3分でわかる最新人事コラム

第52回2009/05/12

「ベンチャー企業の管理部門におけるシニア層の活用」

 最近、ベンチャー企業の経営者から管理部門における悩みをよく聞きます。

 

・営業や技術者は育てられるが、管理部門の人材はなかなか育たない。管理部門の重要性は十分認識しているものの、育て方がよくわからない
・設立当初より経営者自ら管理業務を行ってきたが、規模が拡大するにつれ、1人では手に負えなくなってきた
・管理部門の人材の定着性が悪く、欠員が出る度に業務に負担がかかってしまう


 これらの悩みを解決しようと管理部門人材の採用を試みているものの、採用がうまくいかずお困りの経営者は少なくありません。
「直接的に利益を生まない管理部門の採用には多くのコストはかけられないが、会社の成長のためにも、優秀な人材が早く欲しい。」というジレンマを抱えておられるケースが非常に多いのです。
 最近、"シニア層を採用し、活用すること"により、そういった状況を打開する企業が増えていることをご存知でしょうか。今回は、ベンチャー企業が管理部門に抱えている課題の解決策の1つとしてシニア層の採用及び活用について提案したいと思います。
 そもそもシニア層とはどういった人材なのか、採用した場合に企業にはどのようなメリットがあるのか、上手く採用し、活躍してもらうためのコツ等を含め、解説していきます。


シニア層とは(管理部門経験者)
 まずシニア層の人材をよりイメージし易くするため、年齢幅を定義付けしたいと思います。実際に十数社の人事担当者に伺ったところ50歳以上と認識している方が多かったため、ここでは50歳以上の人材をシニア層と考え、話を進めていくことにします。


 次に、管理部門経験者のシニア層を、キャリアの面から大きく3つのタイプに分けてみます。自社で採用を行う場合、どのタイプがマッチするのかイメージをしながら読んでみてください。

 

タイプ1:管理部門スペシャリスト
 大手企業で長年勤務されてきた方に多いタイプで、経理財務や人事、総務など1つの部門の中の細分化された業務をローテーションで回り、その部門の業務は一通り何でも任せられるスペシャリスト人材です。例えば、管理部門が少人数で構成され、経理担当者が人事も兼務している場合等に、人事のスペシャリストを採用することで、人事機能を強化し、経理担当者も経理に専念させることができる効果を得られます。

 

タイプ2:管理部門ゼネラリスト
 経理・財務からスタートし、スタッフとして決算や税務申告などの実務を経験した後、経理・財務を主軸としながらも総務や人事などの業務に幅を広げ、30代半ばで管理部長のような管理部門全体をマネジメントするポジションに就き、経営層の一員として、経営意識を持ち業務を行ってきたタイプです。上場企業で基礎を経験した後、ベンチャー企業に転職し、成果を上げてきた方も見られます。
 少人数の企業でIPOを目指す場合にはこのタイプのニーズが多く存在します。また、管理部門全体での実務経験を持つタイプのため、営業畑等出身の経営者が非常に重宝する人材と思われます。

 

タイプ3:経営企画スペシャリスト
 中小企業の営業職などで活躍し、リーダーシップを買われ30代で営業企画や経営企画などの業務を任せられてきたタイプです。経理等の実務経験は持たない方が殆どですが、数字まわり等の経営に必要な知識を身に付けており、経営企画兼管理部長といったポジションで管理部門を統括する方もいます。マネジメント能力に長け、広い視野で物事を考えられるため、まさに"社長の右腕"としての役割を期待できます。経営層と現場の間のパイプ役が必要な企業に打って付けの人材です。

 

 次に、シニア層の「志向」について解説します。
多くのシニア層は、豊富な経験や知識を、若い人材や組織に対して還元したいという志向を持っているのが特徴です。そのため年収よりも、業務内容や会社からどのような役割を求められているのか、という点を転職時に重視する傾向があります。
家庭生活においても、子供に手がかからなくなり、経済的にも比較的余裕がある場合が多いため、業務内容や役割さえ本人の希望に合致していれば、やりがいを持って定年まで安定的に働いてもらえるでしょう。
 また、「豊富な経験や知識を還元したい」という志向は、更に「現場の人材を成長させたい」か「会社を成長させたい」かの2つに分けることができます。前者は前述のタイプ1とタイプ2の方に多く、後者はタイプ3の方に多く見られます。

 
 このように、キャリアと志向を軸にタイプ分けすることにより、管理部門のシニア層の"人材像"を掴んでいただけたのではないでしょうか。

 

管理部門にシニア層を採用することによるメリット
 この章では、企業が管理部門にシニア層を採用する上でのメリットを、具体例を交えて解説し、前章で述べたタイプや志向との関連性についても触れていきます。
代表的なメリットとして、以下の2点を挙げることができます。

 

メリット1:シニア層から若手への教育を通じて、組織強化を実現できる

メリット2:シニア層は、勤務条件関して比較的柔軟な考えを持つため、企業側のニーズにマッチし易い

 

メリット1:シニア層から若手への教育を通じて、組織強化を実現できる
 まず、一番大きなメリットは若手を教育して組織を強化していくことができるということです。優秀な人材を外から集めるのも組織強化の方法の1つではあるものの、社内の理念共有や一体感を重視すると、時間をかけ「育てる」という発想が必要です。シニア層の採用を機に、教育の環境を整えることで、社員の定着率が上がる効果が期待できます。これは長期的には採用コストを抑えることにも繋がります。


 メリット1の具体例として、ベンチャー企業A社(以下A社)の採用事例をご紹介します。A社は従業員数が約100名という規模で、数年後にIPOを目指していたため、経理部門の強化が必須課題でした。当初、40歳位でIPO達成経験のある会計士を募集しましたが、採用は難航しました。
 そこでA社は採用方針を以下2点へ大きく転換しました
 ・数年後に定年退職を控えたシニア層を1名採用する
 ・今後スキルを身に付け、将来、経理部門を任せられるような若手を1名採用する
採用市場で、他社との競争率が相対的に低い層にターゲットを絞ることで、母集団形成を容易にしようと考えたのです。

 
 A社はまず経理部長として50代後半の男性を1名採用することに成功しました。前職で東証一部上場企業にて経理責任者として活躍していた方で、まさに前章で紹介した「パターン1:管理部門スペシャリスト」でした。
 数ヶ月の業務を通じてこのシニア男性に会社に慣れてもらった後に、1名の若手人材の採用活動を始めました。月次決算業務レベルの経験があれば、開示資料の作成等は経理部長が教えていくという条件で募集をかけたところ、多数の応募が集まり納得がいく形で30代前半の経理経験者を1名採用することができました。
 管理部門に従事する方にはスキルアップ志向が強い方が多いため、教育環境があり、キャリアビジョンも明確であったA社の求人は非常に魅力的に映ったと考えられます。実際にこの若手1名は、経理部長の熱心な指導により着々とスキルを身に付け、経理部長の定年退職までに、経理部門の強化が実現されました。
 このケースは、シニア層と若手、双方の志向をしっかりと掴み、自社の状況やニーズにもマッチした非常に合理的な採用事例と言えます。


メリット2:シニア層は、勤務条件に関して比較的柔軟な考えを持つため、企業側のニーズにマッチし易い
組織のマネジメントや、経営に関する相談といった目的で人材を雇用する場合、企業側からすれば、フルタイムでの就業が必要で無いこともあります。
例えば週に2日だけフルタイムで出社してもらう契約を交わすことにより、人件費の効率化を図ることも可能です。若手~中堅層にとっては、このような勤務条件は受け入れ難いものですが、シニア層は勤務条件に関して柔軟な考えをもつ方も多く、企業側のニーズとマッチし易いと言えます。この点も、シニア層ならではのメリットと言えます。

 

 メリット2の具体例として、外資系メーカーB社(以下B社)の事例をご紹介します。
 B社の日本支社長より、会計周りを整備したいということで当社へ人材の紹介依頼を頂いた際のことです。それまでB社は日本に積極的に進出する方針ではなく、日本支社の社員は数名に限られ、管理部門も十分な整備はされていませんでした。ところが本社の方針が一度積極的に日本に進出してみることに変更されたため、会計周りの採用ニーズが出てきたのです。
 この採用では、以下の懸念点がありました。
 ・今回の日本への積極的な進出は試験的な側面があり、長期的に進出する保証がない為必ずしも 長期的な雇用とならない可能性がある
 ・想定される業務量は決して多くはないため、高年収での採用は難しい
いずれも若手や中堅層にとって大きなネックになる上、無理に採用しても後々トラブルに発展する可能性が高く、採用は困難に思われました。
 そこで、当社はB社へターゲットをシニア層に絞ることを提案しました。長期雇用や、勤務条件にそれほど拘りがないシニア層の人材が適しており、採用の可能性があると判断した為です。
 実際にご紹介した方は語学力に長けた60代の方で、直近では30名ほどのベンチャー企業で管理部門責任者として就業していましたが、小さな組織だったこともあり、統括のみならず、実務もこなしていた、まさに先に挙げた「タイプ2:管理部門ゼネラリスト」に当てはまります。話し合いの上、年収は約300万円、週4日勤務で体制が整備された後は週2日勤務に移行するという条件で双方納得し、入社が決まりました。
企業側の難しいニーズに対し、シニア層の働き方に対する柔軟な志向がマッチしたことで、採用に成功した事例です。

 

採用時の注意点
 続いて、シニア層を採用するにあたって注意すべき点を、解説します。
 現在の転職市場では他世代と比較してシニア層の求職者数は非常に多く、一方でシニア層を対象とした求人は少なくなっています。そのため求人媒体で募集をかけると応募が殺到してしまい、選考に手間が取られ、人事担当者の他業務にまで支障をきたす恐れがあります。更に、自社のニーズにマッチする人材の応募が必ずしもあるとは限らず、募集広告費が無駄になってしまう可能性もあるなど、募集時には注意が必要です。
 時間・コスト共に、効率的な採用を実現するためには、人材紹介会社の活用が有効です。募集する人材に求める経験やスキル、勤務条件はもちろん、"自社の状況や課題"、など周辺情報も含めて人材紹介コンサルタントに相談し、共有することで、より適切な人材の紹介を受けることができます。
 

 経営者の中には、比較的若い人材で構成されている組織に、シニア層を採用する際に、以下のような心配を抱えられる方も少なくありません。
 ・既存社員が困惑してしまわないだろうか
 ・この組織で十分な力を発揮してもらえるのか
これらは選考時に注意を払い、工夫を加えることで十分に払拭することができます。
選考フローの変更は手段としてお勧めです。例えば、一般の中途採用フローが2回の面接(人事担当者と現場のマネージャーと1回、社長と1回)となっているならば、シニア層の場合は、面接回数を1回増やし、現場の社員(入社した場合に直下で働くことになる社員)との面談も実施すると良いでしょう。面談を通じてお互いに良いイメージが持てるかを確認すると有効です。さらに現場の社員数名とのランチや食事会をセッティングして、面接よりもフランクに話せる場を設けるのも効果的です。
また、先に述べたシニア層の人材の経歴のタイプや志向を理解した上で、自社の課題と照らし合わせて選考を進めることで、ミスマッチを未然に防ぐことが可能です。
これらの相談は人材紹介会社を利用していれば、全て担当コンサルタントに相談することが可能です。

 

助成金について
 ここで話題は少々変わりますが、国としてシニア層の採用を推進しているということをご存知でしょうか?このコラムの定義付けるシニア層よりも年齢層は高くなりますが、60歳以上の方を採用することにより助成金が支給される制度があります。最近ではテレビCMも放送されており、注目度も高まっています。今回はその1つである「特定求職者雇用開発助成金」について説明をします。
 「特定求職者雇用開発助成金」とは、人材紹介会社の紹介等により高年齢者(60歳以上65歳未満)、障害者等の就職が特に困難な者または緊急就職支援者を継続して雇用する労働者として雇い入れた事業主、および65歳以上の離職者を1年以上継続して雇用する労働者として雇い入れた事業主に対して賃金相当額の一部の助成を行う(厚生労働省HPより抜粋)というものです。
 例えば企業が60歳以上65歳未満の高年齢者を、週当たりの所定労働時間が30時間以上で雇用した場合は事業主に対して最大90万円が支給されます。また、週当たりの所定労働時間が20時間以上30時間未満の場合でも最大60万円が支給されます。さらに65歳以上の方を対象とした助成金制度もあります。こちらの支給額は2009年2月6日から増額されており、雇用情勢の悪化が取り沙汰されている今日、より一層の注目を集めています。
 その他、申請方法等の詳細については厚生労働省のHPをご覧下さい。
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/josei/kyufukin/c02-4.html
 

まとめ
 今回のコラムではベンチャー企業の管理部門における課題に対して、シニア層の採用が解決策の1つになり得るということを提案しました。シニア層の採用自体に不慣れであることから、何となく敬遠してしまい、機会損失をしてしまっている企業が、まだまだ沢山あるように感じています。
 当コラムを通じて、シニア層の採用と入社後の活用イメージを少しでも掴んでいただけたら幸いです。
多くのベンチャー企業が、シニア層を上手く活用することによって、しいては日本全体を活気付けることができるかもしれません。今一度シニア層の採用を検討されてはいかがでしょうか。

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