「ワーク・ライフ・バランス」
第33回2007/09/21
「ワーク・ライフ・バランス」
「ワーク・ライフ・バランス」
2007年、今年開催された世界報道写真展にノミネートされた作品の中に
日本をテーマにしたものがありました。
夜中でも煌々と灯るオフィスの光、終電には多くのスーツ姿が見られ、
仕事後も家族とは過ごさずに同僚と飲みに行き、
酔いつぶれるサラリーマン・・・世界から見れば特殊に見られるこの日本の「働き方」。
NHKの『プロジェクトX』が人気番組になることから見ても、
日本人の「モーレツ」に働く姿勢は評価の対象になり、
スタイルとして定着してしまっています。
しかしながらこういったスタイルが変わらない一方、
女性の社会進出が進み、少子高齢化が問題視されています。
誰もが働きやすい環境を作り、働き方を変えなければ、
いずれ家庭、地域社会、企業や経済に大打撃になる時代だとの認識が生まれました。
そこで唱えられたのが今回のテーマである「ワーク・ライフ・バランス」です。
今回は政府レベルでの取り組み、各企業における現状を参考に、
「ワーク・ライフ・バランス」の重要性を検証し、
今後の取り組みについて概説していきたいと思います。
1.「ワーク・ライフ・バランス」とは
少子化対策や子育て支援をはじめ、生涯教育、地域社会への貢献など、
あらゆる場面で「ワーク・ライフ・バランス」について語られることが増えてきました。
「仕事と生活の調和」を意味するこの概念は、
家庭生活を超えて、働くことへの意欲や地域社会の存続、
持続可能な社会を築くための必要条件だと考えられています。
そもそもこの「ワーク・ライフ・バランス」とは
1990年代初頭からアメリカで始まった取り組みで、
もともとは1980年代、シングルマザーや共働き家庭の従業員に対する
働きやすい環境を整備することとして「ワーク・ファミリー・バランス」と呼ばれ、
主に子どもがいる家庭の社員の育児と仕事の両立を意味していました。
これが90年代に入ってからは、全社員を対象とした言葉として一般化されるようになり、
定義としても「仕事、家庭生活、地域生活、個人の自己啓発など、
様々な活動について自らが希望するバランスで展開できる状態」と広範なものとなりました。
「残業大国」とも言われる日本において、
まだまだ根付くには時間も努力も必要ですが、
少子化が進んでいく中、団塊世代が定年を迎えている日本社会において、
この概念を定着させていく必要に迫られています。
2. 「ワーク・ライフ・バランス」政府レベルの対応
日本ではここ数年、少子化対策に連動する形で広まったこの概念。
政府は1994年に「エンゼルプラン」を策定して以来、
保育サービスの拡充などにまずは力を注ぎました。
しかし効果も上がらない中、
女性だけでなく職を持つ誰もが仕事と生活の調和を図ることが
出生率回復につながるという考え方が広まり、
「ワーク・ライフ・バランス」は2004年策定の
少子化社会対策大綱には重点課題として明記されるなど、
少子化対策の柱に掲げられるようになりました。
また、男女共同参画会議では
仕事と生活の調和(ワークライフバランス)に関する専門調査会を開き、
国全体での「ワーク・ライフ・バランス」を重視しようと言う流れが出てきています。
財団法人社会経済生産性本部では2006年6月、
国や自治体に基本計画の策定を求める
「ワーク・ライフ・バランス推進基本法」の制定を提言。
同年度8月には、経済界、労働界らの代表約100人で推進会議を設立しました。
このように、政府レベルでは少しずつ動きが出ています。
しかしながら、企業側の対応は一部を除いてまだまだ浸透していないのが現状です。
3.日本における「ワーク・ライフ・バランス」実践に向けて
世界でも有数の労働時間の長い国である日本において、
「ワーク・ライフ・バランス」を根付かせていくことは容易ではありません。
加えて、見逃されがちな非正社員の方への対応も検討しなければならず、
企業にとっては負担となることも多いのが現状です。
しかしながら、以下に説明して参りますように、
企業が就業形態の多様化に取り組まざるを得ない時期が、すでに来ています。
日本の労働力人口は2003年から2030年にかけて約1千万人、
15%程度減少していくとも言われており、
遅かれ早かれ労働力不足に陥る可能性があります。
他方で、既に共働き世帯数は片働き世帯数を上回り、
家事、育児、介護に時間を割かなくてはならない労働者が増えており、
優秀な人材の確保・定着を図るために、
企業は戦略的に柔軟な就業形態を導入していく必要に迫られている今、
国からの提言はもとより、
大手企業では「ワーク・ライフ・バランス」を意識した人事制度が導入されています。
少しずつとはいえ、改善しようという動きがあるものの、
まだまだ身近なものとして感じられない理由は何故でしょうか。
世界30カ国の調査団体で構成される
インターナショナル・リサーチ・インスティチューツによる
世界24カ国1万4千人を対象にした
「仕事と家庭の調和(ワーク・ライフ・バランス)に関する世界意識調査」の結果によると、
仕事と家庭の調和(ワーク・ライフ・バランス)に不満を持つ人の割合は、
世界24カ国のうちで日本が1番多く、
それに対する改善を試みたことがない人の割合は同じく2位という結果が出ています。
このことからも、政府による法律や企業の枠組み作りだけではなく、
社会全体がワーク・ライフ・バランスの改善が必要だと受け入れられるような
PR活動やムード作りが必要であり、他方で労働者自身も、会社や国だけに頼らず、
自ら環境を改善しようといった意志を持つことも重要だと言えるのではないでしょうか。
4.「ワーク・ライフ・バランス」のメリット
仕事と生活の調和のためには働き方を変えなければならず、
それには個人の意識や政府の取り組みもさることながら、
企業側の理解なくしては実現されません。
ワーク・ライフ・バランスを推進することはコストを高めるとして、
抵抗感を示す企業も少なくありません。
多くの企業は最大の注意を払ってコスト削減を断行している一方で、
ワーク・ライフ・バランス支援による負担増を簡単には受け入れることができません。
その結果政府がどんなに呼びかけても、計画が形骸化していく恐れがあります。
しかしながら、ワーク・ライフ・バランスの推進は、
それを行う企業にとって一時的な負担は増えるとは言え、
企業の生き残りという観点からすると、以下のようなメリットから、
力を入れるべきポイントであることがわかります。
<人事労務面のメリット>
■ 優秀な人材の確保
「ワーク・ライフ・バランス先進企業」としての取り組みを、
優秀な人材を採用するための強力なアピールポイントになります。
転職市場が活況で売り手市場と言われている昨今、
この概念を早くから取り入れることによって他企業との差別化が計ることが出来、
また、「中小成長企業は働き方がハードそうだから」といったイメージを払拭し、
優秀な人材の確保につながります。
■ 女性社員の定着
女性市場が活気付く中で、女性社員を定着させることは、
企業にとって一つの課題になっています。
ワーク・ライフ・バランス施策により、
能力の高い女性が働き続ける環境を生み出し、後に続く女性の定着も促します。
■ 社員のモチベーションアップ
ワーク・ライフ・バランスを促進することは、
職場全体のモチベーションアップにつながります。
モチベーションアップは社員全体の定着率向上につながり、
ひいてはより強固な企業体制を構築できると考えられます。
実際に、既婚・未婚を問わず、
男女ともに「自分自身のワーク・ライフ・バランスが図られている」と考える人のほうが、
仕事への意欲が高い傾向にあります
(2006年:少子化と男女共同参画に関する専門調査会
「少子化と男女共同参画に関する意識調査」より)。
■ 人事コストの削減
働き方そのものを見直すことが労働生産性を高めることにつながり、
社員に支払う時間外手当をはじめ、
光熱費などの諸費用を将来に渡って削減することができます。
<経営全般のメリット>
■ 少子高齢化に伴う労働力不足への準備や労働生産性の改善
ワーク・ライフ・バランス施策の導入・定着をきっかけとして、
業務の内容・目的・評価法を明確化し、多様な働き方を導入して社内風土を変えることで、
一人当たりの労働生産性を高めることにつながります。
中小成長企業にとっては、大手の企業よりも、よりこうした観点が必要となってきます。
■ 企業体質の改善・強化
不正を許さない企業風土は、オープンで多様な価値観と視点が存在し、
自由闊達にものが言える社風から生まれてきます。
そのためには、多様な働き方を認め、
多様な人材を活かすワーク・ライフ・バランス施策の導入が効果的です。
■ 企業イメージの向上
企業経営では、本業の商品・サービスだけでなく、CSR(企業の社会的責任)など、
社会を構成する一員としての「社会的なふるまい」が大きな意味を持ちます。
中小成長企業にとって、直接的に利益に直結しないことは見逃されがちですが、
その中ワーク・ライフ・バランスへの取り組みは、
他社との差別化を図り、企業イメージを左右する重要な要素となります。
以上のように、企業が社員の「ワーク・ライフ・バランス」を支援することは、
多くの意義があると言えます。
この観点を企業側が持つことにより得られるメリットは、
中小規模成長企業の方が多い、ともいえます。
5.総括
このように、ワーク・ライフ・バランスとは、
「ファミリー・フレンドリー」と「男女均等推進」に「働き方の見直し」を加えた、
企業の経営戦略です。
それは、単なる「福利厚生制度」ではなく
国から押し付けられて行う「少子化対策」でもありません。
これからのグローバルな大競争時代において、
企業自身がより強くなり、成長していくため、
自ら進んで取り組んでいくべき戦略的な選択なのです。
すでにいくつかの企業の経営者の間には「国際競争を生き残るためには必要不可欠」として
<日本流>の仕事の進め方の見直しを進めている企業も出てきており、注目を集めています。
この流れは大手企業のみにとどまらず、
むしろ中小規模成長企業にとって大切であると言えるでしょう。
そして、それを浸透していくためにも、
各個人による企業側への働きかけとともに、
「ワーク・ライフ・バランス」を維持するための労働者の行動を、
企業が積極的に支援していく必要があると言えます。
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