「管理部門人材のキャリアパス~経理財務~」
第49回2009/02/10
「管理部門人材のキャリアパス~経理財務~」
「管理部門人材のキャリアパス~経理財務~」
前回は、管理部門全体の市場価値について説明しました。
今回は、管理部門の中から「経理財務」にスポットを当て、基本的な役割の解説や、重要性について、キャリアパスの観点から解説します。
貴社の経理財務の機能強化や人材育成にお役立て頂ければ幸いです。
経理財務の基本的役割、重要性
経理財務は、企業においてどのような役割を担っているのでしょうか。
経理財務とは、一言でいえば会社など日々の経済活動をお金の面から記録することをいいます。
売上はいくらあったのか、商品をいくら仕入れたか。会社で必要となるお金の流れをすべて正確に記録し、把握することが経理財務の仕事です。
経理財務の業務の大きな役割は、「利益はどれくらいか」、「財政は現在どういう状況なのか」「財務状況を把握し、今後どのように資金を調達(運用)していくのか」を客観的に示すことにあります。
そもそも経理財務には、大きく分けて3つの以下の基本業務があるといわれています。
1.出納業務・・・現金や預金の調達、支払い、受取、残高管理など。
2.会計業務・・・企業が行った取引を、帳簿に記入する。(簿記)、決算書作成など。
3.その他の付随する業務・・・資金計画・調達、経営分析、各種税金の申告、給与計算、年末調整など。
「経理」「財務」というのは同じような意味で使用することが多いのですが、実際は多少意味が違います。
経理は、大まかに言いますと日々の取引を記帳し、決算書などの資料を作成する作業のことを指し、一方、財務とは、日々のお金の流れを管理し、資金不足にならないように銀行からお金を借りてくる仕事を指します。
企業内で経理部と財務部が分かれている場合、上記のような意味合いで区別されることが多くなっています。さほど規模の大きくない企業では経理部長(あるいは財務部長)が兼任するケースも多く見られます。
経理の仕事は日々の取引を記録していくという地道な作業ですが、この積み重ねで作成
された決算書は、財務が銀行からお金を借りる際に、非常に重要な資料となります。
このように、経理と財務の業務は厳密に言えば区別するものの、切っても切れない関係にあります。
また、経理財務は、経営上で生じたすべての取引を分類、整理しこれらの情報を利用する担当者に報告する役割を持ちます。
これらの情報は企業の上層部に集約され、現在の経営状況の把握や、今後の企業としての方向性を決める重要な判断材料の1つとなります。
現在多くの企業が抱える課題と、経理財務の関わり
昨今、企業の社会的責任(CSR)の重要性が増しており、企業を取り巻く様々な経営課題がある中、経理財務と密接な関わりを持つものが多くあります。
中でも代表的なものについて、解説します。
1、上場審査基準の厳格化(上場準備企業の場合)
近年、国内株式市場に新規上場する企業は、減少していると言われています。このような状況が起きた背景には、2008年4月年度より施行された、財務諸表の日本版SOX法の要請から、新規上場審査がこれまで以上に厳しくなっていることが要因として挙げられます。
昨今の不正会計処理や監査ミス、不正株式取得問題などは、コンプライアンス体制、財務諸表の重要性を示しており、企業の社会的責任の一要素としても投資家保護の意識が高まっています。
IPOを目指す企業にあっては特に、経理財務業務の人的・質的な向上と、内部統制ルールの策定、株式公開実務経験者の確保が重要な要素となっています。
2、日本版SOX法への対応(上場企業の場合)
上場企業において近年注視されてきているのが、日本版SOX法です。これは、相次ぐ会計不祥事やコンプライアンスの欠如を防止するため、米国のサーベンス・オクスリー法(SOX法)に倣って整備された日本の法規制です。日本版SOX法は実際には証券取引法の抜本改正である「金融商品取引法」の中に盛り込まれた、企業の内部統制に関する規定の事を指します。公開企業の経営者は内部統制の整備と運用に関する責任を持ち、「内部統制報告書」を提出する必要があります。
そして、この「内部統制報告書」に関する監査を、外部監査人は実施し、「内部統制監査報告書」という形で開示しなければなりません。
日本では2003年4月改正商法施行や内閣府令第28号施行による法令・規制が始まりました。これまでの日本の会計原則は、経営状態や資産内容など、企業の本当の状況・情報を示すことが難しいと言われてきました。更に、金融機関の不良債権問題や、企業の粉飾決算が発覚し、日本の企業の財務諸表は信用できないという判断を下されました。今後、透明な経営と積極的な企業情報のディスクロージャーを続けて、失われた信用を回復する必要があります。
内部統制報告書は、4つの目的(業務の有効性・効率性、財務報告の信頼性、法令遵守、資産の保全)のうちの1つ、財務報告の信頼性を目的として、基本的要素の構築・運用状況を経営者自らが評価する報告書であり、公認会計士または監査法人の監査証明を受ける必要があります。
この日本版SOX法の適用により、経理部門においてまたは内部統制部門は、会社の詳細な財務状況や法律や財務報告に不正や誤りがないかどうかを見極め、社内の内部統制の整備し、内部監査を行い、上記に記した「内部監査報告書」を作成するという責任のある業務が生じてきます。
課題に対応するために
それでは前述の課題に対応できるように経理部門を強化していくためにはどのようにしたら良いのでしょか。
1、「社内で育てる。」
今すでに在籍する社員の力で、上記を含め様々な経営課題に対応していくためには、
適切なキャリアパスを描けるよう経営側が配慮し、スキルを身につけてもらう事が必要です。ここでは経理業務のキャリアパスとして、ベンチャー企業のケースと、日系の上場企業のケースとそれぞれ例をご紹介します。
【ベンチャー企業の一例】
・経理スタッフ(経験1~3年)
仕訳業務や月次・年次決算補助業務など経理の基礎を学ぶ段階。
↓
・経理主任・課長(経験3~5年)
経理実務全般。株式公開準備、税務、総務など広範な経験を積む。
↓
・株式公開準備会社、経理部長・管理本部長(経験3~5年)
株式公開責任者として業務を遂行し、市場価値を高める。
↓
・株式公開取締役:キャリアゴールのひとつ。
【日系企業(上場企業)の一例】
・ 経理スタッフ(経験1~3年)
仕訳業務や月次決算・年次決算補助業務など経理の基礎を学ぶ段階。
↓
・経理財務主任(経験2~3年)
年次決算実務。税務申告、財務諸表、キャッシュフロー計算書作成。
内部統制業務補佐。
↓
・ 経理財務課長(経験3~5年)
決算、財務諸表、IR実務までの経理管理業務の実質的責任者。
専門性に磨きをかけ市場価値を高めること。内部統制業務(J-SOX業務)。
資金調達・運用などの事業計画、あるいはM&A戦略プラン対応の実質責任者。
↓
・経理部長(経験5~10年):
会社全体の業績について実質的に統括。
会社及びグループ全体の資金に関する統括責任者
↓
・取締役: キャリアゴールのひとつ。
上記のキャリアパスの一例にも示されているとおり、スキルを短期間で身に付けることは難しく、長いスパンで業務範囲を広げ、その中に経営課題に対応する為の業務が含まれてくることが一般的です。しかし目的に応じたキャリアパスをしっかり意識して育成を図ることにより、最短距離での育成が可能となります。また、こうした育成は社員本人のやりがいにも繋がりやすく、結果として社員定着率を高めながら、キーパーソンとして人材を育てられる効果もあります。
2、「外部から採用する。」
1で述べたように、社内で人材を育てる事が出来れば良いのですが、社内に教えられる人がいない場合や、緊急を要する場合には、必要な経験・スキルを有した人材を外部より迎える必要が生じます。但し、これらの問題を解決してくれる人材は市場のニーズが非常に高く、求人媒体などによる公募ではなかなか集まらないのが現状です。そのため、このような場合においては、人材紹介会社の活用が非常に効果的です。人材紹介会社を活用することで、経営課題に合った候補者のみ、紹介を受けられるなどのメリットがあります。特に経理財務といった専門性の高さが要求される職種に至っては、採用のプロである、人材紹介会社に任せるメリットが大きいと言えるでしょう。
なお、経理財務の人材を選考する際に、「転職回数で安易に判断をしないこと」が大切なポイントとなります。自身のキャリア開発に主体的に取り組むが故に、自身の成長スピードに合わせ、より高いステージを求め転職し、積極的に経験を積む方が経理財務に多いためです。
経理財務は、経験できる業務の内容・範囲が、企業の状況や規模により、大きく左右されます。例えば、「上場準備企業」では、上場に至るまでの数年間で広範な経験を積むことができ、上場後も有価証券報告書作成など、新たな経験を積むことができます。
以上に述べた通り、転職回数のみで判断せずに、一貫したキャリア形成がその方の経歴から見て取れるか、しっかりと判断をすることで、スキルや志の高い人材を確保することができます。
現在の不景気のあおりを受け、多くの企業では採用意欲が低下しています。
そのために、優秀な人材を通常期よりも確保し易いとも考えることができます。
この機会に、経理財務部門の更なる強化を再考してはいかがでしょうか。
まとめ
今回、これまで一例をとって経理のキャリアパスについて簡単に述べてきました。
最後に念頭に置いて頂きたいのが、これまで述べてきたように経理財務という職種は、非常に専門性の高い職種であり、短い期間で全てのスキルを経験することは難く、長期的に実務をこなし、経験を積む必要があるという事です。もちろん、少数精鋭のベンチャー企業のような会社の場合は短い期間で高いスキル・経験を身につける事は可能ですが、一般的にみてある程度の経理のスキル・経験を積もうとした場合、大体3年以上かかるといわれています。
長期的な観点からみて3年先、5年先の会社の経営を考えた場合、経理財務はどのようなキャリアプランを立てればよいのか、経理財務で活躍している方々にどのようなスキル・経験をしておいて欲しいのかを考えておけば、経営課題を発生した際に迅速に対応する事が可能になり、ひいては会社全体の活性化、成長に繋がるのではないのでしょうか。
問題解決をするために・優秀な人材を採用育成するために今一度貴社の経理財務部について考えてみてはいかがでしょうか。
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