英語力がある企業内弁護士の評価は高いのか
法科大学院制度が導入され、法曹の多様なキャリアパスが模索されています。その中でも注目を集めているのは、従業員として雇用された状態で、一定の組織の中で法律実務家としての実力を発揮する企業内弁護士です。企業内弁護士には、法律の素養以外にどのような能力が求められるでしょうか。
企業内弁護士としての働き方が注目されている
独立志向が強く、かつては自由業の代表格とも思われていた弁護士ですが、司法制度改革の一環で法曹増員政策が進められた結果、あえて組織の中に入り、従業員として法律知識やリーガルマインドを発揮する企業内弁護士(インハウスローヤー)が増加しています。法曹としての能力が高くても、法律事務所を自ら開業させて成功させられるとは限りません。司法試験合格者の経歴やバックボーンが多種多様となっていった結果、安定志向が強い弁護士が増えつつあります。社会的弱者の救済や、裁判所の法廷に立つこと以外の道を模索する弁護士も増えてきているのです。
その新たな進路として、組織の中でクライアントの依頼を受けて動くより、ビジネスの当事者として働くことを望む企業内弁護士が着実に増加しつつあります。
企業内弁護士に英語力は必要か
企業内弁護士になることを目指して就職・転職活動をする弁護士は、法律実務に関する能力で他の企業内弁護士と差別化することが難しい側面もあります。仮に、他の応募者よりも弁護士として明らかに高い能力を持っていたとしても、その優位性を法曹界の外にいる企業の採用担当者にうまく伝えるのは難しいところです。そこで、別の能力を持って優位性を示す方針もありえます。たとえば、英会話などの語学力を武器に企業内弁護士を目指して就職活動を行うのは、優位性を示せるのでしょうか。
就職・転職活動で英語力の高さを武器にできるかは、求人に応募する先の企業が、その資格や能力を求めているかどうか、そして求めているとして現に社内で英語力の高い企業内弁護士が不足しているのかどうかで差がつきます。
つまり、英語力に関しても、就職・転職活動で弁護士資格を武器にできるかどうか、の問いと共通しているのです。
いくら弁護士として優秀で英語が達者でも、採用側が社内に英語のできる企業内弁護士を抱えることを求めていなければ、就職・転職活動はうまくいきません。
海外進出で英語が得意な人は求めているけれども、リーガル人材は不要。あるいは、法律に詳しい人材は必要だけども、国内向けのビジネスを展開している企業なので、英会話スキルをはじめとした英語力はあっても無くても良い。
そのような企業において、「英語力の高い弁護士」は、たとえ雇用してもオーバースペックで持て余す可能性があるため、採用を見送られてしまうことも考えられます。
要するに、求職者側と企業側との「マッチング」がうまくいくかどうかの問題です。どんな資格でも、持ってさえいればあらゆる面接官がひれ伏して降参する「水戸黄門の印籠」代わりになることはありません。
英語ができる弁護士が、企業内弁護士として活躍できる可能性は
リーガル案件と海外案件、ともに任せてもらえる企業の多くは、外資系企業との頻繁な取引があり、英語を使用した交渉事や英文契約書のチェックなどで、弁護士を頼るべき機会が豊富にある企業でしょう。
当分の間は、英語力のある弁護士は重宝され、待遇や給与面でも有利な立場にいられるはずです。
ただし、契約書のチェックも、英語をはじめとした外国語の翻訳も、近い将来にAI(人工知能)が自動的に、高速かつ正確にこなしてしまう時代がやってきます。
そのような時代の到来に備えて、弁護士は英語をはじめとした語学力だけでなく、コミュニケーション能力を高めておくべきです。
なぜなら、人間相手のコミュニケーションは、どんなに性能を高めた人工知能であっても、不得手とする機能に違いないからです。面と向かい合った状態での会話は、やはり人間同士のほうが言語外のメッセージやニュアンスが交換しやすいといえるでしょう。
契約に関する交渉が必要な場面では、ビッグデータを取り込んだロボアドバイザーのようなアプリを通じて、人工知能が一定の方向性や提案を示すことはあるかもしれません。英語力のある弁護士が、人工知能の提案を参考にすることもあるでしょう。しかし、最終的には人間同士の交渉が物を言います。
まとめ
以上のように、海外のビジネスパートナーと契約を結ぶ局面が多い企業では、英語力のある弁護士が企業内弁護士として活躍できるチャンスは多くあることから、社内評価も高くなるでしょう。ただし、それ以外の企業では、あまり強みを発揮できず、宝の持ち腐れになってしまうおそれもあります。ですので、強みを活かしたいのであれば、上記の様な企業を中心に就職・転職活動をお勧めします。
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