弁護士の業務はAIに取られる? 将来性や注意点、AI時代を生き抜く方法など



近年、AI技術が急速に進化し、活用範囲を広げています。
高度な専門性をもつ弁護士業界においても、「AIに仕事を奪われる」と不安視する人は多いでしょう。
今回は、弁護士業界におけるAIの役割に注目しつつ、AIによって弁護士の仕事が代替可能かどうかを考察します。
弁護士の業務はAIに取られてしまうのか?
AI技術の急速な進化が続く中、これまで人の手で行ってきた業務を、AIに代行させるサービスが数多く展開されています。
AIは既存知識の活用や論理的思考の点で、人間をはるかに上回る迅速性と正確性を発揮できます。
AIをうまく活用することで、幅広い業務の生産性を大幅に向上できるでしょう。
少子高齢化による人手不足に悩む業界において、AIは救世主のような存在とも言えます。
一方で、AIによる雇用の喪失が懸念されていることも事実です。
たとえば、コールセンターのオペレーターや事務職、経理職、スーパー・コンビニ店員、タクシー・バス・電車の運転手などは、将来的にAIによる代替が可能と言われています。
つまり、現在これらの分野で働いている労働者は、失職することにもなりかねません。
同様の懸念が、弁護士業界にも向けられています。
高度な法律知識が求められる弁護士業務は、AIに代替できない仕事に見えますが、特定分野においてはAIの代替が可能であると言われています。
次章でAIが得意な弁護士業務について詳しく見ていきましょう。
AIが得意な弁護士業務とは
弁護士業務は大きく分けて、法的トラブルの相談対応、契約書や訴状などの法律文書の作成・チェック、裁判手続きおよび交渉の代理人などが挙げられます。
これらの弁護士業務の中で、AIに代替される可能性が高い業務は以下の通りです。
定型的な文書の作成・チェック
法律文書の作成・チェックは、AIでも対応可能と言われています。
契約書は、文書に盛り込むべき文言は定型化され、一定のひな形が決まっているため、AIでもニーズを満たす水準の文書を作成できるでしょう。
また、法律文書のチェックはAIの得意分野であり、人の目視では見逃してしまう恐れのある漏れや誤字なども素早く発見できると言われています。
実際に、日々膨大な契約書を取り扱う大手企業などでは、AIを導入しているケースも多く見受けられます。
過去の判例にもとづいた賠償金の算定
裁判における賠償金は、法律および過去の判例にもとづいて算定されるのが通例です。
しかし、関連法律と過去の判例についてのデータは膨大であり、それらを参照して賠償金を算定する作業は多大な労力を要します。
一方、学習機能を備えたAIでは、人間の記憶力が及ばないほどの膨大な判例データを保有できるため、最適な賠償額を瞬時に計算することが可能です。
AIに代替されない弁護士業務とは
AIに代替される弁護士業務が指摘される一方で、将来的にもAIに代替されないであろうと考えられている弁護士業務もあります。
具体例は以下の通りです。
相手の心情に寄り添ったクライアント対応
特に民事案件では、クライアントの心情に寄り添う姿勢が求められます。
クライアントとの信頼関係を構築するには、密なコミュニケーションの積み重ねや弁護士個人の人間性が重要な役割を持っていると言えるでしょう。
昨今のAIでは、「人間はどのような場面で、どのような心情を持つのか」というパターン化は可能でも、個々の人間と向き合い、信頼関係を構築できるコミュニケーションを取ることはできないと考えられます。
前例が少ない/ない問題・イレギュラーな問題の対応
AIが得意とするのは、蓄積されたデータを参照した分析・応用です。
そのため、過去に事例のない問題について、新たな解決策を創出することは困難だと言われています。
また、クライアントの心情や状況など、あらゆる情報を踏まえた柔軟な判断が求められる問題についても、AIは十分な対応ができません。
たとえば、弁護士に寄せられる法律相談では、クライアントの置かれた環境や求める条件など、様々な情報を複合的に判断し、事案ごとの解決方法を見つける必要があります。
そのためには、高度な創造性が必要であり、AIでは限界があると言えるでしょう。
裁判の代理人
代理人として裁判所へ出廷することは、弁護士の独占業務です。
代理「人」である以上、当然ながら人間が行う必要があります。
たとえばAIを搭載したロボットに話をさせることは、少なくとも日本の現行制度上では認められていません。
弁護士の将来性
「弁護士が将来的にAIに取って代われるかどうか」を考える上で、参考になる事例があります。
2023年にはアメリカでAI弁護士を運用している企業に対して集団訴訟が起こされました。
弁護士資格を持たないAIによる弁護士業務の違法性や、AI弁護士によって作成された書類の質について提訴されたのです。
サービス提供をしている企業側は自社に責任はないと猛反論したものの、AI弁護士の限界を垣間見る事態であるともいえるでしょう。
また、2024年にはAIを使用して作成した意見書の中に実在しない判例が引用されていたことで、担当弁護士に罰則が科されました。
先述の通り、契約書の作成・チェックや賠償金の算出など、既存の情報をパターン化して対応する業務は、AIが得意とする分野です。
しかし、弁護士業務のすべてがAIに奪われるわけではありません。
新しいものを創造する業務やクライアントとのコミュニケーション、状況に応じた柔軟な発想が求められる業務などは、やはり人間の弁護士による対応が不可欠です。
また、AI自体は法的な責任を持つことができません。
先のAI弁護士の事例がそうであるように、問題が生じたときに法的責任を負うのは、AI弁護士を開発・運用している企業であり、AIを利用した弁護士です。
とはいえAIが活躍できる領域があるのも確かです。
人間とAIがうまく折り合いをつけて活用していくことが重要でしょう。
弁護士がAIを利用する注意点
AIが集めるデータは、事前に学習させた情報やインターネット上で収集できる情報をもとにしています。
そのため、インターネット上に流布する噂やフェイクニュースを流用してしまう可能性もあるでしょう。
また、情報漏えいに関しても注意が必要です。
弁護士業務においてクライアントから得た機密情報には守秘義務があります。
しかし、AIを利用することで、機密情報を情報源として学習されてしまうこともあるでしょう。
民事や刑事、企業法務を問わず、弁護士への相談案件はセンシティブな内容が多いため、個人情報の漏えいは許されません。
弁護士業務の現場でAIを活用する際は、細心の注意が必要です。
弁護士としてAI時代を生き抜く方法
ここまでご紹介した通り、弁護士業務のすべてがAIに代替される可能性はないと考えられます。
しかし、AIに任せた方が効率的で、生産性が上がる業務があることも確かです。
そこで以下では、弁護士としてAI時代を生き抜く方法として、2つのポイントに注目します。
AIを排除・過信せず、使いこなす
新技術であるAIを嫌悪・排除することは、弁護士にとって大きな損だといえるでしょう。
しかし、AIは万能ではないため、過信は禁物です。
AIの長所と短所を見極めて、長所を活かす形で積極的に利用しましょう。
AIをうまく使いこなし、業務効率化につながることで、弁護士としての強みにもなります。
他の弁護士が契約書類のチェックなどに手間取っている中、AIを駆使して早々に業務を片付けられるのであれば、弁護士としてより高評価を受けられるでしょう。
クライアントとの関係構築に注力する
AIによる業務効率化によって創出された時間を、クライアントとの関係構築に注力しましょう。
クライアントの不安を解消し、深い信頼関係を築いていく業務は、AIでは代替できません。
弁護士本人のスキルに依存する業務について、自信をもって行えるようになることは、弁護士として生き残る上で必須事項です。
とくに近年は弁護士数の増加により、案件の獲得競争も激化しています。
営業活動に力を入れて多くのクライアントを確保できれば、その実績は大きな強みとなるでしょう。
まとめ
弁護士業務のうち、法務書類の作成・チェックなど、AIの得意分野である業務をAIに任せることで、業務を効率化することができます。
しかし、倫理的な配慮や個別対応の柔軟性、クライアントの心情に寄り添う姿勢は、人間の弁護士ならではの強みです。
昨今、さまざまなビジネスで不安視される「AIに代替されたことによる失職」は、弁護士業界では起こりにくいと言えるでしょう。
AIの得意・不得意を見極めた上で、うまく共存し活用していくことが、これからの弁護士に求められます。
- #AI弁護士
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- #弁護士の仕事とAI


この記事を監修したキャリアアドバイザー

大学卒業後、新卒でMS-Japanに入社。
法律事務所・会計事務所・監査法人・FAS系コンサルティングファーム等の士業領域において事務所側担当として採用支援に従事。その後、事務所側担当兼キャリアアドバイザーとして一気通貫で担当。
会計事務所・監査法人 ・ 法律・特許事務所 ・ コンサルティング ・ 金融 ・ 公認会計士 ・ 税理士 ・ 税理士科目合格 ・ 弁護士 を専門領域として、これまで数多くのご支援実績がございます。管理部門・士業に特化したMS-Japanだから分かる業界・転職情報を日々更新中です!本記事を通して転職をお考えの方は是非一度ご相談下さい!
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