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    トップダウン型の評価制度は、長らく多くの会社で導入・運用されてきましたが、その弊害に悩まされるケースも増えていきました。 代表的なものの一つにMBO(目標管理制度)があります。 人材マネジメントの面では優秀な一面があったものの、目標の共有範囲が狭くなりがちで、個人の目標に対する評価が明確に示されることから、モチベーションを下げる一因にもなっていました。

    しかし、Google・メルカリなど先進的な取り組みを進めている企業の中では、OKR(業績評価制度)が導入され、きわめて優れた目標管理ツールとして機能しています。 この記事では、名だたる企業が導入しているOKRについて、その概要・メリット・デメリット・各種手法との違いなどについてご紹介します。

    OKRとは?

    OKRの正式名称は「Objectives and Key Results」で、アメリカのインテル社でCEOを務めていたアンディ・グローブが開発した手法です。 直訳すると「目標と主要な結果」という意味になりますが、組織の業績を評価するという意味で「業績評価制度」と意訳されることもあります。

    仕組みとして特徴的なのは、会社全体として達成すべき目標が設けられた後、そこに主要な結果が紐づけられるような形になっていることです。 また、評価の期間が短くなっていることも特徴で、1ヶ月~四半期というスパンでこまめにレビューを繰り返します。 達成度の期待水準も、従来の評価制度に比べて高くなっていて、目標に対して60~70%を成功とみなすレベルの目標が設定されます。 個々の社員が会社全体の目標を意識して行動するという意味では、非常に画期的な評価制度と言えるでしょう。

    OKRのメリット・デメリット


    OKRを導入することで、会社や社員が得られる具体的なメリット・デメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。 以下に、主なものをご紹介します。

    メリット:大胆な目標設定とスピーディーな軌道修正を両立できる

    OKRにおける目標設定は、きわめてシンプルで数字を入れない形で設定するものと定められています。 モチベーションに直結する、チームをインスパイアする目標を設定することが重要とされます。

    また、1ヶ月~四半期の中でそれを達成できるように設定されるため、目標に到達できなかった場合の軌道修正もスムーズです。 新しい目標の設定は、より上の階層にある目標をもとに設定する仕組みになっているので、目標設定そのものにかかる時間も節約できます。 貢献度は明確に可視化され、目標達成に向けてコミュニケーションも活発化していきます。 社員それぞれのサイクルが上手くかみ合えば、短期間で強力な組織が生まれるでしょう。

    デメリット:導入できる企業の規模に限りがある

    大きな目標を各社員のレベルまでチャンクダウンして取り組めるOKRは、企業全体の目標を社員に浸透させる意味で効率的です。 しかし、それだけ大きな組織ならともかく、自分の仕事が明確で、しかも他者の仕事に関しても面倒を見る中小企業においては、なかなか機能しにくい一面があります。

    また、短期間で目標を見直すやり方が向いている業種もあれば、農業など年単位で目標を見直すやり方が向いている業種もあります。 目標見直しのタイミングを誤ることで、かえって正確な情報を収集できないまま計画の改変が続くと、社員のモチベーションを下げてしまうおそれがありますから、自社が導入できる事業規模かどうか・業界全体のスピード感はどうかを検討してから導入すべきだと言えます。

    OKRを導入するには?


    社内にOKRを導入するためには、最低でも準備期間として3ケ月は必要です。 企業目標(Objectives)はきわめてシンプルな目標を1つに絞る必要があるため、かなり野心的な目標を掲げなければ社員がインスパイアされずに終わってしまう結果につながりかねないため、経営陣の目標設定に時間がかかることを想定しておかなければなりません。

    また、1ヶ月~四半期の中で達成率70%でもOKという目標は、今まで100%ベースで目標を考えてきた集団にとって、設定の方向性を定めるのが難しい部分があります。 【組織全体/グループ・部門/個人】という、それぞれのOKR設定に対して1ヶ月を見積もるスタンスで時間を想定しておけば、スケジュールに余裕が生まれるでしょう。

    目標が定まったら、それぞれのセクションで求める主要な結果(Key Results)を決めていきます。 1つの企業目標につき、計測可能なもの・目標に関連性のあるもの・実現可能であるものを3~5個ほど設定するのがスタンダードな方法です。 集めたObjectivesとKey Resultsを軸に、内容の集約・修正を行った後、そこから割り振りや調整を行っていきます。

    最終確認段階では、ロジックの破綻はないか・会社全体のビジョンや目的との整合性は取れているかをチェックして、外部コンサルタントなどの意見も踏まえ精度を高めていきます。 設定できる内容になったら、それを全社に公開し、OKRのサイクルがスタートします。

    OKRとMBOの違い

    日本の大多数の企業が導入しているMBO(目標管理制度)は、しばしばOKRと比較されることがあります。 しかし、それぞれの特徴や仕組みは大きく異なり、セルフマネジメントの手法・枠組み・適用範囲にも差が見られます。

    そもそも、OKRが会社としての目標達成・業績評価制度であるのに対して、MBOは人事考課の性質が強くなっており、報酬に関係する評価制度となっています。 また、目標の共有範囲にも違いがあり、OKRが全社をあげたプロジェクトであるのに対し、MBOは主に上司と部下の関係性から成り立っています。

    達成度の期待水準に関しては、OKRは60~70%・MBOは100%が基準となっていて、目標のとらえ方・ハードルの設定内容に大きな違いが見られます。 そして、評価の頻度もMBOは1年スパンとなっていて、見直しの期間が早いOKRと同列で考えることはできません。

    これらの内容から分かる通り、OKRとMBOは似たようなフレームワークを持ちながらも、評価制度としての性質には大きな違いがあります。 個人の評価を切り離した目標設定を行っているか、それとも各人材の能力を実績に応じて評価する姿勢を重視するのかによって、どちらを導入すべきか判断が分かれるところでしょう。

    OKRとKPIの違い

    会社によっては、業績管理の方法としてKPIを導入しているケースもあると思います。 数値で指標化できることから、数式を使ってゴールまでのプロセスを明確にして、具体的な情報が数多く盛り込まれたデータを確認できる利点があります。

    しかし、KPIはOKRと比較対象にすべきでない指標です。 というのも、OKRがそもそもの「目標」を設定した後で主要な結果を定めていく手法であるのに対し、KPIはその目標に対して現状がどうなっているのか、進捗状況をチェックするためのものだからです。 つまり、OKRとKPIを組み合わせて使う用途には適していたとしても、KPI単体でOKRとの差をレビューすることはできないのです。

    目標の共有範囲に関しても、OKRのように全社単位で考えるのではなく、あくまでも部署・チーム単位が基本となりますから、KPIはどちらかというと細かい部分にフォーカスした手法と言えます。 MBOと同様、100%の期待水準となっており、この点でもOKRとは違いがあります。 ただ、KPIの評価の頻度は早く、量・質・コスト・進捗率など、日々のアクションに伴う数字を追うための目標を設定するのに向いています。 実務の中でモニタリングがかんたんにできる仕事であることが、KPI導入の条件になるでしょう。

    【関連記事】
    MBO(目標管理制度)の基礎知識。OKRとの違い

    OKR導入例


    続いては、実際にOKRを導入している企業について掘り下げてみましょう。 導入例から学べるところがあれば、自社の評価制度を見直すきっかけになるはずです。

    Google

    Googleは、OKRを導入して成果をあげている代表的な企業の一つです。 組織の働き方における先進事例を集めたサイト「Google re:Work」では、OKRに関する詳細な説明がまとめられたページを閲覧できます。

    検索機能を日々強化しているGoogleらしく、一つひとつの説明が端的に・ボリュームたっぷりの内容にまとまっており、それだけGoogleがOKRに傾倒していることが分かります。 個々の従業員が行っている仕事と、会社全体の目標につながりを持たせることで、高い透明性と責任感の醸成を実現した企業の好例と言えるでしょう。

    メルカリ

    個人取引の可能性を世に広めたメルカリは、国内におけるOKRのパイオニアとして知られています。 【グループ全体→各事業部→各部署→各チーム→個人】という順序でOKRが設定され、人事管理システムによってOKRを入力・管理できる仕組みとなっています。

    評価に関しては2つの軸が設けられており、メルカリのValues(大胆にやろう・全ては成功のために・プロフェッショナルであれ)を実践できているかどうか、OKR達成の過程で見られた成果やパフォーマンスはあるか、という評価軸によって、プロセス主体の評価が行われています。

    まとめ

    大きな組織に強い連帯感を持たせるOKRは、企業にとって適した形で運用できれば、大きな成果につながる可能性を秘めています。 ただ、教科書通りの導入を進めたとしても、後々になって行き詰まりが発生するおそれがありますから、自社にとって無理のない形で導入するにはどうすればよいのか、会社の事情も踏まえつつ判断する必要があります。

    MBO・KPIのような制度・指標と比べると、OKRは組織全体をまとめるには効率的ですが、必要性の高い企業の事業規模はそれなりに大きいものと考えられるため、どんな企業にもマッチするとは限りません。 OKRを導入する前に、既存の手法でできること・できないことを洗い出した上で、慎重に導入を進めることが求められます。