。 また、ストックオプションと引き換える形で金銭の払込を必要とするかしないかで、取り決めが変わってきます。 具体的には、必要としない場合の理由、必要とする場合の払込金額・算定方法・割当日などです。
公開会社は、募集事項の決定を取締役会決議で行った場合、割当日の2週間前までに、株主に対し募集事項を通知・公告をする義務があります。
③申込者への通知
ストックオプションを申し込んだ人に対し、会社は以下の情報を通知します。
・株式会社の称号
・募集事項
・(ストックオプションの)権利行使の際、金銭の払込の必要がある場合には払込を取り扱う場所
また、申込者は会社に対し、以下の書面を提出しなければならないため、その旨も周知しておく必要があります。
・申込者の氏名、住所
・申込予定のストックオプションの数
④付与予定者と割当数の決定→発行
申込者の中から、それぞれの割当数を決めていきます。 ストックオプションを発行した日以降、会社は遅滞なく「新株予約権原簿」を作成し、上場企業の場合はストックオプション発行に関する適時開示を行います。
⑤登記
割当日の当日から2週間を期限として、法務局にストックオプションの登記を行います。
3.ストックオプションの導入に向いている企業
意外かもしれませんが、ストックオプションの導入に向いている企業の条件を満たしている企業には、中小企業が多いのです。 特に、これからIPOを目指す企業・先進的な技術を持っているスタートアップ企業が該当します。
以下に、それぞれの企業がストックオプションを導入した場合のメリットについてご紹介します。
IPOを目指す企業
IPOを予定している企業は、新規上場に伴い資金を調達することを想定しています。 そこでストックオプションを導入していると、社員は株価の上昇に伴い、利益を得られる可能性があります。 権利を行使する段階で会社がIPOを果たし、株価が権利行使価格よりも高くなると、その分安く社員は株式を取得できます。 差益が利益となり、場合によっては莫大な金額を得られるのです。
スタートアップ企業
スタートアップ企業は、上手く発展すれば、将来的に株価が発展する可能性を秘めています。 仮に、IPOを意識していない段階であっても、人気商品・サービスに火がつけば、近い将来は上場も視野に入れることになるでしょう。
想定以上に株式を発行してしまった場合でも、ストックオプションを持っていることで、安かった頃の株価で持ち株比率を回復させるのに応用できます。 タイミングは外部株主が入る前なのでシビアですが、会社を守る保険として活用する方法もあります。 注意点としては、株式売却の機会がある「上場」を、最終的に目指すことが挙げられます。 ここをきちんと目標として社員に共有しなければ、メリットが絵にかいた餅となってしまうので、十分注意が必要です。
4.ストックオプションの導入のポイント
実際に、自社でストックオプションを導入する場合、いくつか注意しておきたいポイントがあります。 自社の状況に合わせ、適切な形で導入するためにも、事前に覚えておきたいことをまとめました。
導入のメリット・デメリットを理解する
導入に向けて準備を進める前に、人事の立場(=会社の立場)で導入のメリット・デメリットを把握しておきましょう。 分かりやすいメリットは、経営者並びに従業員の「企業価値を向上させる意識」を高めるのに役立つ点です。
株主(自分たちも含む)の将来的な利益を想像したり、企業価値を高めるためにどうすればよいのか考えたりする機会を増やし、自社に対する魅力を高めることにつながります。 その反面、付与基準に該当しなかった社員が不満を訴えたり、世界情勢などの事情により利益が出なかったりするケースにも遭遇しますから、100%の効果を補償するものではないことを理解しておきましょう。
トラブルやリスクについて先回りして検討する
ストックオプションの導入により、社員が利益を得たとしても得なかったとしても、それぞれの場面でトラブル・リスクを想定しておく必要があります。 IPOを果たして多額の金銭的利益を得た社員の中には、利益を受け取ってから退職を検討するケースもあるからです。 また、IPO上場に失敗した場合、社員の士気が下がるおそれもあります。 将来を見据えたインセンティブであることを認識し、社員にはできる限り丁寧に割当数の根拠を説明しましょう。