「福利厚生」
第24回2007/01/18
「福利厚生」
「福利厚生」
終身雇用制度の崩壊が叫ばれ始めてから、数年が経ちました。
人材の流動化が進み、求人も求職者も日々増えていますが、
採用の現場でよく耳にするのは「これ以上転職をしたくない」という声です。
転職理由は様々ですが、転職活動は精神的にも肉体的にも負担がかかる事なので、
もうこんな思いをしたくない、安心して充実した人生を送りたい、
というのは求職者に共通した本音の部分なのでしょう。
現在、中途採用に関しては引き続き求職者側が有利な売り手状況が続いており、
企業にとってはあらゆる手を使って人材確保をしなければ生き残れない時代となっています。
優秀な人材を確保するためには、
従業員にとってどれだけ魅力的な企業なのかを常に考える必要があるのです。
そこで、企業の魅力をアピールする手段として、
従業員の生活に直結する経済的報酬に目を向けてみては如何でしょうか。
具体的には、現金給与と福利厚生がその対象ですが、
現在この福利厚生のあり方が変わってきています。
今回は、最近の福利厚生事情について解説します。
1.福利厚生のトレンド
まず、福利厚生には、法で定められた制度(法定福利厚生)と
それ以外(法定外福利厚生)の2種類があります。
法定福利厚生とは、各種社会保険(健康保険・厚生年金など)や
労働保険(雇用保険・労働者災害補償保険など)、
法定健康診断など法律で義務付けられたもので、
従業員には当然保障されるべきものとして広く認知されています。
一方、法定外福利厚生とは
従来から「企業の特色が表れる福利厚生」として認知されてきたもので、
各種手当による生活保護や従業員特典等が挙げられます。
近年は、保険料の改定等で法定福利厚生費が年々増加し、
企業にとって大きな負担になってきています。
同時に、法定外福利厚生の代表とも言える退職金制度が
企業財務を圧迫する実態が明らかになってきて、
退職金制度を導入する企業数が年々減少する傾向にあります。
一方で、法定外福利厚生のサービス内容については、
従来と比べてメニューが豊富になりつつあります。
かつて生活が苦しかった時代には、
住居や手当の現金支給等の生活保護的要素が求められていましたが、
現在は日本社会全体の生活水準が向上したことから
自己啓発・健康管理・従業員本人とその家族向けのサービス等、
生活保護というよりも生活の質を向上させるためのサポートに注目が集まってきています。
また、最近では、福利厚生を社内管理ではなく
福利厚生代行企業にアウトソーシングする傾向が益々強まっており、
代行企業数や代行費用も3年連続で大幅に増加しています。
経営側の本音としては、財政を圧迫しないようコストは最小限に抑え、
且つ従業員の満足度は最大限に引き上げたいため、代行業者に運営を依頼し、
費用対効果を最重要視する考え方が強まっているのです。
2.注目されている制度
では、具体的な福利厚生制度としては、どのようなものがあるのでしょうか。
近年注目されている新しい制度を中心に、紹介します。
2.1 新しい退職金制度
退職金制度は、今までも法定外福利厚生の代表として認識されてきましたが、
年金制度の崩壊が現実味を帯びてきている昨今、
従業員にとって最も魅力的な制度と言っても過言ではありません。
ただ、前述のように経営者側にとっては大きな負担がかかる制度であることも事実です。
しかも、従来の退職金制度では、
中途採用者や早期退職者に不利という問題点もありました。
そこで現在では、退職金制度にも様々な形態が登場しています。
社内管理で退職金制度を導入する場合には、
ポイント制退職金、前払退職金等が新制度として挙げられます。
ポイント制退職金とは、ポイント単価×ポイント数=退職金という数式で計算するもので、
職能ポイントや役職ポイント等、
どのようなポイントを使用するかは、企業が各自で決めることができます。
そして、前払退職金とは、
予め想定された退職金を毎年分割で従業員に支給するものです。
どちらもメリットとしては、
中途社員・早期退職者などにも不利ではなくなる点がありますが、
給与体系によっては導入しにくいケースがあるため、個別に検討する必要があります。
また、退職金を社外で管理する方法もあり、
従来からある確定給付型年金や中小企業退職金共済に追加される形で、
確定拠出年金が登場しました。
確定拠出年金とは、企業が毎年拠出する額が決まっていて、
社員が将来受け取る年金は個人の運用次第で変動する制度です。
年金を運用するリスクは社員が負うため、
企業は社員向けに投資教育をする事が義務付けられています。
米国の401kに似た仕組みなので、日本版401kとも呼ばれます。
メリットとしては、企業側の追加負担がない、
従業員側には税金が繰り延べられる等の事項が挙げられますが、
60歳まで引き出しができない点や、
投資教育ができる人材の確保など懸念事項もあるため、
メリット・デメリットを十分考慮する事が大切です。
2.2 カフェテリアプラン
現在は、年代も環境も違う従業員の様々なニーズを満たす必要があり、
その手段として注目されているのが「カフェテリアプラン」です。
従業員に毎年一定の年間持ち点(ポイント)を与え、
企業が準備した各種福利厚生メニューの中から、
ポイントに応じて従業員が自ら希望するプログラムを選択するという制度で、
メニューの豊富さが魅力です。
メリットとしては、
従業員個人に選択権があるため多様化するニーズにも柔軟に対応出来る点と、
メニューが豊富に用意され且つ無駄な経費を削減出来るため、
費用対効果が良いという点があります。
しかし、デメリットとして、現在の税法では新制度に対応しきれていないため、
給与課税か給与非課税かを個々のサービス内容に照らして
判断しなければいけないという税法上の問題があります。
さらに、メニューに取り入れても人気のないサービスに関しては、
無駄なコストがかかってしまう可能性もありますので、
導入に当たって入念な準備が必要です。
3.導入のポイント
新しい福利厚生制度を導入する場合には、
何よりもまずサービスを受ける従業員のニーズを把握することです。
社内アンケートや外部調査を繰り返し、どのようなサービスが求められているのか、
現状の満足度等、ニーズを洗い出した上で導入するか否か検討するべきです。
コストを抑えて従業員の満足度を上げ、
効果を最大限に発揮させるためにも、社内ニーズの把握は非常に大切です。
経営側にとっては、福利厚生の導入は当然費用が発生するため、
将来を見通してコストを考えなければなりません。
法定福利厚生・法定外福利厚生それぞれにかかる費用を算出し、
現状把握と同時に今後増減の可能性があるか等、ある程度の見通しを立てることが肝要です。
そして、給与体系や現状の社内制度に合っているかどうかという導入のしやすさと同時に、
将来人事制度改定の予定があるか、
将来的な人事制度に適合しているかどうかをきちんと考えなければなりません。
一方で、社内管理からアウトソーシングへの移行を検討する場合には、
本当にアウトソーシングする必要かあるどうか事前の見極め作業が重要です。
代行企業も急激に増えていますので、
多様な社内ニーズに一番合致したサービス提供者を選ぶため、
複数候補の中から代行先を慎重に選ぶことが必要かと思います。
現在、日本社会全体の大きな変化によって福利厚生も多様化する傾向にあり、
人材戦略の一部として様々な効果が期待されています。
仕事も従業員の人生の一部と考え、
企業に所属する従業員が本当に活き活きと働けるような配慮がなされることで、
従業員の満足度が向上し個々のモチベーションアップが期待できるかと思います。
それが長期的には売上やブランド力アップ、従業員の定着率アップ等、
企業力を高めることに繋がり、好循環を生み出すのではないでしょうか。
企業力を高めるため、多様化する福利厚生を戦略的に活用出来るよう、
検討してみては如何でしょうか。
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