採用成功ガイドRECRUIT GUIDE


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    株式会社マクロミルの調査「2016年 新社会人の意識調査」によると、入社からわずか1ヶ月半で、およそ3割の新卒者が「会社を辞めたいと思ったことがある」という結果が出ています。おそらくは会社に馴染めない状況から出た回答ではあるものの、1ヶ月半では会社のイロハさえ分からない状況です。もちろん、早期離職は新卒者に限らず、中途採用者などでも多く見られます。長い目で見て、早期退職は企業・個人ともに不利益をこうむる可能性が高いため、人事担当者としては適切な対策を講じなければなりません。今回は、早期離職のリスクを減らす、早期離職対策についてご紹介します。

    1.早期離職とは?


    1-1.どれくらいで辞めたら早期離職なのか?

    そもそも、早期離職とみなされる離職時期は、一般的にいつ頃と考えられているのでしょうか。厚生労働省によると、毎年の入社総数に対して「1年間で3年以内に離職した人」の割合から離職率を計算して統計を出していることから、概ね入社後3年以内の離職を指すものと理解してよいでしょう。

    1-2.新卒・中途採用の早期離職率

    具体的な早期離職率としては、厚生労働省の調査結果によると、新卒者は大卒でおよそ31.8%、高卒で39.3%という結果が出ています。これは中途採用者でも概ね似たような傾向があり、中小企業庁の調査結果によると、中小企業での中途採用者採用後3年間の離職率は概ね3割となっています。

    1-3.海外の早期離職事情

    ちなみに、海外の離職率と比較してみると、日本の離職率は相対的に低い傾向があります。データブック国際労働比較2018「従業員の勤続年数(2016年)」のデータを見る限り、日本と比べて他の国では1年未満で会社を退職する割合が高く、転職に抵抗がない層は多いものと推察されます。

    2.早期離職のデメリットとメリット


    続いては、早期離職に伴うデメリット・メリットについて、会社の立場からいくつか取り上げていきます。 早期離職は、どうしても会社の成長を阻害する面ばかりが注目されてしまいますが、視点を変えてみれば早期退職制度を掲げている会社もあるため、一定のメリットも存在しています。人事担当者として、デメリットとメリットは分けて考えることが大切です。

    2-1.企業にとっての早期離職のデメリット

    ・デメリット1:お金が無駄になる
    新入社員・中途社員ともに、せっかく有力な人材として働いてもらおうと考えている中、新たな社員が早期に会社を離れてしまうと、社員を見つける・育てるための採用コスト・教育コストを回収できない状況となります。社員が戦力になるにはそれ相応の年月がかかるため、スタートラインで戦線離脱されてしまうと、金銭的・時間的投資が全て無駄になってしまうのです。

    ・デメリット2:社員のモチベーション低下
    同僚が会社を辞めていくのを見るのは、残る側にとってつらいものです。また、主な退職理由の一つである人間関係の問題は、辞める当人に問題があったかどうかは別として、関係者の評価を落としてしまうことにもつながりかねません。

    ・デメリット3:会社の評判が落ちる
    早期離職が続くことで、人事としては採用の手を止められない状況となります。転職サイトなどに常時求人を載せることとなり、その結果、会社の評判が悪くなってしまう可能性があります。インターネット上では口コミサイトなども数多く存在しており、退職者が悪評を書く場合も珍しくありません。すると、その評価を読んでから、さらに求職者が集まりにくくなるという悪循環につながってしまうのです。

    2-2.企業にとっての早期離職のメリット

    ・メリット1:自発的で前向きな退職である
    従業員も会社も常に変化しています。そのため、何らかの理由で、会社が提供する仕事や環境と本人の希望が合わなくなることは、自然な流れです。そのような状況でも、会社としてはそれだけの理由で社員を辞めさせることはできません。強引に辞めさせるような手法は、ハラスメントになる可能性もあります。 その点、より遣り甲斐のある仕事を求めて、自発的に退職していく社員が定期的に発生しているという状態であれば、むしろ会社の変化・成長に合った人材の循環と考えることができます。

    ・メリット2:他の社員のモチベーション低下を回避できる
    何らかの理由でミスマッチが発生して、著しくモチベーションを下げてしまう従業員もいます。仕事と割り切って必要な成果を出してくれるなら問題はありませんが、建設的な議論ではない不平不満を言って周囲に悪影響を及ぼす場合は、見過ごせません。他の社員が感化されて会社に損失を与えるおそれがあります。 そのような社員が、短期間で速やかに退職することで、他の社員に与える影響が少なくなります。

    ・メリット3:退職金の支払いが不要な場合がある
    会社によっては、勤続年数に応じた退職金の支払いを就業規則で設けている場合があります。しかし、会社によっては「勤続3年未満の者には退職金を支給しない」などと勤続年数を指定していることが多いため、退職金の支払い手続きが不要となります。

    3.早期離職の原因と対策10選!


    ここからは、早期離職が起こる原因に触れつつ、早期離職を防ぐための対策を10件ご紹介します。基本的には、会社と求職者側とのミスマッチが早期離職につながるため、伝えるべきことをきちんと伝えることが大切です。

    ①面接時に企業のネガティブ情報も伝える

    求職者と面接する場合、求職者が会社について知っている情報は、求人情報の内容も含め当人がリサーチした範囲のみです。それを企業側が鵜呑みにしてしまうと、入社してからお互いに「こんなはずじゃなかった」という後悔につながりやすくなりますから、当人が知らないであろう会社の現実も踏まえて現状を伝える必要があります。中には、前任者の退職事由として「人間関係」の問題があったことを、オブラートに包んで伝えなければならない場合もあるでしょう。しかし、事前に話を通すのと通さないのとでは、求職者側の覚悟にも違いが生まれます。

    ②人事が入社後フォローを行う

    会社のネガティブな事情を理解したとしても、当人の能力と覚悟だけではどうにもならない場面は往々にして存在します。苦手に感じている社員が周りにいたとして、それを同じ部署の人間に相談できる環境が整っているかと言えば、新人の時期はなかなか難しいものです。人事が入社後に何らかのフォローを入れ、早い段階で会社に馴染めるよう努力することが大切です。

    ③社員同士の交流機会を設ける

    新卒・中途問わず、新入社員は他部署も含めて社員同士の交流が必要にもかかわらず、なかなかお互いに会って話す機会が少ないものです。そのため、歓迎会などコミュニケーションを取れる機会を増やすことは、仕事を円滑に進めるために重要です。必要に応じて、直属の上司だけでなく経営陣も参加すると、新入社員に「新人を大切にしてくれる会社」だと感じさせることができるでしょう。

    ④キャリアアップイメージをすり合わせる

    キャリアアップに関するイメージは、社員ごとに異なります。人によってはスピーディーな出世を想定している場合もありますし、逆に時間をかけて成長していきたいと考えている場合もあります。この点につき、上司面談などを使って、会社が期待する将来像・社員が期待する将来像をすり合わせることで、ミスマッチを防げます。

    ⑤メンター制度を導入する

    面談を定期的に行うことは大切ですが、新入社員が相談したいと感じる場面は、面談の場面だけではありません。担当の上司を設けて仕事に関するフォローができるように、メンター制度を導入するとよいでしょう。都度相談できる人がそばにいることは、精神的にも新入社員を安心させるはずです。

    ⑥非公開アンケートを実施して本音を知る

    退職者の本音を聞き取ろうとしても、辞めてしまうとなかなか聞き取りが難しいはずです。そこで、定期的に実名が公表されない非公開アンケートを実施し、今の本音を知って対策を講じるのに役立てるとよいでしょう。実名は書かれていなくても、現状として各部署にどのような問題があるのかを間接的に知ることができるため、意見を丁寧に紐解くことが重要です。

    ⑦会社の成長ビジョンを共有する

    未来が見えないことに投資するのは、多くの人にとって難しいことです。特に新入社員にとっては、会社の方向性と自分の方向性を早い段階ですり合わせておかなければ、キャリアパスをイメージできずに転職を検討してしまうかもしれません。会社がどのように成長し、その中で自分たちもどのように成長できるのか、ビジョンを早い段階で新入社員に共有してもらうことが大切です。

    ⑧表彰など、頑張りが認められる場を作る

    誰しも、叱られるより褒められる方が嬉しいものです。よって、定期的に表彰の機会を設けるなど、何らかの形で社員の頑張りが他の人に認められる場を作ると、モチベーションがアップします。働き始めて早い時期なら、なおさら会社への忠誠心が強まるでしょうから、あえて評価のハードルを下げて会社全体で評価するのも効果的です。

    ⑨適切な配置換えを行う

    働いているうちに、どうやら現在の部署が新入社員に合っていないことが分かった場合、人事がそれを把握しているなら配置換えも検討しましょう。過去のキャリアを考慮するのはもちろんですが、人員が不足している部署への充当も考えるなど、環境の変化によるパフォーマンス改善を期待するのは悪い選択肢ではありません。

    ⑩給与レンジが適切か見直す

    給与レンジ・給与テーブルに関する情報を公表していない会社は多いと思いますが、大抵の会社では、社員同士のやり取りである程度の昇給幅が知られています。単身者は家族がいる社員に比べて役職にかかわらず給与が低い・勤続年数によっては役職者を超える給与が得られるなど、仕事の質とは関係ないレンジが設けられていると分かった場合、社員のモチベーションが落ちる可能性があります。実績と貢献度は分けて考えるなど、一部の基準を極端に重視しないことが大切です。

    4.まとめ


    人と人とのつながりは、あらゆる場面で必要とされます。会社においてもそれは同様で、お互いを少なからず信頼できる要素がなければ、誰しも長年同じ会社で勤めることはできません。仕事もまた、コミュニケーションを活発化し、人間関係を円滑にすることから発展が望めます。それを実現するためには、社員の立場の別にかかわらず、お互いの仕事について深い理解が必要です。新入社員が仕事において分からないと感じる点は、その人それぞれで違うものです。一律に「正しい」ことを教えるだけでは、理解が追い付かないこともあるでしょう。それを踏まえた上で、社員にとって分かりやすい指導ができる体制を整えることが求められます。その上で、給料がどのような基準に基づいて発生しているのか・どのようなことがこの会社では評価されるのかなど、評価の背景を順次理解してもらうよう働きかけることが大切です。

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    【参照】
    株式会社マクロミル「2016年 新社会人の意識調査」
    厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(平成27年3月卒業者の状況)を公表します」