2018年05月10日

顧客が仮想通貨事業を始めた!公認会計士が監査時に理解しておくべきポイントとは?

管理部門・士業の転職

投機対象から決済手段へ。仮想通貨の企業への浸透は近い。

仮想通貨NEMの流出事件は皆さんの記憶に新しいと思います。この事件を受けて、仮想通貨から法定通貨に交換する仮想通貨交換所を運営する企業すべてに金融庁の監査が入りましたが、その結果ほとんどの交換事業者に業務改善命令が出されました。高騰を続け、いまや株式やFXを超える投資として注目されていた仮想通貨が、実際にはあまりにも危うく、ぜい弱な基盤で提供されていたことが明らかになったのです。

仮想通貨の市場が拡大すればするほど、こうしたリスクによる社会的な影響は大きくなります。改正資金決済法により、仮想通貨交換事業者の増加だけでなく、従来の事業に仮想通貨を取り入れるケースも想定されます。それに比例して、公認会計士の皆さんが仮想通貨に関わる企業を監査対象とする機会も増加してくるのではないでしょうか。
そこで今回は、公認会計士の方が、クライアントが仮想通貨事業を始めた際に押さえておきたいポイントについてご説明します。

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これから増加する仮想通貨と企業の関わり

国内でも仮想通貨市場の急騰を受け、仮想通貨関連の市場が拡大しています。公認会計士として、担当しているクライアント企業が仮想通貨に携わるようになってくるかもしれません。そこで、企業が仮想通貨と関わっていくケースを考えてみましょう。

(1)仮想通貨交換事業への新規参入
金融機関やインターネットサービス会社などが仮想通貨交換の事業を立ち上げたり、取引所の運営会社に出資したりする形による参入が急増しています。
仮想通貨の交換事業は金融庁への登録制になっており、事業会社が株式会社であること、資本金1,000万円以上、純資産がマイナスでないなどの条件があります。仮想通貨交換事業者には、年1回以上の外部監査の実施が義務づけられていますので、交換事業者が増えれば、監査という形で関わる機会が増えていくでしょう。

(2)流通・小売業・外食店での仮想通貨決済の導入
インバウンド需要を受け、海外旅行者の利用が多い家電量販店、飲食店などではすでに仮想通貨による決済が導入されています。ご存じのとおり、観光産業の拡大は経済政策の柱のひとつにあがっており、観光客の利便性向上の一環としてこの流れは加速していくでしょう。

(3)仮想通貨による支払い
仮想通貨による決済が普及してくれば、給与や外注費の支払いを仮想通貨で支払われることを希望する従業員や外注先が出てくる可能性があります。仮想通貨の普及を推進する過程で、一般消費者に対するポイント還元などの特典が用意されるようになれば、その要望は間違いなく高まってくるでしょう。

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公認会計士が理解しておくべき仮想通貨交換事業者の監査

そもそも、仮想通貨の交換事業者が登録制となった背景には、マネーロンダリング対策と利用者の保護があります。仮想通貨はその特性上、資金移動が容易かつ速やかに行えるため、マネーロンダリングがしやすいといわれています。2015年のG7サミット(ドイツ・エルマウ開催)の首脳宣言では、テロ対策の一環として仮想通貨への対応が盛り込まれています。国際的な犯罪組織によるマネーロンダリングも問題視されており、仮想通貨がテロ組織の資金調達などに利用される可能性を指摘しています。それを受けて、日本では仮想通貨交換事業者が登録制になり、金融庁の監督下に置かれるようになったのです。
マネーロンダリング以外にも、違法薬物や銃器類、クレジットカードや銀行口座などの違法な売買の決済に仮想通貨が使用された実績があり、犯罪での利用が懸念されています。2017年に大流行したコンピュータウィルス「ランサムウェア」の身代金の支払い先がビットコインの口座だったことなども記憶に新しいのではないでしょうか。

もうひとつの理由に「利用者の保護」があります。2014年の当時、世界最大規模の仮想通貨交換所だったマウント・ゴックス社の破綻、そして、昨年のコインチェック社のNEM流出事件、いずれも被害は莫大な額にのぼり、多くの利用者に影響を及ぼしました。コインチェック社は流出したNEMに相当する額を自社資産によって補填しています。マネーロンダリング対策と利用者保護への対応のため、仮想通貨の交換事業者には一般企業以上に、適切な管理・運営体制と健全な経営が求められているのです。

このような経緯から、仮想通貨交換事業者の監査では財務諸表監査だけでなく、証券会社などと同じく顧客の資産と交換事業者が保有する資産と明確に区分して管理する「分別管理」に対する監査が義務づけられています。
ご存じのように、証券会社などが破綻した場合にも顧客の資産が保護される管理方法ですが、これが仮想通貨の交換事業者にも適用され、改正資金決済法の施行日(2017年4月1日)時点で仮想通貨交換業を行っている事業者は、施行日から1年以内、それ以外の場合も登録日から1年以内に、分別管理監査を受ける必要があるとされています。分別管理監査については、日本公認会計士協会から分別管理監査のための実務指針が2017年5月31日に公表されています。

仮想通貨の会計処理は、期末時点の仮想通貨の評価方法や仮想通貨交換業者の損益計算書上の表示方法等が論点となっていましたが、2017年12月に企業会計基準委員会から、資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する基準案が公表されています。あくまでも当面の扱いであり、今後も仮想通貨市場の変遷や仮想通貨の社会的なポジション変更によって変わってくる可能性が高いですが、2017年12月期、2018年3月期決算の会計処理を監査する場合は以下の点がポイントになります。

(1)期末評価
・活発な市場が存在する場合は市場価格
・活発な市場が存在しない場合は取得原価

(2)財務諸表の注記事項
・期末日に保有する仮想通貨の貸借対照表価額の合計額
・仮想通貨交換業者が預託者から預かっている仮想通貨の貸借対照表価額の合計額
・期末日において保有する仮想通貨の種類ごとの保有数量および貸借対照表価額
※仮想通貨を「活発な市場が存在する仮想通貨」と「活発な市場が存在しない仮想通貨」の別にする。
ただし、貸借対照表価額が僅少な場合は、貸借対照表価額を集約して記載しても可。

税務上の取扱いについては、2017年9月に、仮想通貨を使用することで生じた利益は所得税の課税対象(原則として雑所得)となることが明示されました。仮想通貨に関する税務の概要についてはこちらでご覧になれます。

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公認会計士にとってもキャッシュレス社会への備えは必須

世界各国でのキャッシュレス化への動きは着実に進み、仮想通貨による決済がその一端を担っていくことが予想されます。韓国では少額貨幣の廃止など、日本よりも早くキャッシュレス化に向けて舵を切っていて、保険、ゲーム、インターネットなどの多分野で事業を展開する複合企業が仮想通貨市場に参入するという発表がありました。この企業は、日本でも普及しているコミュニケーションアプリ運営会社と関係が深く、日本ではそちらから仮想通貨の展開が始まる可能性もあります。

これまで投機的な視点だけで見られがちだった仮想通貨が、今後公認会計士の業務として、クライアント企業に関わってくることは十分あり得ます。
親和性の高い金融機関やITサービスの会社による新規参入だけでなく、仮想通貨による決済を活用したサービスなど、新たなフィンテックサービスの市場が形成されるかもしれません。それに伴って、仮想通貨が企業や個人の資産の一部として定着してくる日は近いでしょう。ごく近い将来のために、公認会計士として、仮想通貨のしくみやそれを取り扱う会計処理についての知見を養っておくことが必須となると考えられます。

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