弁護士は「食えない」「儲からない」って嘘?年収の実情などを解説
難関の司法試験を突破した人のみがなれる弁護士は、かつてはステータスだけでなく収入面でも花形なイメージの強い職業でした。
しかし、近年は一般的なサラリーマンよりも収入が少なく、苦しい状況にいる弁護士も一部で存在します。
今回は、格差が広がる弁護士の実情について紹介します。
弁護士は「食えない」「儲からない」と言われる背景
まず、なぜ現在「食えない弁護士」が問題になっているのでしょうか。
その理由を大きく三つに分けて検証してみます。
弁護士数の増加
これには国の司法制度改革が大きく影響しています。
この改革には、
(1)国民の期待にこたえる司法制度の構築
(2)司法制度を支える法曹の在り方
(3)国民的基盤の確立
という三つの柱が盛り込まれました。
その一環として、法曹人口を大幅に増やす方向に舵が切られ、新制度が導入された2006年以降、司法試験の合格者数は現在まで増加を続けています。
ただし、法曹三者のうち裁判官や検察官になれる人数は限られているため、必然的に弁護士になる人の数が増えました。
日本弁護士連合会(日弁連)によると、全国の弁護士数は2006年には2万2,021人でしたが、2022年には約2倍の4万4,101人にまで増加しています 。
弁護士の数が増えれば案件受注競争が激化し、個々の弁護士の収入が減少するほか、収入の格差が広がる開く傾向が強くなります。
収入の減少
また、「弁護士業務の経済基盤に関する実態調査2020」を分析すると、弁護士の収入そのものにも減少傾向が見られます。
10年ごとの年収推移を中央値で比較してみると、2000年の2,800万円と2010年の2,112万円に対して、2020年には1,437万円にまで減少しました。
特に若い世代での収入低下が目立ち、経験10年程度の66~69期の弁護士は中央値で900万円、経験5年程度の70期以降の弁護士は660万円となっています。
一方で労働時間の平均は、2010年の約2,269時間に対して、2020年には約2,321時間とやや増加しています。
労働時間が増えて収入が減るという、アンバランスな状況が続いているのです。
担当する案件の変化
弁護士が取り扱う案件の内容も、ここ20年間で大きな変化を見せています。
2000年代後半から、「過払い金返還請求」の案件が増加しました。
これは債務者が消費者金融に対して、払いすぎた利息の返還を求めるもので、弁護士のもとには多くの依頼が舞い込みました。
弁護士にとっては、あまり手間をかけずに高額な報酬が手に入る割りのいい仕事でしたが、2010年代に入ると一応の区切りがつき、過払い金バブルも収束に向かったのです。
同時に、2010年以降には裁判の件数が減少しているというデータもあります。
民事訴訟件数(地方裁判所)を比較すると、2011年は19万6,366件あったものが、2021年には13万860件にまで減少しています。
弁護士の数が増えた一方、仕事が減少してしまえば、収入にも大きな影響を与えるでしょう。
ここまで述べてきた理由以外に、景気の回復が進まない状況の中で、顧問先が減っていることも弁護士の収入源につながっているかもしれません。
調査に対して顧問先があると答えた弁護士の割合は、2000年には80.6%だったものが、2020年には57.5%にまで減少しています。
このように、弁護士と高収入というイメージは、現実には必ずしもイコールで結ばれるものではなく、収入面で厳しい状況に置かれている弁護士も少なくないのです。
弁護士内で年収に格差が生まれた理由は?
では、弁護士の格差はどこで生まれているのでしょうか。
司法修習を終えた弁護士志望者は、法律事務所に就職して先輩の下で実務を学ぶ道が一般的ですが、志望者が増えすぎて就職できない人が現れている問題があります。
志望者同士での競争の激化に加えて、弁護士事務所側も採用に消極的になっています。
これは東京や大阪といった都市部だけではなく、地方で就職を目指す人にとっても深刻な課題です。
就職活動に失敗した人の中には、司法修習を終えていきなり開業する、いわゆる「即独」の道を歩む人もいます。
しかし、独立して事務所を構えるにはまとまった開業資金や当面の運転資金が必要になります。
それに、実務経験がゼロでいきなり案件を受注して仕事を軌道に乗せることは難しく、経済的に苦しい状況に陥りやすいといえます。
「食える弁護士」になるためには、まずは就職活動で明暗が分かれるのです。
弁護士の将来性って実際どうなの?
弁護士の仕事の将来性
弁護士を取り巻く社会状況も、ここ数年で大きな変化を見せています。
まず仕事の内容に関しては新しい業務が増え、その上で業務の細分化も進んでいます。
以前は裁判所というイメージが強かった弁護士ですが、近年は法務全般のスペシャリストとして、企業経営にも欠かせない存在になっています。
たとえばM&Aや企業再生では、契約などに関する高度な知識を駆使して、経営戦略の一翼を担っています。
専門性の高さでは金融法務や、知的財産権の管理業務なども同様です。
また、ビジネスのグローバル化がいっそう進むことにより、企業にとっては法務の重要性がさらに高まっています。
今後も継続的に、企業法務に関わる業務は増加するでしょう。
弁護士を脅かす?AIの進出
その一方で、弁護士の仕事にもAIが進出するという予測があります。
たしかに公認会計士のように専門性が高い仕事でも、部分的にAIによる業務代行が進むといわれています。
しかし、電子化できる業務は、あくまでも全体の一部です。
弁護士の業務には、相手との交渉やコミュニケーションが必要なものが非常に多く、現状では単純作業が中心のAIでは代替できません。
弁護士は高度な知識を活かしながら、同時に感覚的な分析能力や判断能力も求められます。
現状ではこうした業務はAIには事実上不可能でしょう。
AIに仕事を奪われる不安が大きいようなら、前述したように専門性の高い業務を開拓するという方法もあります。
いずれにしても、AIには代われないような業務を増やしておけば、今後AIが進歩しても脅威にはならないはずです。
そもそも弁護士が介入するトラブルは、人と人との間のさまざまな利害関係が絡み、きっちりと白黒をつけられるものではありません。
たとえば離婚や相続の問題などは、関係者全員が納得できる裁定を下すことは極めて困難です。
しかもこうした問題は、今後増えることはあっても減ることはないでしょう。
つまりこれからも、弁護士が扱うべきトラブルはなくならないということです。
むしろ社会の変化に合わせて、弁護士が関わる業務が増えることも考えられます。
ただし、弁護士の数が増加しているのは事実なので、「食える弁護士」になるには、周囲との差別化を図ったり、独自の強みをもったりすることが求められるでしょう。
それができないと、逆に「食えない弁護士」になる可能性があるので要注意です。
「食える弁護士」になるためには?
では、「食える弁護士」になるためにはどうすればいいのでしょうか。
バリバリ働いて1年目から高額収入を得たい人は、弁護士業界でトップクラスを誇る五大法律事務所への就職を目指す方法があります。
当然、報酬に見合う働きぶりが求められ、連日深夜まで仕事中心の生活となるでしょう。
各事務所とも異なる得意分野や風土があるため、自分の目指す方向性や適性に合った事務所を選んでスキルアップに励めることもメリットです。
一方、近年は若い世代を中心に「高額な報酬は魅力的だけれど、家庭や趣味などプライベートを犠牲にしたくない」というワーク・ライフ・バランス重視派が増えています。
弁護士業界も同様で、このようなタイプが選ぶ「ある程度食えて安定している」道として「企業内弁護士(組織内弁護士)」が注目を集めています。
企業内弁護士は、顧問弁護士とは違って組織の一員(社員や公務員)という立場になり、商社・銀行・証券会社などの企業や国・自治体でコンプライアンスや訴訟に関する業務を担うものです。
企業内弁護士のうち約68%を弁護士経験10年未満の若手が占めています 。
収入面では、事務所に所属する一般的な弁護士よりも少ない傾向はありますが、「残業が少なく休日も確保しやすい」という働きやすさが魅力です。
競争が激化した弁護士業界で、安定した収入を確保しつつ時間のゆとりも手に入る進路として、今後さらに注目を集めていきそうです。
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弁護士の求人例
ここで、MS-Japanが紹介する求人情報の中から、弁護士および法務関連の案件を三つ紹介します。
想定年収や仕事内容などの要件を参考にしてください。
上場薬品製薬会社メーカー で法務スタッフの求人です!
仕事内容 |
・契約書審査と作成 ・契約交渉の支援 ・法令調査 ・社内法務教育 など |
必要な経験・能力 |
・法学系学士または修士課程修了 ・企業または法律事務所での実務経験 |
想定年収 |
630万円~1,100万円 |
東証スタンダード上場企業より法務求人です
仕事内容 |
・契約書作成と審査 ・社内での業務関連法律相談 ・プロジェクト案件法務サポート(M&A、企業編) など |
必要な経験・能力 |
・弁護士有資格者(一般民事のみ可) ・法務実務経験者 |
想定年収 |
500万円~750万円 |
訴訟や企業の危機管理に強みを持った企業法務系事務所で弁護士の募集
仕事内容 |
・第三者委員危機管理 ・社内調査 ・第三者委員会調査 ・コンプライアンス ・内部統制 など法務全般 |
必要な経験・能力 |
・弁護士有資格者 |
想定年収 |
750万円~850万円 |
まとめ
「弁護士は食えない」といわれるようになった根本的な原因は、司法制度改革によって弁護士全体の数が増えたことにあると考えられます。
仕事の量が変わらない中で、仕事に就く人の数が増えれば、それぞれの収入が減るという単純な推測です。
しかし国際的な比較で見ると、日本国内の弁護士数は、特にアメリカやヨーロッパ諸国に比べてかなり少ないのが現状です。
以前が少なすぎたのであり、現在でもまだ適正な数とはいえないでしょう。
さらに、ビジネス界での法務は増加傾向にあり、企業は新しい業務で法務の専門家を求めています。
弁護士は食えないという噂を払拭し、「食える弁護士」になるためにも、積極的に業務開拓を行い、業務の幅を広げる必要があります。
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この記事を監修したキャリアアドバイザー
大学卒業後、大手信用金庫に入庫。個人・法人営業及びビジネスマッチング等に従事。
MS-Japanに入社後は、横浜支社の立ち上げに加え、経理・人事・法務・経営企画・公認会計士・税理士等、幅広い職種のマッチングに従事。
2021年より東京本社へ異動後は、公認会計士・税理士・弁護士・社労士等の士業を専門とするJ事業部の管理職を務める傍らプレイヤーとしても従事。
会計事務所・監査法人 ・ 公認会計士 ・ 税理士 ・ 税理士科目合格 ・ USCPA を専門領域として、これまで数多くのご支援実績がございます。管理部門・士業に特化したMS-Japanだから分かる業界・転職情報を日々更新中です!本記事を通して転職をお考えの方は是非一度ご相談下さい!
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