「解雇」
第31回2007/07/31
「解雇」
「解雇」
今年2007年は報道でも日々目にすることが多いかと思いますが、
「バブル期を超える採用意欲」を示す企業が大変増えてまいりました。
これまでは新規学卒者を採用し長期の育成が中心だった「労働力の自前主義型企業」も、
バブル崩壊後の採用抑制時期に該当する年次の労働者を中途で採用するケースや、
企業の合併・買収(M&A)に伴いスペシャリストや管理責任者を採用するケースなど、
さまざまなシーンで採用を活発化してきております。
しかし採用活動と転職活動が活発化する一方で、
労使間のトラブルも増加してきているのが現状です。
特に近年は労働者の組合離れが顕著になり、
労使関係はかつての企業‐労働組合の関係から
企業‐労働者個人の関係にシフトしてきています。
それに伴い個別的な労使間でのトラブルが増加し、
特に解雇に関わるケースの場合はこじれて長期化する傾向にあります。
企業-労働者間のトラブルの中で
解雇問題は昔からポピュラー且つセンシティブなトラブルであり、
現在も労使紛争において最も重要な問題です。
安易に解雇を行えば、労使の信頼関係を損ねるばかりでなく、コンプライアンス違反、
CSR(企業の社会的責任)の問題に発展する恐れがあり、
労使ともに良い結果には至りません。
今回はこの「解雇」をテーマに取り上げ、法令による解雇制限や手続き、
また、トラブルになりやすいケースなどに触れ、概説していきます。
1. 「解雇」とは
一般的に「解雇」とは、
「使用者側から労働者への一方的な労働契約の解除」のことをいいます。
いわゆる「クビ」という表現が解雇の最もポピュラーな呼び名で、
労働者の承諾を必要としない通告が解雇に該当します。
単純に「解雇」といっても、例えば労働者側の非行によるケースや
企業側の経済的事情によるケースなどいくつかの分類に分けることが出来ます。
以下では代表的な分類を取り上げ、それぞれについて説明します。
【解雇の種類(分類)】
解雇は一般的にⅠ.普通解雇、Ⅱ.整理解雇、Ⅲ.懲戒解雇の3つに大きく分けられます。
(1)普通解雇
通常、単に「解雇」といった場合には普通解雇のことを表します。
普通解雇は、労働者の労働契約上の債務の履行がされない場合、
つまり約束をした労働(仕事)の提供がされなかった場合など、
労働契約を継続し難い止むを得ない事由のある時に認められる解雇のことをいいます。
よく挙げられる例としましては、
①勤務成績や能率が著しく悪い、または能力・技能に著しく問題があり、
業務に適さないと認められるとき
②労働者の健康状態に問題があり、業務に適さないと認められるとき
③重大な規律、秩序、勤務義務違反などの行為があったとき
などがあります。
但し、注意しなければならないのは、
これらの事実があったとしても直ちに解雇の正当な理由とはなりません。
解雇は「客観的に合理的な理由」があり、「社会通念上相当」であると認められなければ、
解雇権の濫用として無効となります(労働基準法18条の2)。
つまり、客観的に正当な事由がなければ
労働者の従業員たる地位は失わない(解雇できない)ことになります。
なお、この「客観的に合理的な理由」や「社会通念上相当」の基準については、
個別ケースごとに判断されるというのが裁判での傾向です。
(2)整理解雇
企業の業績が悪化したことなどにより、
止むを得なく人員整理を行うことを目的にされる
解雇のことをいいます(いわゆる「リストラ」です)。
整理解雇についてはどちらかというと企業側に責任がある点から、
普通解雇に比べて解雇が認められる場合は厳しく判断されています。
整理解雇が有効となるための具体的な要件(要素)としては、
①会社を維持するために人員削減を行う必要があること
②解雇を避けるための努力がなされていること
(配置転換・賃金カット・希望退職者の募集など)
③解雇対象者の選定基準が妥当であること(客観的に合理的な基準を設定しているか)
④事前に労働組合または労働者に対し、十分な説明・協議があること
上記の4つについては「整理解雇の四要件」または「整理解雇の四要素」と呼ばれています。
四要件という解釈をすれば①~④の全てが満たされない限り整理解雇は無効となりますが、
一方で四要素と解釈すれば、①~④のうちどれかを満たしていれば有効となります。
現在は四要素という理解が多くされており、裁判でもその傾向が現れています。
(3)懲戒解雇
企業は、多数の労働者がその施設や設備を用いて協同作業を行う組織体なので、
企業組織の構成員としての労働者の行動を規律することが必要となります。
多くの企業では就業規則において「服務規律」と称される労働者の行為規範を定め、
これに違反した労働者に懲戒処分を行います。
懲戒解雇とは、懲戒処分としてなされる解雇であり、
懲戒の中で最も重い処分のことをいいます。
懲戒処分の事由の例としましては、
1)事業場外で行われた行為であっても、著しく当該事業場の名誉、
信用を失墜させるもの、取引関係に悪影響を与えるものなど
2)原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
3)出勤不良または出勤常ならず
再三にわたって注意を受けても改悛の見込みがない場合などがあります。
懲戒解雇は刑法でいえば死刑に値する処分であり、
懲戒解雇の場合、解雇予告またはそれに代わる予告手当
(労働基準法20条1項)が支払われず、
また、退職金の全部または一部が支給されないことも多いです。
その分、懲戒解雇処分が有効とされるには厳格な判断がなされ、
その有効性の判断は非常にシビアにされています。
労働者が懲戒解雇されたという事実は、再就職の重大な障害になるため、
上記の懲戒事由例に該当したとしても、
労働者の行為が懲戒解雇に処さなければならないほどの
重大な義務違反(非違行為)である場合にのみ認められます。
2.法令等による解雇の制限について
既述の通り、解雇は労働者の生活に関わる重要な問題である為、
法令上もその行使には一定の制限がなされています。
民法上は、期間の定めのない雇用契約(いわゆる正社員)の場合には
2週間の予告期間を設ければ
いつでも解約の申し入れが出来ると定めております(民法627条)が、
事実上この条文は労働基準法で修正されています(労働基準法18条の2)。
また、その他にも以下のような事由の場合、使用者の解雇権を制限しています。
1)国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇
2)業務上の傷病による休業期間及びその後30日間の解雇
3)産前産後の休業期間及びその後30日間の解雇
4)労働者が労働基準監督署へ申告したことを理由とする解雇
5)解雇予告または解雇予告手当の支払いを行わないなど解雇の手続きに問題がある解雇
6)労働者が労働組合に加入していることを理由とするなど不当労働行為となる解雇
7)女性であること、あるいは女性が婚姻、妊娠、出産したこと、
産前産後の休業をしたことを理由とする解雇
8)育児・介護休業の申し出をしたこと、
または育児・介護休業を取得したことを理由とする解雇
など
その他にも就業規則や労働協約で解雇制限が規定されている場合、
それに反する解雇権の行使は無効とされます。
3.注意すべきケース
(1)退職勧奨について
近年は少なくなってきておりますが、
平成の長期不況時には中小企業だけでなく
銀行や商社などの大企業でも多くの人員削減が行われました。
その手法のひとつとして退職勧奨があり、
いわゆる「肩たたき」という表現がよく使われておりました。
例えば退職の意思がない労働者に対して、使用者が退職を勧奨する行為は、
場合によっては「解雇」とみなされる場合があります。
「今辞めれば早期退職優遇制度に該当するよ」などといい、
辞職を勧める行為はまだしも、「来月から出社しても仕事はないよ」、
「来月から遠方の工場に転勤してもらうから」などと、
明らかに退職を強要するような退職誘導策は「解雇」に等しい行為とされ、
例え労働者が自ら退職届を提出したとしても
強迫や錯誤があったと判断されれば無効となります。
(2)契約更新の拒絶について(雇い止め)
最近、企業が中途採用者を雇い入れる場合、
1ヶ月ないし1年などの期間の定めを設けて採用する場合があります。
このように雇われた労働者を契約社員、嘱託社員などと呼んでおりますが、
このような形式で雇い入れた場合、
原則として契約期間中はその雇用契約を解除することは出来ません。
また、期間の定めがあったとしても、
長期にわたって反復継続して契約を更新していった場合
(例えば3ヶ月契約で3年間更新し続けた)、
途中で契約の更新を拒絶することを「解雇」として扱われることがあります
(「雇い止め」と呼ばれています)。
ですので、契約社員または嘱託社員という雇用形態で採用する際には、
採用時に「最長で3年まで」などと制限を設け、
労働者に示しておかないと、後でトラブルになる可能性がありますので注意が必要です。
(3)内定取消について
一般的に、採用内定は新卒・中途を問わず採用内定通知(文書、口頭問わず)に併せて、
入社に関する具体的な情報の提供や指示がある場合には、採用を決定したとみなされ、
その時点で雇用契約が成立します。
その観点から見ると、仮に入社前に採用内定を取り消した場合、
既に成立した雇用契約の解除、つまり解雇に該当します。
内定の取り消しについても解雇に関する規定同様、
客観的に合理的な理由がなければ無効とされます。
労働基準局監督課編『採用から解雇、退職まで』でも、
「学校を卒業できなかったとか、健康診断に異常があったとか、破廉恥罪を犯したなど
内定時の評価に質的な変化を生じた場合に限られるべきであろう」としています。
内定取り消し=解雇となるケースの場合には、注意が必要です。
4.総括
以上のように、使用者は正当な合理的な理由がない限り解雇を行うことはできず、
万が一解雇を行う際には慎重な配慮が必要になります。
それと同時に、正しい法律知識を認識することはもちろんのこと、
採用や就業開始の時点から労使間の十分な相互理解も必要となります。
基本となることは企業(使用者)と労働者が対等であることを念頭に、
協力して企業・労働者ともに成長していくことではないでしょうか。
その観点から、今回のテーマによって
あらためて労働法の知識を身に付けて頂く一助となれば幸いです。
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