「BCP(Business Continuity Planning)」

第85回2012/02/16

「BCP(Business Continuity Planning)」


「BCP(Business Continuity Planning)」

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「BCP」という言葉、皆様はご存じでしょうか?
恐らく多くの方は「聞いたことがない」、もしくは「聞いたことはあるがあまりよく知らない」と答えるのではないでしょうか。
下記の表1をご覧いただけると明らかのように、東日本大震災の前(2011年3月)にBCPを策定していた企業は大企業・中堅企業・中小企業のいずれも半数に満たないのです。しかし近年では、このBCPの導入有無が企業の生き残りを大きく左右する時代になっていると言っても過言ではありません。それは、日本に大きな爪痕を残した東北地方太平洋沖地震や、600万ヘクタールが浸水したタイの洪水、世界各地で起きている暴動やテロリズム等が象徴するように、企業の事業継続を脅かすだけの自然災害・人災のリスクが日常に混在しているからなのです。
今回は『BCP』をテーマに、その概要や考え方についてお伝えしたいと思います。

 

▼震災前のBCPの策定状況(※表1)

85-1.jpg※(株)東京商工リサーチと東京海上日動リスクコンサルティング(株)が、東日本大震災において大きく被災した岩手県、宮城県、福島県、茨城県、栃木県に本社または事業拠点が所在する企業を対象に行った「BCPに関する調査結果」から抜粋


BCPとは
BCPとは「Business Continuity Planning」の略であり、日本語に直訳すると「事業継続計画」になります。このままでは少し広過ぎるので、中小企業庁の定める定義を参考してみます。中小企業庁では、BCPを「企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のこと」と定めています。つまりは、「事業の継続を脅かす事態を想定し、それに対して中核事業の継続もしくは早期復旧が可能となるために事前に計画すること」と言い換えられるでしょう。


BCP導入のメリット
では、BCPを導入することで得られるメリットを考えていきたいと思います。よりイメージしていただきやすくするためにも、過去に起きた緊急事態をいくつか挙げて検討したいと思います。
まず、2001年9月に起きたアメリカの同時多発テロの例です。このテロでは、約3000名の人命が失われ、また多くの企業がその影響を受けました。特に、航空業界は壊滅的な打撃を受け、テロに利用されたユナイテッド空港は一時経営破綻を適用されました。また、影響は米国だけに留まらず、サベナ・ベルギー空港やスイス空港といった他国の航空会社も経営破綻へと追いやられています。
次に、2011年3月11日に起きた東北地方太平洋沖地震ですが、ここでもやはり多くの企業・産業が壊滅的な状況へ追いやられました。地震や津波の影響を直接受けてしまった企業はもちろん、直接的な被害を受けていない企業でも、部品調達の難航や電力不足等の問題により、大きな損害を被りました。上場企業の特別損失は5兆円以上と言われており、震災発生から半年以内での経営破綻数は300社以上に上ると言われています。トヨタやHONDAといった世界でも指折りのメーカーでさえも、約1カ月間稼動できない工場があり、また稼働率が通常期に戻るまでには3カ月前後の時間を有しました。
BCPの導入意義は、上記のような被害を最小限に抑え、最短の期間で事業を回復させることにあります。実際に下記の表2を見ても明らかな通り、震災時にBCPを導入していた企業のうち、大企業では約9割が、中堅企業では約8割が、そして中小企業では100%の企業がBCPの機能を実感したと回答しています。また、機能した理由として多いのは、「危機管理体制が機能した」という回答が最も多く、次に重要業務の絞り込みや応用力の強化、復旧戦略が機能したという理由が続きます。つまり、BCPは従業員の安全を守ることはもちろん、事業の復旧スピードや、損害額を最小限に抑えることに貢献すると言えるでしょう。

 

▼BCPが機能したか(表2)

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▼BCPが機能した理由(表3)

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BCP計画時の考え方
次に具体的なBCPの導入を検討していきます。BCPを導入するにあたり忘れてはならない概念は大きく3つあります。それは、「脅威」、「影響と期間」、「優先順位」の3つの視点です。
まず、脅威に関しては、地震や台風、洪水、新型ウィルスの蔓延等の自然災害や、テロリズムやサイバーテロなどの人災等が考えられるでしょう。また、その脅威が「誰に」、または「何に」影響を及ぼすのかを検討します。
次に「影響と期間」です。大震災を例にとってみると、影響範囲として、従業員はもちろん、工場や建物、そして取引先も含めて被害に合い、様々な要素が事業の継続を脅かしました。また、最初の段階では情報網の乱れによる混乱や従業員の衣食住の確保が大きな問題となりましたが、徐々に放射能や電力不足、サプライチェーンの崩壊といった問題が次々に浮上してきました。
上記のように、脅威をピックアップし、影響範囲と時間の両軸で検討することにより、その都度「何を最も優先して行うべきか」という課題・目標、いわゆる「優先順位」が明確になります。被害発生時は想定以上の混乱が予想されるため、「あれも、これもやらなければならない」とパニックになりやすいため、最もやらなければならないことが何かという優先順位を、事前に明らかにしておく必要があります。


人事の立場から見るBCP
BCPが定める「中核事業の継続もしくは早期復旧」には、言うまでもなく従業員の力が必要となります。そのためには、BCP策定には人事部門の参加が不可欠であります。人事が果たすべき役割を大きく二つ挙げるとすれば、「従業員の安全確保」と「人員配置の最適化」です。
一つ目の「従業員の安全確保」は、言うまでもなく従業員やその家族の安全を確保することです。また、身体的な安全の確保だけでなく、本社や各工場・事業所の機能が失われたとしても、全従業員の連絡先はもちろん、保険契約のコピーなどの従業員の安全を確保する為に必要となる情報も失わないようにしなければなりません。二つ目は「人員配置の最適化」です。事前に脅威発生時を想定したチーム分けをすることや、その中でのリーダーを含めた各役割分担を決めなければなりません。例えば、情報網が混乱した事態を想定して、自宅が近い社員でチームを組ませ、安全確認や通勤経路を確保するなどの準備が必要です。
また、表4をご覧になっていただけるとわかるように、BCPはただ作成するだけではなく、シミュレーションの実施や定期的な見直しを行うことで機能性を増す傾向にあります。マニュアルを作成し各従業員に渡すだけでなく、日頃から災害が発生したと仮定した訓練を行う事や、定期的な見直しを徹底することも人事の役割として重要と言えるでしょう。

 

▼BCPが機能しなかった理由(表4)

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まとめ
世の中に蔓延する様々なリスクが、決して他人事とは言えない現代社会において、BCPの導入意義は今まさに必要不可欠のものとなっています。最悪の事態をどれだけ想定し、そうなってしまった場合にどれだけの準備ができているのかが、万が一の際の企業の存続を大きく左右するのです。数年後には関東地方に大きな損害を与える大震災が起きるとも言われています。事前に危機感を抱き、行動に移せた企業とそうでない企業では万が一の時に大きな差が出てしまうかもしれません。

 

<出典>
▼東京商工リサーチ
http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/2011/1214877_1903.html

▼震災発.com ~東日本大震災の経済データ集~
http://kobe117.ciao.jp/data/110311economy.html

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