「グローバル時代の人材育成と活用」
第84回2012/01/16
「グローバル時代の人材育成と活用」
「グローバル時代の人材育成と活用」
新興国の台頭や大企業同士の合併、また金融危機による世界不況など、近年グローバルビジネスにおける環境は激変しています。また、ITを中心とした技術発展に伴い世界が"フラット化"する中で、仕事のスタイルやスピード、また国籍を問わない人員編制など、働く上で要求される能力要件も大きく変化してきました。国内外を問わずビジネスの拡大と成長を牽引する高い能力を持った人材=グローバル人材の育成は世界各国の企業で重要な経営課題となっており、とりわけ日本企業にとっては最も深刻な課題となっています。ビジネスのグローバル化を進める企業の多くは、今後、多様な文化や社会的背景を持つ人々と協力し、国際的なビジネスの現場で活躍できる「グローバル人材」を育成し、活用していくことが求められています。
本コラムでは「グローバル時代の人材育成と活用」と題し、グローバル人材に必要とされる能力や、グローバル人材の育成に向けて企業がすべきこと、について解説したいと思います。
グローバル時代に求められる人物像と人材側の意識
企業によっては、国内だけでビジネスが成り立つのであれば苦労して海外へ出て行きたくはないという思いもあるかもしれません。しかし、成熟した国内のマーケットでは成長が見込めず、グローバル化を余儀なくされているという現実の中で生き残るためには、企業も個人もこれまで通りのやり方ではうまくいかなくなるということを認識する必要があります。
まずは企業側の意識を見てみましょう。日本経団連が2011年1月に発表したアンケート結果によると、今後の事業活動のグローバル化に伴い、「海外赴任を前提とした日本人の採用・育成を拡充する」と回答した企業が約4割に達したほか、「国籍を問わず、有能な人材を幹部に登用する」との回答も約3割に上り、事業活動のグローバル化に伴う人事戦略として、国籍に関わらず、優秀な人材を活用する動きが高まっていることが示されています。
グローバル人材に求める素質・能力には、社会人としての基礎的な能力に加え、日々変化するグローバルビジネスの現場で、様々な障害を乗り越え、臨機応変に対応する必要性から「既成概念に捉われず、チャレンジ精神を持ち続ける姿勢」、さらに多様な文化・社会的背景を持つ従業員や同僚、顧客、取引先等と意思の疎通が図れる「外国語によるコミュニケーション能力」や、「海外との文化、価値観の差に興味・関心を持ち柔軟に対応する」ことが指摘されています。
一方、労働者側の意識はどうでしょうか。内閣府が2010年に行った「労働者の国際移動に関する世論調査」によると、外国で働くことに「関心がある(以下、ある)」は22.0%、「関心がない(以下、ない)」は77.4%でした。年齢別では20代が「ある」は40.0%、「ない」は58.8%。30代では33.7%が「ある」、66.0%が「ない」、40代は20.6%が「ある」、79.4%が「ない」と年代が上がるにつれ関心が薄れていることがわかります。一番関心が高い20代でも過半数以上が海外勤務に関心がないことは、グローバル化を推進する企業にとって大きな問題となる可能性があります。
また、外国就労に関心がある人の「働きたい国・地域」はアメリカ48.0%、欧州43.9%に対し、中国22.8%、東南アジア20.9%となっており、日本企業のビジネスを行う地域がアジア諸国中心になっているにもかかわらず、労働者のアジア諸国への興味は低いことがわかります。
グローバル化に伴う課題
グローバル化を検討中の企業にとって、人材の確保は非常に重要な課題の一つですが、その確保に難航するケースも増えてきているようです。
グローバル人材の候補者としてまず挙がってくるのは海外への留学経験者ですが、近隣アジア諸国の若者たちが急速に海外志向を強める一方で、日本では国内志向の若者が増えており、留学経験のある若者が年々減少しています。90年代半ばころ、国別の海外留学生の人数は日本が4年連続1位でしたが、1997年のピーク時に4万7000人まで増えた留学生は2009~2010年度には2万5000人と5割近くにまで減っています。特に最近では2008~2009年度に13.9%減、2009~2010年度には15.1%減と、2年連続で2ケタ減と大きく減らしている状況です。留学生の減少は世界における日本の存在感の低下にもつながっていると考えられます。
日本の優秀な高校生は日本一の東京大学を目指しますが、中国、韓国、シンガポールなどアジア諸国の優秀な生徒は、世界中のエリートが集まる「世界」のトップ大学を目指し、そして世界を舞台に活躍したい意欲あるアジアの中高生は、海外の一流大学合格に向けて勉強し、結果を出しているというのが現実です。ちなみに、世界大学ランキングで長年ナンバーワンの地位を占めるハーバード大学の09年度留学生数(学部生)も、下記のように日本以外のアジア勢の多さが目立ちます。
□韓国人 42人
□中国人 36人
□シンガポール人 22人
■日本人 5人
上記は海外留学経験者の例ですが、このように企業の求めるグローバル人材と、現在の日本の労働市場との間に乖離が生じているのも事実です。
グローバル人材育成と活用強化のために
人材の確保ができた(あるいは既存社員から対象者をピックアップした)として、次に日本人社員のグローバル化への対応力を養成していく必要があります。入社後、外国語研修や異文化・社会に対する理解力を高めるための研修機会を提供するとともに、肌感覚で海外の文化や生活を理解するため、早い時期に海外での勤務経験をさせることが望ましいと言われています。既に多くの企業が、海外出張や数か月間の短期海外派遣の実施など、若手社員が海外経験を積む機会を提供しています。
しかし、現状では海外赴任者にTOEIC やTOEFL の一定以上の成績など、客観的基準による外国語能力を求めている企業はまだ少なく、求めているとしても世界で通用するレベルとはいえない低い基準を設定している企業が多いようです。
〔グローバル人材に求められる語学力の客観的基準の例(英語圏の場合)〕
1、 海外の顧客やパートナーとメールや電話でやり取りを行う場合:TOEIC 500~650点程度
2、 スタッフとして海外駐在する場合:TOEIC 600~750点程度
3、 責任者として海外駐在する場合:TOEIC 750~900点程度
このような現状で日本の企業が国際的なビジネスの現場で活躍できる「グローバル人材」を育成し活用していくためには、人材の採用基準・採用方法の見直し、人材育成に関する研修制度等の見直し、外国人採用の強化など、これまでの価値観をドラスティックに変えなければ実現は難しいかもしれません。
下記はグローバル展開を行っている企業における人材の活用に関する具体例です。
<花王>
2004年に、経営理念とグローバル企業としての基本理念を明文化した「花王ウェイ」を制定しました。「花王ウェイ」は、使命・ビジョン・基本となる価値観・行動原則からなり、花王の経営の基本であるとともに、すべての花王グループ社員が現場で実践すべき仕事の基本でもあります。「花王ウェイ」の特徴として、海外で働くメンバーを対象に、当初から英語を念頭において作成されたことが挙げられます。
<富士通>
日本本社における人材のグローバル化を目指し、数年前より年30名強の外国籍留学生採用を実施しており、現在籍は約200名です。更に米国上位8大学でのオン・キャンパス・リクルーティングを2年前より実施し、3名の米国人を採用しており、今後はこうした活動を米国以外でも広く行っていくことを表明しています。
<ディスコ>
日本国内で海外留学生を多く受け入れている複数の大学に対し、留学生専門の会社説明会を企画提案し実施しています。更に、採用チャネルを国内に限定させず、上海・北京・北米西海岸・同東海岸等の地域において年数回にわたり海外での企業説明会を開催しています。ここでは、日本を始め諸国からの留学生や、日本勤務を希望する現地国籍の候補者が多数参加しているようです。
総括
日本の企業が多種多様な人材を活用し、世界規模で成果を上げるためには、グローバルリーダー育成への意識改革を社内で醸成していくことが重要です。その上で、育成すべき能力がどのようなものなのか、誰に対しどのように育成していけばよいのかを企画して行くことが必要となります。また、対象の人材が"経験"できる場を提供する事で、彼らに必要な知識を学ぶきっかけを与えていくことも必要となります。その為にやるべきことは多く、時間・費用もかかるでしょう。
しかし、現状はどうでしょうか?
業界やビジネス展開の状況で事情は異なるものの、課題認識を持ちつつもグローバル人材の育成や活用に関する取り組みが遅れている企業が多いようです。更なるグローバル化の波に備えるべく、人材の育成と活用の準備を進めるべき時は来ています。5年・10年後のグローバルビジネス戦略を見据えていくためにも、経営陣や人事部門、そして会社全体が本腰を入れグローバル人材の育成に取り組み始める必要があるのではないでしょうか。
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