「アウトソーシング」

第79回2011/08/08

「アウトソーシング」


「アウトソーシング」

近年、企業経営において『効率化』というキーワードが注目されています。
若年層の労働人口の減少や固定費の増加、非コア事業への多角的な事業展開などが進んでいるなか、限られた資源を活用した業務運営が重要になっています。業績が好調な企業では、社内業務の効率化に対し積極的に取り組む姿勢が見られますが、その一環として『アウトソーシング』が有効活用されています。
アウトソーシング市場全体の4割を占めているITアウトソーシングの市場規模を見てみると、伸び率自体は低下しているものの堅調に推移をしており、2007年から2013年の平均成長率は4.3%、2013年には3兆1305億円に達すると言われています。(※矢野経済研究所 データ参照)
そのため、アウトソーシング全体の市場規模も増加傾向にあると考えられます。
今回のコラムでは、いまなお積極的に活用されている『アウトソーシング』について取り上げ、その歴史や活用事例などについてお伝えしたいと思います。

 

アウトソーシングとは
人件費・設備投資費などのコスト削減やコア事業に経営資源を集約する為に専門的な能力を持った外部機関に業務を委託する事をアウトソーシングと言います。
アウトソーシングには適した業務としては、『専門性が高い業務』、『一定期間に集中して忙しくなる業務』、『定型的なルーティンワーク』、『月に数回しか発生しない頻度が低い業務』といったものが挙げられます。具体的な例としては、
・給与計算業務
・経理代行業務
・営業・販促に関する業務
・ITインフラの管理・メンテナンスに関わる業務
といった業務が該当します。

 

実際に管理部門の方々にお話をお聞きしたところ、アウトソーシングを活用している企業は多く、会計基準の国際化や四半期報告制度の導入で複雑化した業務を平準化するためにアウトソーシングを活用したり、新卒・中途採用活動において採用業務の一部を外部機関に委託したり、という話を良く耳にするようになりました。

 

アウトソーシングについては上記の通りですが、一体アウトソーシングという概念はいつごろ誕生したと思いますか?
次はアウトソーシングの歴史について振り返っていきたいと思います。

 

アウトソーシングの歴史
アウトソーシングは、遡ると1960年代のアメリカで誕生したといわれています。
当時のアメリカの企業は急激な事業拡大に伴い会社の規模が大きくなる一方、経営の効率が悪化し競争力の低下が続き、固定費(人件費・設備投資)が増加していました。
特に設備投資・運営費用が高い情報処理の分野にて、IT分野で専門的なサービスを提供するEDS社(システムコンサルティング事業)がプリントレイ社に対してアウトソーシングを行ったのが最初だと言われています。
その後、アウトソーシングという名称が世の中に大きく広がったきっかけとして、1989年にコダック社が情報処理部門をIBM社にアウトソーシングした事例があります。従来、IT部門のアウトソーシングは、技術力が低い企業が行っていましたが、コダック社のような高い技術力を持つ大手企業がIT分野でのアウトソーシングを行ったことで、アウトソーシングがコア事業へ経営資源を集約するための有効な手段の一つとして認められることになりました。この事例は『コダック・エフェクト』と呼ばれて業界に大きな影響を与えました。
アウトソーシングは競争力をつけるものだと認識され、アウトソーシング契約を発表することによって企業の株価を引き上げる効果さえ持つようになりました。そのため、『コダック・エフェクト』以後、アウトソーシング市場は急速に成長しました。
1991年にはアンダーセン・コンサルティング社がブリティッシュ・ペトロリアム社に経理部門のアウトソーシングサービスを開始するなど、アウトソーシングのサービスは情報システム分野だけではなく様々な分野に導入されるようなりました。

 

日本における本格的なアウトソーシングは、1989年にセブンイレブン・ジャパン社が情報システム部門を野村総合研究所に一括委託したのが最初だと言われています。
近年では、情報処理の分野だけではなく経理や人事などの管理系業務から、製造や営業、コールセンター、研究開発などアウトソーシングのサービスは幅広い分野に及んでいます。
また、アウトソーシングを活用する目的についても単なるコスト削減効果だけではなく、内部管理体制の強化やサービスに高い付加価値を付けるという、より戦略的なものになってきています。

 

上記のような経緯で広く利用されるようになったアウトソーシングですが、多くの企業がアウトソーシングを導入していった理由はどこにあったのでしょうか?
次はアウトソーシングのメリットについてまとめました。

 

アウトソーシングのメリット
企業がアウトソーシングを導入するには様々な理由が挙げられますが、多くの場合下記のようなメリットがあるからだと考えられています。下記に代表的なメリットを挙げてみました。

 

(1)人件費などのコスト削減
アウトソーシングをすることによって、その業務にかかわる人材の採用コストや教育コスト、退職金、福利厚生等の費用が不要となります。契約期間内の一時的な費用のみで、社員を増やさずに業務遂行の維持拡大が柔軟に対応可能です。

 

(2)固定費の変動費化
企業(あるいはプロジェクト)の状況や時期に合わせて、マンパワーの維持・増大・縮小が可能になります。人件費を変動費化することで、景気状況に対して柔軟な対応ができます。

 

(3)コア業務の強化
一部の業務を他に任せて余分なコストを低減させることにより、新規事業や新商品の開発等、貴社の基幹業務へ優れた人材や費用を注力することが可能になります。

 

(4)高い専門性の確保
ITや会計・法律、技術開発等の一部の業務には、高い専門性が要求される場合があります。
そういった業務に対し、人事異動や中途採用を行うことなく、比較的容易に高い専門性を確保することが可能です。

 

上記の例は一部ですが、アウトソーシングには多くのメリットがあるため、これほどまでに普及してきたのだということがわかります。
しかし、上記のようなメリットもあるアウトソーシングですが、必ずしも良いことばかりではありません。次にアウトソーシングのデメリットについても解説します。

 

アウトソーシングのデメリット
アウトソーシングも万能ではありません、メリットがあればデメリットもあります。
アウトソーシングのデメリットについて、代表的なものをピックアップするとともに、利用時の注意点について解説いたします。

 

(1)社内ノウハウが蓄積されない
外部委託をしている期間、業務を任せっぱなしにしてしまうと技術やノウハウが社内に蓄積されなくなってしまいます。そのため、ノウハウが必要な場合は自社の社員を業務に参加させるなどして、ノウハウを吸収させる必要があります。

 

(2)情報漏洩のリスクがある
アウトソース先の内部統制がしっかりしていない場合、外部に社内の重要な情報が流出してしまうリスクがあります。そのため、事前にアウトソース先の企業調査やセキュリティチェック、契約内容などをしっかりフォローする必要があります。

 

(3)余剰社員の発生
自社で対応していた業務を新たにアウトソーシングする場合、当然その業務を担当していた社員の業務が無くなってしまいます。アウトソーシングの対象となる機能の社員は他部門に異動もしくは削減リストラの対象となるので、社員のモチベーションやモラルが低下してしまう可能性があります。そのため、異動対象者へのフォローアップや、新たな業務の創出などの対応が必要になります。

 

アウトソーシングにはコスト削減という大きなメリットがある一方、無視できないデメリットも多く存在します。うまく活用できないと、逆に効率が悪くなってしまう事にもなりかねません。そうなってしまっては本末転倒です。
実際にアウトソーシングを導入したものの上手く活用しているケースだけではなく失敗したケースもあります。続いて具体的にアウトソーシングの成功例と失敗例についていくつか見てみましょう。

 

アウトソーシングの成功・失敗事例
前述の通り、アウトソーシングには様々なメリットとデメリットがあるわけですが、次は実際に導入に成功した事例とうまくいかなかった事例を解説します。

 

-アウトソーシングの成功事例1

製造業A社は日々のシステム運用に追われて、本来の業務が後回しになっていて、新しいシステムの企画開発のための工数が確保できていない状況でした。また日々進化を続けているIT環境に対して自社だけで対応していくことに限界を感じていました。
この問題を解決すべく基幹システムのサーバー管理をアウトソーシング先に預け、基幹システムの保守とヘルプデスクのすべてをフルアウトソーシングしました。
サーバー管理からシステム保守までをフルアウトソーシングすることで、担当部門がシステムの企画開発等の業務に集中できるようになり、現在は基幹システムが進化し続けており、業績も安定しているとのことです。

 

-アウトソーシングの成功事例2

大手金融企業のB社は顧客の重要なデータを自社内にあるサーバーで管理していましたが、大規模災害やシステム障害によるデータ消失のリスクがあることを懸念していました。
金融系システムにおける最重要データは、万一の災害時にも速やかに復旧させることが必須であり、仮にデータが損失した場合は業務停止や社外的信用の失墜でビジネス上深刻な事態におちる可能性がありました。この問題を解決するため、セキュリティ上信頼のおけるアウトソーシング先を選定し、データセンターでの管理を依頼しました。サーバーのデータは毎日バックアップを行い、週に一回はフルバックアップしたデータを遠隔地に保管することにしました。これにより重要データ消失のリスクを分散することに成功しました。

 

-アウトソーシングの失敗事例

健康食品事業を展開しているC社は、事業の急成長に伴い、顧客対応を行うコールセンター部門をすべてアウトソーシングに移管しました。
しかし、アウトソース先のコールセンタースタッフの離職率が高く、頻繁に担当者が入れ替わったことで、商品知識の欠乏と対応力の低さから顧客離れが続き、本業の売り上げが大きく低下しました。この状況を受けたC社は、コールセンター業務のアウトソーシングを中止しました。
その後、自社の社員のトレーニングを行い、顧客対応の業務プロセスや対応ノウハウを蓄積していくことで、現在ではお客様満足度が向上して売り上げも順調に回復し始めたとのことです。

 

上記の事例からもわかる通り、アウトソーシングを有効活用して成功したケースがある一方、活用方法を間違えるとデメリットにもなりうることがご理解頂けたかと思います。企業の中核を担う重要な業務には自社の社員が中心となり教育・トレーニングをして事業を推進することが大切です。

 

総括
今回はアウトソーシングについて、様々なことをお伝えいたしましたが、アウトソーシングを有効活用するためには、まず「現在(~近い将来)、自社に必要な機能は何か?」を十分に理解して、その業務についての詳細を把握することが重要です。
アウトソーシングを活用するか、しないかは別としても、まずは自社の業務効率化についてもう一度見直してみてはいかがでしょうか?

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