「イントラプレナー」

第97回2014/02/18

「イントラプレナー」


「イントラプレナー」

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みなさん、「イントラプレナー」という言葉をご存じでしょうか?
アントレプレナーという言葉は、「自ら事業を興す者=起業家」という意味で耳にする機会もありますが、イントラプレナーと聞いて、すぐに意味が分かる方は意外と少ないのではないでしょうか。今回は、「アントレプレナー(起業家)」の対比として使われる「イントラプレナー(社内起業家)」について少し考えてみたいと思います。

 

イントラプレナーとは

イントラプレナー(Intorepreneur)とは、企業内において新しいビジネスを立ち上げる際、その責務を担うリーダーとなる人材、つまり企業内起業家のことをいいます。一般の起業家を意味する「アントレプレナー」と区別してこう呼ばれます。イントラプレナーは、特に大企業において、大企業病(発想の陳腐化、無責任体制、意思決定の遅さ等)の克服、新規ビジネスの掘り起こしなどを目的としています。(MS-Japan職種別キーワード「イントラプレナー」より抜粋:https://www.jmsc.co.jp/word/trend/jinji/001439.html
私も調べるまで聞きなれない言葉でイメージが湧かなかったのですが、イントラプレナーという言葉の意味は知らないものの、「聞いたことがある」と思った方は多いのではないかと思います。 私も「企業内起業家」というと、サイバーエージェントがまず思い浮かびました。新卒社員が事業を企画し、その事業の責任者(社長)になったという話題をよく覚えています。

 

イントラプレナーが注目される背景

グローバル競争が激化する中で、衰退していく日本企業が増え、アジアを中心とする海外勢にどんどん追い抜かれている、という状況もあります。では今後、日本企業はどう生き残っていけばよいのでしょうか。今後の日本企業のあり方が重要になっていく中で、衰退の一つの原因として「大企業病」というキーワードが挙げられるのではないでしょうか。

 

大企業病とは、
◆非効率的な企業体質、
◆発想の陳腐化、
◆無責任体制、
◆意思決定の遅さ、
◆縦割り主義、等
の風潮がもたらす、悪循環を繰り返す企業体質を指します。

 

このような体質の企業では、社員が不要な仕事を作り出し、細分化された仕事をこなすという体制になっていることで、想像力が鈍化し新しいアイデアが出ない、又は、新しいアイデアを受け入れる体制がないため埋もれてしまう、といった日本企業特有の状況が発生し、大きな経営課題になっていました。

 

例えば、トップ企業であるソニーやパナソニックなどの大手電機メーカーでさえ、市場の変化についていくことが難しくなり、財務状況が悪化、多数のリストラも進行する事態となりました。これは大企業病が要因の一つではないかと考えられます。
更には、企業が大企業病を打破できない結果、皮肉なことにアイデアを持った社員が独立したり、優秀で経験豊かな人材が新興国に流出するなど、日本企業が更にグローバル競争において劣性になってきているというのが現状です。

 

この状況を打破する一つの有効手段として、「イントラプレナー」というキーワードが注目されてきました。イントラプレナーを多く輩出することにより、大企業病を改善し、グローバルで戦える企業を増やすことができる可能性があるのではないか、と期待されています。
ここで重要なのが、どうしたらイントラプレナー精神を持った人材を増やせるか、育成できるかという点です。

 

イントラプレナー制度導入のメリットと成功例

イントラプレナーの創出に成功している企業として、サイバーエージェント、ソフトバンクの例を挙げたいと思います。

 

まず、サイバーエージェントを見てみましょう。

 

サイバーエージェントでは、2004年から、新規事業プランコンテストを行う「ジギョつく」やエンジニア向けの「モックプランコンテスト」といった施策を行っています。
「ジギョつく」は社員参加型の新規事業プランコンテストで、年に一度開催されており、優れたアイデアを出した社員に責任者を任せるという制度です。ここでは、年次やポジションは関係ありません。
「モックプランコンテスト」はエンジニア向けのコンテストで、高い評価を得たアイデアには賞金以外に、サイバーエージェントからの出資を受けられるというものです。
このようなユニークな社内制度を導入している同社ですが、これらの制度により、
◆ これまで数々の新規事業が事業化→売り上げの増加
◆ 若い社員にチャレンジの場を与える→社員のモチベーションアップや優秀な人材の育成
◆ 経営陣への危機感→経営陣の意識向上

などの成果が得られているのではないかと思います。
(参考:https://engineer.typemag.jp/article/ca-fujita

 

一方ソフトバンクも、2011年から「ソフトバンクイノベンチャー(新規事業提案制度)」を導入しています。この制度は、同社が2010年に「新30年ビジョン」で示した、「世界の人々から最も必要とされる企業になりたい」、「時価総額ランキング世界トップ10(時価総額200兆円規模)」の企業を目指すためのビジョンの一つである「戦略的シナジーグループ5,000社」の実現に向け、その一端を担う新規事業を幅広く募集するために制定されました。
この制度を通し、毎年約1200件の応募が集まり、2011年には4件が事業化されました。事業化が決定した場合、社員には資金500万円とオフィスが提供されるようです。
(参考:https://recruit.softbank.jp/

 

サイバーエージェントやソフトバンク例は、成功例と呼べるのではないかと思います。
では、なぜこの2社はうまく運営ができているのでしょうか。

 

成功の鍵は、「社内ルールを明確にする」、「事業化の際の支援内容を明確にする」といった点のではないかと考えます。

 

まず、「社内ルールを明確にする」という点では、サイバーエージェントは、「黒字化までの期間」と「赤字の上限」、そして「事業撤退のルール」を明確に定めています。具体的には、
◆ 各事業を粗利益や営業利益の額によってJ1からJ5までにランク付けをする
◆ それぞれの事業は2年以内の黒字化を目指し、四半期ごとに規準を満たせば昇格、満たさなければ降格となる
◆ 期限内に黒字化できなければ撤退対象になる、
などです。

 

こういったルールを明確にすることで、社員も躊躇せずに新規事業を始めることができる体制を作りあげました。
「事業化の際の支援内容を明確にする」という点では、上記でも述べたとおり、事業化となった社員には500万円の資金提供とオフィスを提供といった内容を明確にすることで、応募者にメリットを認識させ、モチベーションアップや積極的な応募へつながっているのだと思います。

 

イントラプレナーの現状

いくつか例を挙げさせて頂きましたが、情報収集をする中で一つの疑問が湧いてきました。
それは、「イントラプレナーについて、成功例などの情報が少ない」という点です。これは、私も人材紹介会社のコンサルタントとして、日々様々なお客様を訪問しお話を聞かせて頂く中で感じている部分でもあります。以前よりもイントラプレナーを創出するための社内制度を実施している会社は増えてきているのに、具体的にそれが成果につながっている事例は少ないという実感です。
それはなぜなのか。
どの企業も「社内ルールを明確にする」、「事業化の際の支援内容を明確にする」という点ができていないということが最大の理由になるのではないでしょうか。運用する上での仕組み作りができていないのです。

 

その理由として考えられるのは、以下の4点です。
① 経営側がイントラプレナー制度を成功させようとする本気度が足りない
② 他社の成功例が少ないので、イントラプレナー制度の運用方法がわからない
③ 社内起業家に対する企業側の支援体制が不十分
④ 社員のモチベーションが低い

 

④は、①~③が整っていないことが理由になるかと思いますが、受け身の社員が大多数を占める会社では、いくら制度があっても活用できないのは実情です。
もしイントラプレナー制度を成功させようとするのであれば、上記のような点に注意して明確な支援体制を用意することが肝要だと思います。

 

まとめ

今回、イントラプレナーについて調べてみて感じたことは、イントラプレナーを多く輩出するためには、社内制度の仕組み作りが不可欠だということです。実際に、イントラプレナーを多く輩出している企業は、制度運用する上での社内ルールや支援内容を明確にすることによって社員のモチベーションを上げ、新規アイデアを提案しやすい環境を作り上げているのだと思いました。イントラプレナーとしての経験を通して人材を育成すると同時に、社員のアイデアを支援する魅力的な制度を作ることで、優秀な人材の獲得にもつながっているだと思います。
一方で、制度はあるものの、うまく運用ができていない企業が数多くあることも事実です。イントラプレナー輩出は、企業を成長させてくれる即効性のある経営手段です。今後、より多くのイントラプレナーを輩出し会社を成長させていくためには、成功事例を共有し、企業側の仕組み作りをしっかりと考えることが成功の近道なのではないかと思います。

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