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目次

    RJP理論の4つの効果と注意点

    苦労して採用・育成した人材が職場を離れる理由の一つとして、採用前に会社のネガティブな要素を知らされていなかったことがあげられます。 昨今では、慢性的な人材不足が原因で会社をたたむケースも増えている反面、新卒就職率は高卒・大卒ともに高い傾向にあります。経験を積んだ優秀な人材ほど、「現在の会社にも満足できなくなったら別のところで働けるだろう」という思惑があるものと推察されます。

    こうしたミスマッチを防ぐ目的で、アメリカ発の採用手法「RJP理論」が注目されています。 この記事では、RJP理論の概要・4つの効果と、導入するにあたっての注意点をご紹介します。

    RJP理論とは

    RJP(Realistic Job Preview)理論とは、日本語で直訳すると「現実的な仕事情報の事前開示」という意味です。 採用活動においては、自社の魅力を伝えて動機づけし、入社支えることが目的になりがちです。しかし、人材の定着こそが企業にとっては重要だという視点の理論です。

    RJP理論自体は、決して目新しいものではなく、アメリカで1970年代に提唱されたものです。 アメリカは日本以上にポジティブなイメージを大切にしますが、それは求職者を集める場合も同様で、企業の側がイメージのよい情報だけを求職者に伝えていた時代がありました。

    このような状況を懸念した産業心理学者のジョン・ワナウスによって提唱されたのがRJP理論で、彼はポジティブな情報だけでなく、ネガティブな情報も含めて求職者に発信することの重要性を提唱しました。 この理論はアメリカで長年研究されているものの一つですが、現代の日本でもRJP理論が注目されているのです。

    なぜRJP理論が注目されているのか

    日本の採用市場では、コロナ禍までは売り手市場の傾向が続いていました。 求職者が自由に求人を選べる時代においては、企業も優秀な人材を採用するのが難しく、求人情報を公開してもなかなか人が集まりにくい傾向にあります。

    そのような中でも、多くの企業が自社で働くメリットを懸命にアピールしました。 その結果、何とか採用にまでこぎつけたものの、数カ月~数年が経過してまさにこれから仕事に精通してもらおうという時に、社員が退職してしまうケースが散見されるようになりました。 いわゆる「ミスマッチ」の問題が、広く認知されるようになったのです。

    ミスマッチが発生する大きな理由の一つとして、求職者に発信した情報が不十分だったことがあげられます。 自社のポジティブな情報発信を信じて入社したものの、実際に働いてみて「業務量が創造よりも多かった」・「人間関係が良くない」などのネガティブな部分が見えるようになってしまったら、最終的に退職を検討してしまうのは致し方ない部分もあります。

    特に、新卒者は退職しても第二新卒としてカテゴライズされるため、別の会社に転職するハードルは低めです。 手塩にかけて育ててきた社員が離れてしまうと、教育に要した時間・費用・労力がすべてムダなものになるため、できるだけ最初の段階で退職リスクが低い人材を雇い入れたいのはどの企業も同じです。

    もし、採用の初期段階でネガティブな情報も含めて紹介していたら、長く働いてくれる・本気で働いてくれる社員だけを集めることができていたかもしれません。 RJP理論は、採用を頭数を集めることで終わらせるのではなく、せっかく採用した優秀な人材や育成し成長した人材を定着させてることを目的としています。安定的に成長し続ける組織作りにおいて重要な理論の一つと言えるでしょう。

    RJPの4つの効果


    RJP理論を導入することによって、企業には4つの効果が期待できます。 以下に、それぞれの効果についてお伝えします。

    ワクチン効果

    求職者にとって良いことだけでなく、悪いことも同時に伝えることで、事前に自社に対する免疫(ワクチン)を作る効果が期待できます。 良い情報だけを与えられると、求職者はその情報から過剰な期待を抱いてしまうため、入社後に感じる失望感を軽減させる意味で重要です。

    スクリーニング効果

    求人に関する情報を包み隠さず伝えることで、求職者はその企業が自分に適しているか、希望条件を叶える職場なのかどうかを判断しやすくなります。 これをスクリーニング効果といい、より高い精度でのマッチングにつながるメリットがあります。 採用担当者側も、結果的に選考時の負担が軽減され、質の高い採用を実現しやすくなります。

    コミットメント効果

    メリット・デメリットの両方を説明する「両面提示」の手法は、主にビジネス・セールスの分野で用いられる心理学として有名ですが、採用活動においても有利に働く場合があります。 ネガティブな情報をきちんと求職者に開示できるほど、自社の取り組みに自信があるものと求職者には映るため、誠実さをアピールできるメリットがあります。

    役割明確化効果

    求職者が入社前に描いていた会社へのイメージが、入社後に悪い意味で崩壊すると、仕事への意欲が失われる傾向にあります。 しかし、企業が求職者に求めること(任せたい仕事の具体的な内容)をきちんと伝えられれば、求職者の就業意欲を向上させることが期待できます。

    RJP理論の導入方法

    企業でRJP理論を導入するにあたっては、以下の5つのガイドラインが設けられています。

    ・RJPの目的を求職者に説明した上で、誠実に情報提供を行い、与えられた情報の十分な検討と自己決定を促すこと
    ・提供する情報に見合ったメディアを用い、使用するメディアにかかわらず信用できる情報を提供すること
    ・客観的な情報のみならず、現役社員が自分の言葉で仕事や組織について考えを語る感情的側面を含めること
    ・組織の実態に合わせて、良い情報と悪い情報のバランスを考慮すること
    ・採用プロセスの早い段階で行うこと

    基本的には、これらのガイドラインに沿う形でRJP理論を採用手法に取り入れるわけですが、実際にどのような形で取り入れるのが適切なのかは、各企業によって異なります。 ただ、RJP理論を採用手法に取り入れている企業は、日本でもいくつか有名な事例が紹介されています。

    RJP理論を導入している代表的な企業の一つに、株式会社ヴィレッジバンガードコーポレーションがあげられます。 店長に対して「何をしてもいい」と大幅な権限移譲を行っている企業の一つで、店長に自分の店を大きくできる可能性を与えてモチベーションアップを図っているのが特徴的です。

    学歴不問というのも大きなポイントで、意欲的なアルバイトが入社する理由の一つですが、その代わり社員になるまでは長らくアルバイトを続けなければならず、ほとんどの店舗で賃金は地域最低水準・交通費無支給という厳しい条件が課せられています。 ポジティブな部分・ネガティブな部分が分かりやすく構成されている意味で、RJP理論の本質を突いた採用活動を行っていると言えるでしょう。

    RJP理論の注意点


    RJP理論を採用活動に取り入れる際の注意点は、ポジティブな要素・ネガティブな要素のバランスです。 正直に社内の現状を説明することは、確かにミスマッチを防ぐ上では有効かもしれませんが、あまりにネガティブな部分にフォーカスしてしまうと、かえって求職者が魅力を感じにくくなります。

    自社が誇るポジティブな部分をきちんと伝えた上で、それを成立させるために必要なネガティブ要素を適度に織り交ぜて発信することが、RJP理論導入の正しい形です。 「苦労はあるけれど、達成した時のやりがいが大きい」・「ミッションは大きいけれど、ともに協力して働ける仲間がいる」など、誤解されないよう情報発信を工夫することが大切です。

    また、受入部署とのやり取りは、人事部が注意して行わなければならないポイントです。 採用担当者の側で描いているイメージと、受入部署が望んでいることが合致していなければ、人は集まっても欲しい人材がいないというケースに悩まされるかもしれません。

    よくあるのが、仕事内容の難易度・環境の厳しさについて、人事部と受入部署との間で認識が異なるケースです。 受入部署からのメッセージを真に受けてしまうと、ポジティブなイメージが先行してしまいますし、かといって現場社員の率直な声ばかりを取り上げると、場合によっては仕事の難易度・厳しさだけが浮き彫りとなる結果につながるかもしれません。

    中途半端な形で情報発信を行ってしまうと、結果的に採用活動の質が落ちてしまうため、人事部と各部署との連携を強化した上でRJP理論を実践することが必要です。

    まとめ

    RJP理論は、日本でこそようやく認知されてきましたが、アメリカでは古くから研究が進んでいる理論の一つです。 人材を多数集める意味では不利になる一方で、正しく導入すれば多数の応募者の中から人材を選り分ける手間が省け、採用にあたっての失敗が少なくなります。

    求職者側が自由に勤め先を選べる時代になった以上、企業側も意識を変えて、逆に求職者側へアピールする必要があります。 しかし、ただ耳触りの良い情報だけを集めるのではなく、自社の現状を率直に伝えることも忘れず、本当に自社を目指してくれる人材だけにアピールすることが大切です。

    RJP理論を自社の事情に合わせて導入できれば、採用のミスマッチを防ぐことにつながります。 採用力を高めるためにも、欲しい人物像について会社全体の意思を統一した上で、本当に来て欲しい人だけに届く情報を発信しましょう。

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    <参考>
    >中小機構調査研究報告書「ベンチャー企業の人材確保に関する調査」