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第6回2005/03/11
ダニエル・ゴールマン氏の著書『EQ:こころの知能指数』(原題「Emotional Intelligence」)によって有名になった『EQ』。ビジネスで成功を収める人々は皆このEQが高く、Fortune誌が選ぶトップ企業500社のうち約8割の企業がEQを人事制度に採用しているとも言われています。今回はこの「EQ」に焦点を当て解説します。
1.EQとは?
EQとはEmotional Intelligence Quotientの略であり、日本語では感情指数と呼ばれます。1989年にイエール大学のピーター・サロベイ博士とニューハンプシャー大学のジョン・メイヤー博士によって発表された理論であり、学問上では以下のように定義されます。
「EQは、情動状態を知覚し、思考の助けとなるよう情動に近づき、情動を生み出し、情動や情動的知識を理解し、情動面や知的側面での成長を促すよう情動を思慮深く調整する能力である」(Salovey & Mayer, 1997)
その後、上述の『EQ:こころの知能指数』によってアメリカビジネス界から世界的に広まったEQですが、その概念の誕生はそれまで学歴重視であったビジネス界を大きく揺るがすものでした。
2.EQという概念の誕生
しばしば「学歴社会」と表現される日本のビジネス界ですが、アメリカビジネス界も日本に劣らず学歴が重視される社会です。そんな中、ピーター・サロベイ博士とジョン・メイヤー博士のふたりが「IQ(知能指数)の高さ」と「ビジネスでの成功」の関連性を示そうと調査を行いました。ところが、多数のビジネスマンを対象としてサンプルを集め、IQの高さとビジネスでの成功度合い(年収や役職など)との関連性を調べた所、「IQの高さとビジネスでの成功に関連性はない」(ビジネスでの成功要因はIQの高さではない)という結論にたどり着きました。ビジネスでは一流大学を出た頭の良い人間が成功しやすいと考えられていたものが、実はそうではないという意外な結果となったのです。
そこで、ふたりの博士が今度は逆に「ビジネスでの成功者たちに共通する要因はないのであろうか?」と彼らの能力、性格、ビジネススタイルなどを調査していった結果、ひとつの事実が浮かび上がってきました。それは、『ビジネスでの成功者たちは自身の感情を的確に把握し、感情のコントロールがうまいだけでなく、他者の感情の状態を感じ取る能力にも長けている。それによって、周りの人間と良好な関係を築くことができ、結果として優秀な成果を上げていた』、つまり「対人関係能力に優れていた」というのです。
そして、ピーター・サロベイ博士とジョン・メイヤー博士はそれをEI(感情知能)と名付け、後にダニエル・ゴールマン氏によって「EQ」として世に知られることとなるのです。
3.EQを構成する要素
さて、そのEQですが、具体的には大きく4つの能力に分類されます。
1:自分の感情を感じ取る能力 2:最適な感情を創り出す能力 3:他者の感情を把握し、相手の言動の中での感情の位置づけを理解する能力 4:自己成長を促すために感情をコントロールする能力
これら4つの能力が優れているほどビジネスにおいて、周囲の人間と円滑なコミュニケーションを取ることができ、ハイパフォーマーとして成果を上げることができるのですが、日々のビジネスにおけるどのような行動のことであるのか例を挙げて示してみたいと思います。
1:自分の感情を感じ取る能力
とある会社の営業マンであるA氏に顧客から突然のクレームが入りました。大慌てで先方のもとへと駆けつけたA氏ですが、先方は大激怒。さすがのA氏もパニックに陥ってしまいます。⇒ここで「自分は今、動揺しているな」と理解できるのが『自分の感情を感じ取る能力』です。この能力はこういった突然の感情の変化だけでなく「ここ数日なんか仕事に身が入らないな」といった平常時の精神状態の把握にも当てはまります。
2:最適な感情を創り出す能力
しかし、当然のことながら動揺したままではクレームに対処できません。そこでA氏は心を落ち着かせ冷静に相手の話に耳を傾けました。⇒このように状況に合わせて感情をコントロールできるのが『最適な感情を創り出す能力』です。仕事に対するモチベーションが下がっている時にそれを意識的に高めることができるかどうかもこの能力によるものです。
3:他者の感情を把握し、相手の言動の中での感情の位置づけを理解する能力
そして、いよいよ本格的に顧客との話し合いが始まりました。A氏はいろいろと主張もありましたが、まずは相手の話に耳を傾けてみたところ、先方が怒っている理由が実はほんの些細なものでありこちらがひと言謝罪すれば済むということがわかりました。そこで、喉元まで出掛かっていたこちらの主張をそのまま引っ込め、しっかりと謝罪したところ、無事に理解を示して頂き今後の取り引きも継続できることとなりました。⇒相手とのコミュニケーションの中で相手の心理を把握することができるのが『他者の感情を把握し、相手の言動の中での感情の位置づけを理解する能力』です。上司の言動から機嫌の良し悪しを判断できる部下や、言葉には出さないが落ち込んでいる部下の様子に気づき励ますことのできる上司などはこの能力に長けていると言えます。
4:自己成長を促すために感情をコントロールする能力
無事にクレーム対応を終え、今回の件を振り返ってみると先方が怒っていたのは本当に些細な理由からだったということをA氏は改めて認識しました。「あんな些細なことで激怒するなんて相手も大人気ないな」と思いつつも「自分が予め注意を払って行動しておけばクレームにまで発展しなかったな。次からはその部分に気をつけよう」と今回の件から教訓を得ることができたのです。⇒このように、ひとつの出来事からでも「クレームが入るなんて今日はついてない日だ...」と不機嫌になる人もいれば、上述の例のように自分への教訓と捉える人もいます。後者のような人が『自己成長を促すために感情をコントロールする能力』に長けた人ですが、例に示されるようなネガティブな状況以外にも、高い営業目標を達成し満足してしまいがちな状況で「よし、この目標が達成できたのなら、もっと上の目標を狙える」とさらにモチベーションを上げることのできる営業マンなどもこの能力に優れていると言えます。
このように、ビジネスシーンにおける何気ない行動ひとつひとつの差がEQの高さの差であり、最終的にその差が大きなパフォーマンスの差へとつながっていきます。
4.EQの特徴
EQが注目を集めた理由のひとつには「教育や学習、訓練などによってEQを高めることができる」という大きな特徴があります。IQ(知能指数)は遺伝的な要因も大きく、生まれながらIQが高い人との差はなかなか埋めることができませんが、EQは日々努力を重ねることによって高めることができる能力なのです。そもそも、EQとは「心の力」いわゆる「人間性」を示すものです。そう考えれば「努力することによってEQを高めていける」ということを理解しやすいでしょう。
自分はどのような性格の人間か...、日々の生活の中で自分はどのように考え、どのように行動する傾向があるのか...、自分の言動は周りの人間の感情にどのような影響を与えているのか...など常に自分と自分の周りの人間の関係を意識することによって、自分と他者の感情をより把握できるようになりEQは高まっていきます。
5.EQを高めることによって
EQの特徴を活かし、現在では採用試験や社員研修にEQ検査を導入する企業も増えています。特に、常に顧客と接する営業マンや窓口・店舗スタッフなどにとってEQは欠かせない能力であり採用時にEQの高い人間を選抜したり、社員研修時に自分のEQを把握させ、自身の弱点を克服させていくことは非常に重要であると言えます。
しかし、それ以上にこのEQの醍醐味とは「職種や役職関係なく全ての人間に必要とされる能力である」という点にあります。現在のビジネスでは営業も、経理も、システムエンジニアも常に周囲とのコミュニケーションを取っていくことが必要とされます。また、新入社員であればまずは上司や顧客とのコミュニケーションにおいてEQを磨かなければなりませんし、管理職に昇格すれば部下との、あるいはそれまで接することの少なかったさらに上の上司とのコミュニケーション能力も必要となります。経営者に至っても、会社が小さいうちは気が知れたメンバー相手のやりとりだけだったものが、社員が増え組織が大きくなるにつれ社員との距離も広がり、全ての社員が常に自分の意図を正確に理解してくれるというわけではなくなってきます。そのような状況では自分の言動が社員にどのような影響を与え、どう接していけばより多くの社員が自らの理念を汲み取っていってくれるのかを考えることが重要ですし、数少ない社員とのコミュニケーションの中で意思疎通を図っていかなければなりません。
現代のビジネス社会は人と人とのつながりによって構成されており、他者とのコミュニケーションが全ての基本となっています。そう考えるとEQの高い(対人関係能力の高い)人間が高いパフォーマンスを上げることができるというのも当然のことであり、このビジネス全盛の時代にEQという概念が生まれ、注目されてきたことも自然な流れであると言えます。
社員が、管理職が、経営者が、常に自己のパーソナリティーを見つめ周囲の人間を理解する。それによって深いコミュニケーションが生まれ、チームとして、事業部として、企業として、そしてビジネスパートナー同士として一体感が生まれより高いパフォーマンスにつながって行く...EQという概念が明確にしたそんな組織のモデルを実践していくことが企業の永続的な発展につながると言えるでしょう。
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