「採用における時間外労働の注意点」

第115回2017/03/21

「採用における時間外労働の注意点」


「採用における時間外労働の注意点」

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活発な転職市場の中で明確化した様々な問題点

公共職業安定所(ハローワーク)の統計では、平成28年の平均有効求人倍率は1.36倍で、このうち正社員の有効求人倍率は0.86倍となりました。正社員の有効求人倍率は、平成21年度の0.26倍から上昇し、集計開始(平成17年度)以降過去最高水準となっております。

正社員求人の動向.png

上記からも見てわかる通り、平成20年に起きたリーマンショックの際に、一度大きな有効求人数の下降が見受けられますが、その後順調な回復を見せ、平成27年度には過去最高水準となりました。上記のとおり、企業の採用ニーズが活発化するのに比例して、転職成功者の数も年々増加傾向にあります。その反面、雇用時やご就業に関してのトラブルについて耳にする機会も増えています。
実際に、厚生労働省の統計によると、平成26年度の1年間に約103万件もの労働相談が寄せられており、件数だけで比較すると前年度比1.6%減ではあるものの、年間を通して100万件を超える労働相談が発生しており、「減少傾向=改善されている」と楽観視し難い高水準での推移となっています。情報化社会になり、従業員一人一人の個性の尊重がより重視されるようになった現代では、人事労務トラブルは避けて通れないものとなっています。トラブルの増加は、企業にとっては人事労務管理コストの増加を意味します。多くの従業員や退職者を相手に、種々雑多なトラブルに対処する必要が生じてくると、企業競争力を著しく低下させる恐れもあります。

上記の通り、求人数の増加に伴い様々な労務トラブルも深刻な問題となっておりますが、中途採用に不慣れで、労働原則に明るくない企業や採用担当者の方も多くいらっしゃるかと思います。そこで今回は、その中でも時間外労働に焦点を当てていきたいと思います。

労働に関する原則

弊社にご登録頂いている多くの求職者の方々が口にされる転職理由の一つとして、時間外労働の多さ、ワークライフバランスの改善が挙げられます。特に最近では、大手広告事業を行う企業における時間外労働に関するニュースが話題を独占した事もあり、労務管理の中でも時間外労働に関し、非常に興味が高まっております。
まずは、労働時間に関する定義や原則について見ていきましょう。

■労働時間とは?
そもそも労働時間とは、会社の指揮管理下にある、拘束されている時間のことをいいます。所定労働時間とは、就業規則や雇用契約書によって定められた労働時間のことをいいます。
使用者の指揮命令には、直接の指示だけでなく黙示の指示についても含みます。
長時間労働による事故の発生や過労死、うつ病などの発生を防止する為に、労働基準法では、以下のように労働時間の上限が定められています。

  (労働基準法第32条)労働時間

1 

使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。

2

  使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。


この1週間40時間・1日8時間という労働時間のことを「法定労働時間」と言います。
法定労働時間を超えて時間外労働や休日労働をさせる場合には、厳格な手続き(労働基準法第36条)と割増賃金の支払い(労働基準法第37条)が義務付けられています。

 労働時間とみなされる例
 労働時間とみなされない例

・昼休み中の電話当番の時間
・労働安全衛生法上の特殊健康診断の時間
・作業開始前の準備時間
・作業終了後の整理整頓の時間
・出席が義務付けられている教育訓練の時間
・電話や警報などに対応する義務のある仮眠時間
・作業着への着替えの時間

参加・出席が自由な研修や教育訓練
・一般健康診断
・会社の指揮・命令が及ばない移動時間(直行・直帰など)
  

 

■時間外労働または休日労働をさせようとする場合は36協定が必要
労働基準法では上記のとおり、1日および1週の労働時間並びに休日日数を定めていますが、同法第36条の規定により時間外労働・休日労働協定(いわゆる36協定)を締結し、労働基準監督署長に届出ることを要件として、法定労働時間を超える時間外労働および法定休日における休日労働を認めています。

■時間外労働・休日労働は必要最小限にとどめられるべきもの
しかし、労働基準法第36条は、時間外労働・休日労働を無制限に認める趣旨では無く、時間外労働・休日労働は必要最小限にとどめられるべきものであり、労使がこのことを十分意識したうえで36協定を締結する必要があります。

■割増賃金の支払い
時間外労働と休日労働については割増賃金の支払いが必要です。時間外労働の割増賃金の割増率は2割5分以上(月60時間を超える時間外労働については5割以上(中小企業は適用猶予))、休日労働の割増賃金の割増率は3割5分以上です。
法定上では上記のように基準を設けておりますが、割増賃金の割合をさらに高く設けている企業もあるようです。そのような企業ですと、時間外業務に対しての認識をしっかりと定めており、従業員を酷使せず良好な労働環境で、高い生産性を期待しているという裏付けにもなるかと思います。
※出典 厚生労働省ホームページ-時間外労働の限度に関する基準

上記のとおり、本来時間外労働に関しては、非常に細かく、限度時間まで法律で定められております。
特に最近では、年俸制の給与体系・変形労働時間制やフレックスタイム制の勤務体系など事業種類や職種によって様々な働き方がございますので、今後そのような制度を導入予定の企業は注意が必要です。
また、最近の労働に関する話題としては、経済産業省が新たな施策として定めた、【プレミアムフライデー】が各方面から注目を浴びています。
プレミアムフライデーとは、個人が幸せや楽しさを感じられる体験(買物や家族との外食、観光等)や、そのための時間の創出を促すことで、生活の充実を図り、消費行動を促進し、経済効果に寄与することを目的とした施策です。
こちらの施策は業種や職種によって導入の可否が分かれるため、賛否両論ある制度となっておりますが、会社によっては他にも様々なユニークな休暇制度を設けるなど、各社が趣向を凝らして従業員の労働環境への満足度を高めるよう努めています。
再度、自社で定めている労働時間に関しての概念が正当か否か、休日・休暇制度が従業員の労働環境への満足度を高めるような制度となっているか見直してみるのもいかがでしょうか。
自社の労働条件を見直すことで、企業として独創性や他社比較での優位性が明確化でき、そして新たな制度が創出されていきます。求職者にとって魅力的な企業に感じていただくための良い循環が産まれ、各方面への相乗効果もあるのではないでしょうか。

若者雇用促進法がもたらす採用時の注意点

さて、これまで労働に関して法的に定める内容を記載致しましたが、あくまで上記は一般的な労働時間に関しての考え方です。しかし、時間外労働に関しても様々な考え方がございます。
まず、わかりやすく法定労働時間=所定労働時間となっている企業ですと、1日8時間を超過して労働した場合には、すべて残業時間となり、割増賃金を支払う必要がございます。
次に固定残業代に関してですが、固定残業代はあくまで固定残業代に含む残業時間の割増賃金を加味して定め、その固定残業時間を超過した分の残業時間については、全て割増残業代を支払わなければなりません。こちらの固定残業代は数多くの企業が導入している制度でもあります。

また、近年、話題になっているブラック企業から青少年を守ることを目的として、法改正がなされました。固定残業代制を採用している企業は、固定残業代を除外した基本給の額、固定残業代に相当する残業時間や金額、その時間を超えて残業した場合に超過分を支払わなければならないという法律が定められています。
それが、若者雇用促進法(青少年の雇用の促進等に関する法律)です。
この法律は、少子化に伴い労働人口が減少する中、若者が安定した雇用の中で経験を積みながら職業能力を向上させ、働くことにやりがいを持って仕事に取り組める社会を築くことで、全員参加型社会の実現を図り、我が国全体の生産性の向上を図るうえで、ますます重要な課題となる、という認識のもと定められました。
上記の目的の下に制定された法律ですが、近年のブラック企業という言葉の流行や労働問題に関するニュースに平行して、新たな項目が設けられました。

若者雇用促進法の指針として、事業主は募集にあたり、賃金や労働時間などの労働条件を明示し、業務内容などを平易な言葉で的確に明示する必要があります。これは、就職してから「こんなはずじゃなかった」と、若者が離職することを防ぐことを目的としているようです。労働条件の中には、書面の交付などを行わなければならない事項があり、虚偽の条件表示などに対しては罰則があります。
さらに、前述しましたが、固定残業代を採用する場合には、その金額の算定の基礎として設定する労働時間数(固定労働時間)、固定残業代を除外した基本給の額、固定残業時間を超える時間外労働や休日労働、深夜労働分についての割増賃金を追加で支払うこと等を明示する必要があります。
上記は、事業主だけではなく採用に関与し、求人の取り扱いを行う弊社のような人材紹介会社・転職エージェントも注意を払わなければなりません。人材の募集を行う際に、エージェント経由でご応募する際に、転職エージェントからの事前情報として詳細を聞いていなかった、となった際にはエージェント、企業双方にてトラブルの基となる危険性がございます。

労働条件におけるトラブルを未然に防ぐために

それでは、上記のような労働条件におけるトラブルを防ぐためには、どのような対策をすればよいでしょうか。
普段、我々のような人材紹介会社で働く者は、業務以外の場で様々な方とお会いする機会も多く、従業員として会社から労働時間や時間外労働賃金に関する詳細の説明を受けていないケースや、人事の方で上記法律を認識していなかったケース、その他依頼をしているエージェントの担当者からリスクの説明が無かったというケースも多く耳にします。その中で、企業としても固定残業代を設けているものの、そこで定める詳細の固定残業代の内訳を把握されていない人事の方もいらっしゃったようです。
すでに法律上定められている事項となっているので、若者雇用促進法の詳細を把握し、固定残業代等に関し、対応する必要があります。
また、すでに従業員となっている方々に関しての社内アナウンスも同様に必要となります。

まとめ

各営業担当と情報交換を行いますが、やはり、労働条件に関する社内への認知活動や、法改正に関する対応、知識習得に関しては、まだまだ各社で差があるように見受けられます。
これは、各社より求人取扱いを受ける私たちのような人材紹介会社からの助言や、発信も重要であると考えます。採用時に大きなトラブルの素になりうる重要事項という認識を自分自身でも再認識し、人材紹介業者としてのミッションとして採用時におけるトラブルを無くすべく、改めて注意して活動を行おうと意識しました。
今回のコラムでご説明した内容については、各社における従業員や人事担当者によっては「就業規則として」程度でしか認知されていないかもしれませんが、しっかり理解しておかないと、採用時のミスマッチや思わぬタイミングでの大きなトラブルの基になってしまうかもしれません。
そういったリスクを防ぐためにも、これを機に再度考えてみてはいかがでしょうか。


<参考>

厚生労働省-一般職業紹介状況(平成28年12月分及び平成28年分)について
厚生労働省-一般職業紹介状況(平成21年12月分及び平成21年分)について
厚生労働省-労働市場分析レポート 第69号
厚生労働省-時間外労働の限度に関する基準
プレミアムフライデー事務局
経済産業省-プレミアムフライデーの実施方針・ロゴマークが決定しました

(文/リクルーティングアドバイザー 吉田裕伴)


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