税理士が一般企業に転職するためには?
税理士試験は、合格に何年もかかる難関国家試験のひとつで、合格した暁には、一国一城の主として自身の会計事務所を立ち上げて、独立開業をキャリアゴールとしている人も少なくありません。
その一方で、一般企業の経理財務部門への転職を希望する税理士も増えています。税理士が会計事務所ではなく一般企業の組織内税理士として活躍するためには、どのようなことを心がければいいのでしょうか。
税理士は一般企業にも転職できる
まず、税理士にとって一般企業への転職が有利なのは、この世で「税金と無縁の企業はありえない」からです。
ほとんどの一般企業は、少なくとも法人税の納税は義務とされています。
また、従業員の所得税計算を行い、年末調整を実施する際にも、税務に関する知識やスキルは必須となっているからです。
そのため、一般企業が税理士を採用するメリットが十分にあり、税務領域での専門性を活かす機会があります。
日々のデイリーで発生する記帳業務については、他の経理担当者よりも精通している点があるはずです。
また、節税対策を一切行っていない一般企業において、適切な税金のノウハウを助言することで経営者から頼りにされ、社内において重宝されるはずです。
一般的には、顧問契約を結ばれている外部の税理士から定期的にアドバイスを受けることもできます。
しかし、企業の個別事情は、経営者が口頭で税理士に説明しなければなりません。
その点、企業内の現場で日々働いている組織内税理士のほうが、体感で把握しているぶん、企業の事情を深く理解しているものです。
優秀な税理士であれば、経営者以上に専門家として社内状況を把握し、税務上の問題点を洗い出すこともできます。
また、複数の会社が有機的に束ねられている大企業であれば、連結納税などで難しい税務処理能力・スキルが求められますし、グループ再編ともなれば、節税すべき方法も変わってきます。
それだけの課題を解決できる優秀な税理士が企業内部で活躍いただくことを期待されています。
近年、税理士が「コンサルティングファーム」へ転職する可能性について注目を集めています。
主に大手企業をクライアントに抱えるコンサルティングファームの中には、経営や会計だけでなく、税務まで含めた総合的なアドバイスを行って、付加価値を付けようと考えているところもあります。
その為、税理士資格者が重宝される傾向が窺えます。
加えて、売り上げの規模が大きく、税金に対する意識が薄い企業については、節税の効果も大きくなります。
また、経営計画を戦略的に立てるため、税理士のスキルを味方に付けることを期待する経営コンサルティング会社も増えています。
さらに、ファンドや金融機関、公的機関など、お金にまつわる職場で税理士は強みを発揮できる可能性があります。
思い込みを捨てて、さまざまな方向性を模索してみると、転職の道が大きく開けていくでしょう。
企業と事務所 年収・待遇の違い
従業員の待遇などはそれぞれの職場によって異なる個別事情であって、一般企業といっても、職種や背景は多種多様です。
よって、会計事務所(税理士法人)と一般企業との待遇を単純に比較することはできません。会計事務所の中にも、待遇のいいところもあれば、よくないところもあります。
ただ、会計事務所に勤務するキャリアの浅い税理士が、平均で年収500万円前後とされていますが、一般企業の経理部に勤務すると、平均は400万円台とされています。
待遇が下がることも覚悟しなければなりませんが、税理士資格を高く評価する企業であれば、年収が上乗せされる可能性もありますし、収入の額面が低くても福利厚生が充実しており、実質的な待遇が高い企業もあります。
また、外資系企業への転職に成功すれば、年収は大きく引き上がることもあります。
一般企業での仕事内容とは?
経理部で、企業のお金の流れを把握し続けることが、基本的な業務となります。
年単位では、年末調整や確定申告、決算に要する時期が(年末から翌春)が繁忙期となることが多いでしょう。
また、税務調査が入った場合には、企業側の主張を税務署職員に伝える役割を果たします。
金融機関から融資を受ける際、条件交渉に立ち会うこともあります。
そのほか、税務・会計の専門家としての立場から、企業の将来的な経営戦略に対してアドバイスを送る場合もあります。
CFOも視野に!組織内税理士のキャリアステップ
組織内税理士のキャリアステップの王道は、企業内で出世を重ねて、CFO(最高財務責任者)などの役員として迎え入れられることでしょう。もちろん、会計事務所内で出世することもできますが、役員との相性の問題などで役員登用が難しそうであれば、思い切って一般企業に転職し、望みを繋ぐことも可能なのです。
それでは、一般企業に転職した場合、どのようなキャリアアップが望めるのか企業別にみていきましょう。
株式上場会社
東証一部市場へ上場する1万人を超える従業員規模をはじめとする大手企業の多くが、海外に複数の拠点を構えており、こういった企業の場合、国内外の税務リスクが高くなるために専門の税務部門を持っています。
そうした企業では、税務のスペシャリストとして知識や経験を活かすことができます。
しかし、税務部門を持つ企業はごく一部です。
税理士が上場企業に転職した場合、経理部門に配属されることになります。
決算書や有価証券報告書、連結決算対応などの会計業務を任されることが多く、税務に特化した知識が活かされるフィールドとは必ずしも言えません。
場合によっては総務や人事など、別の部署に異動することもありえます。
税務部門を持たない会社への転職は、資格や知識、これまでの経験に固執せず、幅広く経験したい人に向いています。
ベンチャー企業
ベンチャー企業はプログラマーや営業、マーケティングなどのスキルに特化した人材が集まる傾向が高くなっています。
それぞれのスキルは高いものの、経営管理体制に困難を抱えているケースが目立ちます。
そのため、税務・会計部門で国家資格を持った人材の採用ニーズは旺盛です。
大型の資金調達やM&A、上場などの会社の一大イベントを間近で経験できるのはベンチャー企業の大きな魅力です。
また、経営者や技術者などとの距離感が近いのも、ベンチャー企業ならではです。
ただし、経営管理体制が弱いために、ゼロから経理業務を立ち上げなければなりません。
慢性的な人材不足も深刻で、一人の業務負担が大きくなります。
担当者のミスによって請求漏れや過払いなどが発生しトラブルになる可能性もあります。
業務フローの構築、推進、トラブル回避など、日々起こる困難を乗り越えることに充足感を得られる人に向いていると言えます。
外資系企業
外資系企業は日本法人の決算対応、本国への報告連絡業務が中心となります。
規模の大きい会社の場合は経理に特化した業務となりますが、中小規模の場合は財務計画の立案やデータの分析など、経営企画寄りの仕事もこなすことになります。
一般的に外資系企業は給与体系が良く、経験を積むことで更に待遇のいい外資系企業への転職がしやすくなります。
本国の経営幹部とストレスなくコミュニケーションをとる必要があるため、上級の外国語能力が求められます。
外国語でのコミュニケーション能力、国際的な会計知識、経営企画能力など、幅広い力が求められます。
金融機関
金融機関は会計と税務が一般企業とは異なり、複雑な処理が多くなります。
そのため、税理士の資格を取得していることは転職に有利に働きます。
ただし、その特殊さ故に一般企業での汎用性に乏しい点から転職難易度は高く、金融業界内でキャリアを継続して積むケースが多くなります。
また、必ずしもバックオフィス業務ではなく、金融専門家としてフロント業務に就く機会もあります。
金融機関の多くは事業承継問題を背景としたM&Aに積極的に取り組んでおり、会社の売買の相談を受けるといった仕事もあります。
規模の大きな金融機関になると、M&Aのアドバイザリーとして活躍することもできます。
そのほか、富裕層向けのプライベートバンキング業務などに携わることもあります。
フロント業務の場合、税務知識が活かせるというよりも、会計・金融の専門家としての幅広い知識や経験が求められ、クライアントとのコミュニケーション能力が重視されます。
富裕層や経営者との人脈を構築し、将来的な独立の布石とする人も多いようです。
総じて金融機関の給与体系は高く設定されているため、待遇面で不満が出ることは少ないようです。
まとめ
税理士人口が増えて同業者間の競争が過熱し、事務所の独立開業の経営リスクが高まっている今、税理士のキャリアも多様化が進んでいます。税理士業界を飛び出して、スキルを一般企業に還元する生き方も、これからは珍しいものでなくなっていきます。「税理士は、こうあらねばならない」という固定概念を脇に置き、思い切って転職にチャレンジしてみませんか。
この記事を監修したキャリアアドバイザー
大学卒業後、大手出版系企業を経て現職へ入社。
主に大手・新興上場企業を対象とする法人営業職を4年、キャリアアドバイザーとして10年以上に及ぶ。
経理・財務 ・ 経営企画・内部監査 ・ 会計事務所・監査法人 ・ 役員・その他 ・ 公認会計士 ・ 税理士 を専門領域として、これまで数多くのご支援実績がございます。管理部門・士業に特化したMS-Japanだから分かる業界・転職情報を日々更新中です!本記事を通して転職をお考えの方は是非一度ご相談下さい!
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