「変化する人事制度」

第103回2015/03/18

「変化する人事制度」


「変化する人事制度」

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昨今、女性の管理職登用の推進や男性の育休・産休取得など、人事制度が話題にあがることが多くなりました。昔では考えられなかったようなことですが、価値観が多様化している中で、企業には時代に即した組織作りが求められています。また、採用活動においても、人事制度は候補者を惹きつける為の重要な要素を占めています。

そこで今回は、これまでの常識に捉われない現代のユニークな人事制度をお伝えしたいと思います。


「年功序列」「終身雇用」「企業内組合」(1950年~1960年代)
最近の人事制度の前に、まずは昔の人事制度がどのようなものだったかについて振り返ってみましょう。
戦後、1950年代に日本は高度成長期を迎えました。この日本の経済成長を支えてきたのは「日本型経営システム」の三種の神器と呼ばれた「終身雇用」、「年功序列制」、「企業内組合」と言われています。この制度のメリットとデメリットは、以下のようなものでした。


【メリット】
1、 定年まで同じ会社で働き続けられるので、労働者は精神的・経済的な心配がなく、仕事に集中できる
2、 企業側は新卒から採用した人材を長年かけて自社の色に染めることができ、企業風土を維持することができる
3、 組合により従業員の意識や考え、不平不満が把握出来、労使関係が安定する


【デメリット】
1、 基本的に職を失うことがないので、中には手を抜いたり努力をしない人が出てくる
2、 社会常識とは相容れない社風が継承されてしまう場合がある
3、 労働力の高齢化にともない賃金コストの上昇が負担となる

学歴、勤続年数を基本として昇給や昇格がされてきましたが、社員の年齢が上がるにつれ、上記のようなデメリットが顕在化してきたため、時代と共に人事制度のトレンドも変化していくことになります。


「職能資格制度」(1970年~1990年代)
「年功序列制」では公平な人事評価ができないとして、その後取り入れられたのが「職能資格制度」です。それまでの年功制に代わり、社員の能力を等級に分けて格付けし、昇進・昇格・昇給を決める制度です。とはいえ、格付けは経験年数に左右されることが多く、年功的な意識での運用が少なくありませんでした。


【メリット】
1、 年功制と比較すると評価の納得感があり、モチベーションの向上に繋がる
2、 従業員の能力開発上の目安・目標が出来る


【デメリット】
1、 経験年数などの指標があるため、成績優秀者の最短昇格や飛び級昇格は難しい
2、 経験年数の長い中高年社員の増加に伴い、人件費が高騰する
3、 個々の社員の専門性が十分に評価されない
(いったん到達した職務遂行能力は失われないということを前提にしている)

特にバブル期は各企業での人材採用が経営課題となり、この「職能資格制度」と前述の「終身雇用制度」が社会に広く深く浸透していきました。しかし、これらの制度はバブル崩壊とともに見直されることになります。


「アメリカ型成果主義」(1990年代~2000年代)
バブル経済の崩壊によって、多くの企業が経営の効率化を迫られたのが1990年代。「失われた10年」とも呼ばれ、人事を巡る環境も大きく変化しました。
象徴的なのは、成果をあげた従業員に多額の給与を支給するアメリカ型成果主義が注目され、多くの企業がこの制度を導入したことです。


【メリット】
1、 従事する職務の価値の大きさに対して支払う賃金なので、経営合理性が高い
2、 職務ないし、職位に対する賃金なので、職能給に比べ、年功的賃金増額を抑制できる
3、 職務を明確にする意図で職務記述書を作成するため各人の使命を明確にできる
4、 処遇向上のためには価値の高い職務に就く必要があり、各人が従事する職務の専門性を高める動機づけとなる


【デメリット】
1、 育成の意図もあり内部異動が頻繁に行われるが、成果が下がる=職務給が下がる異動は難しく、柔軟な異動の妨げとなる
2、 職務記述書作成の労力がかかる。またアップデートを怠ると、陳腐化してビジネスに合わなくなる
3、 職務記述書に書かれていることのみ行う傾向 が生じ、それ以外のことをしなくなる
4、 上位に空きポストがないと、職務が上げ止まってしまいモラルを維持しにくい

人材育成をする余裕のある企業が減少した結果、即戦力を欲する企業は増加し始めたのもこの時代です。早期退職の促進やリストラ等で余剰人員を減らし、能力が高く好成績を上げる者はそれに見合った対価を払うというような組織作りが進みました。

しかし、数字が全ての「アメリカ型成果主義」は日本に馴染むことなく、企業独自のユニークな人事制度が広がりはじめます。


現代のユニークな人事制度
これまで人事制度は上記のような変遷を遂げてきましたが、現在においては価値観が多様化し、また各企業が独自の採用をするようになりました。採用、リテンションを意識する上で重要なのが人事制度です。
下記へ具体的な企業を挙げ、ユニークな人事制度を見ていきたいと思います。


◇サイバーエージェント「マカロン制度」
女性特有の体調不良の際に月1回まで取得できる特別休暇「エフ休」や、不妊治療を受けている女性社員の為の「妊活休暇」などを総称した制度がマカロン制度です。女性社員が長く働き続けられる環境整備の促進として導入されました。


◇カヤック「サイコロ給」
基本給に加え、「サイコロを振って出た目」分が+αとして支給されるという非常にユニークな給与制度です。基本給+(基本給×出た目%)がお給料になるという仕組みで、基本給を下回ることはないそうです。


◇レバレジーズ「朝ヨガ」
就業時間前の7:30〜8:30に講師を招き、朝ヨガを行っています。朝ヨガ以外にも社員が企画したユニークな制度を数多く取り入れています。


◇サイボウズ「育自分休暇制度」
留学等で一度環境を変え、自分を成長させたいと退職を希望する35歳以下の人を対象に、退職後最長6年間は職場復帰が可能な「再入社パスポート」を付与しています。


◇チカラコーポレーション「失恋休暇」
失恋した際に、この失恋休暇を取りたい旨を店長に報告すれば、早くて翌日から取得できます。特に申請書類等は不要で、口頭の申告でOK。気になる休暇の日数は年齢別になっており、20代前半は1日、20代後半は2日、30歳以上は3日の取得が可能です。


海外の人事制度
これまでは日本の人事制度についてみてきましたが、最後に海外の人事制度にも触れておきます。


◇GE「9Blocks」

GE「9Blocks」.png

「直近のパフォーマンス」と「将来的なポテンシャル」の2つの軸で社員の能力を判断方法です。

縦軸はその社員の貢献や目標達成度(パフォーマンス)、横軸はその社員がいつまでにどれだけ責任のある仕事を任せられるかの見込み(ポテンシャル)を表しています。
縦軸は上から「20%」「70%」「10%」に区切られており、下に行くほど業績が余り良くない状態にあり改善を求められます。
横軸は右に行くほど将来への期待値が大きく、
(1)は「現職が精一杯」、
(2)は「数年以内に責任ある仕事を任せられる」、
(3)は「今すぐ責任ある仕事を任せられる」と判断されます。
この9つのボックスを「9Blocks」といいます。
縦軸のパフォーマンス(業績)だけで判断するのではなく、横軸の将来的な期待値(ポテンシャル)を踏まえて社員の能力を判断されるので、ある時期パフォーマンスが余り良くなかった場合でも将来的な可能性を感じられるのであれば猶予期間を与えられます。
逆に、パフォーマンスが良いだけでは高い評価は得られません。パフォーマンスが悪く、将来的なポテンシャルも感じられない場合は、その社員は任された仕事とミスマッチだったと判断をされ解雇となります。
こうして「9Blocks」は組織内のミスマッチを無くし、新たな人材を採用して新しい風を取り込んでいるようです。


◇google「20%ルール」
勤務時間の内、20%は自分がやりたいこと(独自のプロジェクト等)に費やすことが出来るという20%ルール。
この有名なルールも、今では利用する社員は減少傾向にあるようです。
その背景には、この20%ルールを利用するのに「許可」が必要であり、通常の勤務時間以外の時間に作業をしなくてはならなくなった事にあるようです。
今後は新しくアイデアを生み出すだけではなく、今あるものをより良くしていく方に力を入れていくようです。


まとめ
上記では触れられなかったものでは、女性目線での女性の活用やワークライフバランスに関するもの、リテンションマネジメント(いかに採用した人材を定着させるか)やこれからの働き方の一つになってくるだろうクラウドソーシング(これからの働き方)に関するものなど数多くの人事制度があります。
しかし、人事制度は社員に利用されなければ意味がありません。人事制度を考え、取り入れ、周知することは手間がかかります。しかし、上手くいかなければ直ぐに修正、もしくは廃止するなど臨機応変に対応することが企業の成長につながります。


いかに人事制度を利用して貰いやすくするか。
今後もますます価値観が多様化する中で、企業も柔軟に対応することが求められるでしょう。
これを機会に一度、現行の人事制度を見直してみてはいかがでしょうか。

(文/リクルーティングアドバイザー 金洋樹)

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